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運動器系の疾患/筋肉の疾患

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筋肉の疾患

運動不耐性

運動を嫌がったり、長時間の運動が出来ない、という主訴で来院されます。運動不耐性は、整形疾患、循環器系の疾患呼吸器系の疾患、血液疾患、内分泌・代謝系の疾患神経系の疾患、神経筋接合部での疾患や筋肉の疾患で起こります。

運動不耐性の犬を評価するときは、細かい身体検査と神経学的検査を行います。筋の萎縮や疼痛、正常な姿勢で休息時に脱力があれば、筋疾患が示唆されます。関節の疼痛を示すと、多発性関節炎や変性性関節疾患が疑われます。

心臓の聴診での異常や動脈の脈拍からは、心臓の異常が考えられます。血液検査、尿検査や胸部X線検査を行って評価します。

安静時の検査がすべて正常ならば、運動不耐性と関連する動き・運動に関する評価が必要になります。特徴的な症状として、脱力、喘鳴、不整脈があると、診断の手掛かりになります。症状によっては、アセチルコリン受容体に対する自己抗体や24時間心電図の計測、甲状腺や副腎の機能検査、電解質や血糖値の測定を行うこともあります。神経学的検査とその他の検査の結果、運動不耐性が筋疾患を示唆するのであれば、筋生検を行う必要が出てきます。

運動誘発性虚脱を示す遺伝的な疾患が、ラブラドール・レトリバーで報告されています。安静時や中程度の運動では正常ですが、興奮したり、激しい運動では、運動失調と後肢の脱力や虚脱を認める疾患です。虚脱時は、高体温で過呼吸になりますが、検査所見に大きな変化はみられません。筋生検も正常です。膝蓋腱反射が消失して、平衡感覚を失います。多くは10~20分程度で回復して、後遺症もなく過ごすのですが、中には虚脱発作で死亡する症例もあります。運動制限を行えば、寿命に影響は与えません。

炎症性筋症

 咀嚼筋炎

犬の咀嚼筋だけを侵す免疫介在性疾患です。咀嚼筋は、四肢の筋になり特殊な筋線維(2M型)からなっていて、咀嚼筋炎では、筋線維の特異ミオシン成分に対してIgGが結合します。大型犬種に起こることが多くて、猫では報告はありません。

症状
急性型では、側頭筋と咬筋に、疼痛を伴う腫脹がみられます。発熱、下顎リンパ・浅頸リンパの腫脹、扁桃炎が存在することもあります。食べることを嫌がって、元気消失を示します。痛みがあるので、触診や口を開けさせることに対して抵抗します。

進行すると、側頭筋と咬筋に重度な萎縮が起こって、頭部の骨の外観が明瞭になります。萎縮すると、口を開けることに対して抵抗を示さなくなりますが、咀嚼筋の萎縮と線維化で、開口範囲が狭くなります。

眼球が、筋量が大きく喪失されるので、眼窩に落ち込みます。

診断
症状に基づいて仮診断します。鑑別には、眼球後部の膿瘍や腫瘤、歯牙疾患、側頭下顎骨の関節の異常に考慮が必要です。慢性例では、三叉神経の異常や、播種性多発性筋炎、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症による筋の萎縮とも鑑別を行いましょう。

血液検査では、軽度な貧血と好中球の増加があります。血清クレアチンキナーゼ(CK)、ASTが上昇します。蛋白尿が時々みられます。確定診断は、筋生検による組織学的検査が必要です。2M型筋線維に結合している抗体を検出するための免疫染色を行って評価します。

治療と予後
プレドニゾロン(1~2mg/kg、経口、BID)の投与が、急性期の疼痛を軽減しますし、慢性期の犬の開口を可能にします。投与3週後に、ステロイドを減量して(1mg/kg、SID)、そこから徐々に4~6ヶ月をかけて、可能な限り、漸減します。治療期間が不十分であると、再発の危険があります。

ステロイドに反応しない症例や減量すると再発する症例には、アザチオプリン(商品名:イムラン、2mg/kg、経口)の投与など、他の免疫抑制剤が有効です。積極的な治療で、予後良好です。

下顎の運動性や不快感、CKのモニタリングなど、ステロイドの減量に際しては、評価を行っておくことが必要です。生涯にわたる治療が必要になる場合もあります。顎関節を麻酔して、繊維組織と筋肉を伸ばすために、力を加えて伸ばす処置は、筋線維の裂傷による炎症を増強することや、脱臼や骨折も起こりうるので、止めましょう。過去の無謀な治療法です。

 外眼筋炎

急性の眼球突出を呈する筋炎です。大型犬種の若齢犬に後発しますが、発症率は高くありません。両側の眼球突出と眼瞼の後引が一般的な症状です。視覚が減弱します。血清CK濃度は正常です。

エコー検査を行うと、腫脹した外眼筋が確認されて、眼球後部の膿瘍や腫瘤が除外されます。治療は、咀嚼筋炎と同じで、予後も悪くなく、回復します。

 特発性多発性筋炎

特発性多発性筋炎は、自己免疫異常によるものと推測されている骨格筋のび慢性炎症です。大型の成犬に罹患しやすい傾向があります。

症状
脱力と運動で強調される強張った竹馬で歩いているような歩行がみられます。疼痛はあったりなかったりです。筋萎縮がみられることもあります。巨大食道症の結果として吐出がみられたり、嚥下困難や過剰な流涎、か細い吠え方をします。初期は間欠的に症状がみられます。急性の重症例では、発熱や全身性の疼痛で苦しむ様子が伺えます。

神経学的には、脊髄反射や精神的なものに異常は認められません。特に、筋萎縮が顕著で、側頭筋と咬筋が激しく侵されます。

診断
症状とCK値、筋電図や筋生検から診断します。血清CKが大きく上昇して、AST濃度も高くなります。運動後に測定すると、さらに劇的に上昇します。

病理組織学的検査では、1型と2型の筋線維の多発性壊死と食細胞の崩壊、血管周囲のリンパ球形質細胞浸潤、筋再生と筋線維の線維化が認められます。特発性多発性筋炎は、特発性の免疫介在性として発生するか、全身性エリテマトーデス、原虫感染、全身性の腫瘍に伴って二次的に発生します。なので、血液検査、滑膜液検査、尿検査、抗核抗体、原虫血清検査、筋生検標本の免疫組織学的検査を行うべきです。

胸部X線検査と腹部エコー検査も、腫瘍や巨大食道症、誤嚥性肺炎の有無を確認するために実施すべきです。リンパ節、脾臓、肝臓の吸引生検と骨髄生検も、リンパ腫が診断できますので、行うべきです。リンパ腫は、特発性多発性筋炎に関係します。

治療
プレドニゾロンを、1~2mg/kg、BID、14日間投与し、その後の14日間はSIDで投与、その後は隔日投与によって劇的な症状の改善と回復が認められます。プレドニゾロンは、少なくとも4~6週間は漸減しながら継続して、1年ぐらい続ける必要があります。プレドニゾロンに対する反応が悪い場合は、アザチオプリンを使用します。

巨大食道症では、少量の食事を立たせながら食べさせて、誤嚥を防止します。誤嚥性肺炎が起きたら、抗生物質で治療します。

 猫の特発性多発性筋炎

稀に、猫にも犬の特発性多発性筋炎に類似した、骨格筋の後天性炎症性疾患が発症します。罹患した猫は、顕著に頸部を腹側に屈曲して、飛び上がれなかったり、短い距離を歩くにも座り込んだり、横臥する傾向を示して、突然の衰弱を呈します。筋肉の疼痛があるようですが、神経学的検査は、正常です。

診断には、犬と同様に、症状とCK値、AST値を元に判断していきますが、多くの猫は、低カリウム血症を呈します。猫の特発性多発性筋炎の症状は、チアミン欠乏症にも類似しているので、検査を実施する前には、チアミン(10~20mg/kg/日、im)の補充に対する反応や低カリウム血症を補正する治療を行っておく方がいいと思います。

FeLV・FIVの検査と、トキソプラズマ抗体の検査を行います。薬物誘発性の特発性多発性筋炎の可能性を考えるために、問診が重要です。胸部・腹部X線検査やエコー検査を行って、腫瘍病変の有無を確認しましょう。筋生検では、壊死と食細胞壊死、筋肉の再生、筋線維の太さの不ぞろい、リンパ球性炎症、線維化が明らかになります。

トキソプラズマ性筋炎に対する経験的な治療が推奨されて、クリンダマイシン(15~25mg/kg、経口、BID)を投与してみて、劇的な反応がみられるなら、さらに治療を6週間、継続します。しかしながら、特発性多発性筋炎の猫では、1/3程度の症例で、自然寛解・治癒することを認識しておきましょう。プレドニゾロン(4~6mg/kg/日)による治療は、回復の助けになります。回復状況を見ながら、2ヶ月かけて漸減してください。

一般的に、再発します。

 皮膚筋炎

皮膚炎と多発性筋炎によって特徴づけられる、稀な疾患です。家族性の皮膚筋炎が、コリーやシェルティで散発的にみられます。猫では見られていません。遺伝的な要因があるので、確定診断された犬は、繁殖には供さないようにしましょう。

皮膚病変は、耳介内側面や外傷を受けやすい頭部や、皮膚表面における紅斑、潰瘍、痂皮、鱗屑、脱毛があります。軽度の瘙痒感もあります。

病理組織学的には、基底細胞の水腫様変性と表皮真皮結合部の分離が認められます。血管周囲に単核球浸潤も認められます。皮膚病変は、生後3ヶ月齢に現れて、時間とともに進行と改善を繰り返します。寛解と増悪を繰り返すこともあります。

皮膚筋炎に重度に侵された犬は、筋疾患の症状も併発します。全身の筋の脱力、筋萎縮、顔面の麻痺、顎筋の筋緊張低下、竹馬様の歩行があります。神経学的な検査は、正常です。通常、嚥下困難がみられて、巨大食道症の結果として吐出もみられます。筋生検では、単核球の浸潤、萎縮、再生、線維化を伴う筋線維の壊死がみられます。

治療
ステロイドの免疫抑制量で治療しますが、反応はまちまちです。皮膚病変は、テトラサイクリン系の抗生物質投与に反応する場合もあります。

 原虫性筋炎

トキソプラズマやネオスポーラによる筋炎があります。脊髄炎や髄膜炎、多発性神経根炎を併発することもあります。症状には、筋肉の疼痛、腫脹、萎縮や脱力がみられます。検査では、CKやAST活性が上昇します。筋生検では、単核球による炎症反応があって、原虫が確認されることもあります。病原虫の抗体価や免疫染色を行うと、原虫が特定されて、原因もはっきりします。

クリンダマイシン(15~25mg/kg、経口、BID)の14日間投与で改善しますが、より長期間の投与(4~6週間)が推奨されています。

後天性代謝性筋炎

感染や炎症性疾患に関連する筋症に加えて、副腎皮質機能亢進症、ステロイドの過剰投与、甲状腺機能低下症によっても筋症が発生します。猫では、低カリウム血症に関わる筋症が知られています。

 グルココルチコイド過剰症

グルココルチコイドの過剰は、変性性筋症の原因になります。自然発生の副腎皮質機能亢進症やステロイドの過剰投与が原因となります。症状は、筋萎縮です。ときおり、四肢が硬直して、木馬のような歩様になって、過伸展が起こります。

ステロイドの投与履歴を確認して、症状で多飲・多尿、脱毛、腹部膨満、皮膚の菲薄化があれば、過去を含めてステロイドが過剰投与されていると考えられます。筋生検では、非特異的な変化しか見られません。2型線維の萎縮、巣状性の壊死、筋線維の太さのばらつき、などです。疑いがあれば、副腎皮質機能亢進症の診断検査に基づいて検査を行って、確定診断しましょう。

L-カルニチンやコエンザイムQ10、リボフラビンなどのサプリメントが筋力を高めてくれますが、予後は悪く、完全な寛解は期待できません。

 甲状腺機能低下症

甲状腺機能の低下は、軽度の筋症に関連していて、虚脱、筋萎縮、運動耐性の低下を引き起こします。脊髄反射は、多発性神経症の併発がなければ、正常です。生検所見は、軽度の2型線維の萎縮を示します。

 低カリウム血症性多発性筋症(猫)

食事量の低下やカリウムの尿への排泄増加に関連する多発性筋症が、品種・年齢・性別を問わずに、猫で認められています。慢性腎不全の猫や、酸性化食を食べている猫で起こりやすいのですが、甲状腺機能亢進症に続発する多飲・多尿の猫や、原因不明に食欲不振を示している猫でも危険性があります。

特徴的な症状として、持続的な頸部の腹側への屈曲がみられます。急性で散発的です。その他では、強張った竹馬様歩行と、動きたがらないという状態になります。疼痛を示しますが、神経学的には正常です。

血清CK活性が高く、血清カリウム濃度の低下と尿中排泄が増加しています。多くの猫は、腎機能が低下してて、BUNとクレアチニンの高値が認められます。低カリウム血症が、尿の濃縮機序を阻害するために、腎血流量と糸球体濾過率を低下させるので、厄介です。

治療
カリウムの投与で解決します。症状が軽度なら、グルコン酸カリウム(2.5~5mEq/Head、BID2日間、その後SID)の経口投与が推奨されます。血清カリウム濃度によって、投与量を調節します。

重度の低カリウム血症(2.5mEq/L以下)や、呼吸障害を引き起こすような筋虚弱を伴う場合は、乳酸リンゲル液の非経口的な投与が必要で、塩化カリウム(80mEq/L)を添加して、静脈内か皮下投与で補給します。塩化カリウムの静脈内投与では、0.5mEq/kg/時を超えないようにしましょう。

長期的に、グルコン酸カリウムの経口補給が必要になります。定期的に血清カリウム濃度を測定しておくことが推奨されます。

遺伝性筋症

 筋ジストロフィー

筋ジストロフィーは、遺伝的な変性性非炎症性筋疾患の一つです。犬の筋ジストロフィーの多くは、ディストロフィン遺伝子の遺伝子変異によって細胞骨格蛋白のディストロフィンの欠損によって生じます。ディストロフィン遺伝子は、X染色体に位置していて、筋ジストロフィーはX染色体連鎖劣性遺伝となって雄犬に発生して、雌犬では無症状のまま伝播されます。

X染色体連鎖筋ジストロフィーの犬は、生後直後から症状を呈します。ゴールデン・レトリバーの筋ジストロフィーがよく報告されています。罹患した雄犬は、すべて同じ遺伝的病変を伴っているにも関わらず、同腹子の症状はさまざまです。子犬は離乳前から発育不良で、肘の外転、うさぎ跳びのような歩様をして、開口困難が認められます。時間の経過とともに、進行性の硬直した歩様、運動不耐性、蹠行姿勢、体幹筋、四肢の筋肉、側頭筋の萎縮が発現して、筋拘縮が生じます。生後6ヶ月齢までに、筋緊張の悪化が生じて、その頃から症状は安定します。固有受容感覚や脊髄反射は正常ですが、筋肉の線維化や関節の拘縮が起きた場合には、脊髄反射を誘発するのは難しくなります。重度の症例は、咽頭や食道の機能不全も発現します。心不全を生じる症例もあります。

好発犬種で典型的な筋ジストロフィーの症状がみられたら疑いましょう。CK値は、1週で著しく増加して、6~8週齢で最大になります。運動後には、極めて劇的なCK値の増加が認められます。筋電図を取ると、10週齢までに、ほとんどの筋肉で偽ミオトニー放電が認められます。生検では、筋線維の太さが著しく異なっていて、壊死および多巣性の筋線維の石灰化を伴う再生が明瞭になります。免疫染色を行うと、筋線維鞘のジストロフィン蛋白の欠如が示されます。

効果的な治療法はありません。

X染色体連鎖遺伝性筋ジストロフィーは、猫でも報告されていて、猫は5~6ヶ月で発症します。全身性の著しい筋肉肥大、舌の突出、過剰な唾液分泌、うさぎ跳び様の歩様を示すのが特徴です。巨大食道症がよくみられます。CKも著しく上昇しています。

 中心核筋症(ラブラドール・レトリバー)

中心核筋症は、ラブラドール・レトリバーで好発する遺伝疾患で、常染色体劣性遺伝による2型筋線維の欠損です。産まれたときは正常なんですが、3~5ヶ月齢で、筋肉の脱力、ぎこちない足取り、運動不耐性と疼痛を伴わない筋萎縮が顕在化してきます。重症例は、頭が下がって、歩幅の狭い竹馬歩行を示します。背中が弓なりになって、運動時にうさぎ跳び歩行が発現します。筋萎縮が顕著で、とくに四肢の近位の筋肉や咀嚼筋で目立ちます。

神経学的検査は、膝蓋腱反射の低下や消失です。それ以外は正常です。吐出の原因となる巨大食道症が時折みられます。

ストレス、運動負荷、興奮や寒冷環境で、症状が悪化します。筋肉の脱力や萎縮は、徐々に進行しますが、中には発病後1~2ヶ月で横臥状態になってしまう症例もあります。症状が軽い犬は、1年ぐらいすると、症状は安定します。CK値は軽度な上昇を認めるのみです。病理組織学的には、筋線維の太さがさまざまな状態になって、萎縮性の1型線維と2型線維、1型筋線維に対しての2型筋線維の優位な置換、筋細胞内の核の著しい中心化、が特徴です。

有効な治療法はないですが、軽症なら普通に生活できます。

 筋緊張症(ミオトニア)

筋緊張(ミオトニー)は、随意運動や刺激後に持続する筋肉の不随意的収縮が原因です。これは、筋肉の細胞膜における興奮後の脱分極と収縮を持続させる塩素イオンの伝導性の変化によって生じます。

症状は、全身性の筋肉の硬直と、2~6ヶ月齢からの筋肉肥大です。神経学的には正常です。寒冷気候、興奮、運動負荷によって症状が悪化します。罹患犬は、横臥位にされると、30秒程度、硬直したままになります。CKやAST活性が上昇していて、筋線維の壊死が示唆されます。

プロカインアミド(10~30mg/kg、経口、BID)やフェニトイン(20~30mg/kg、経口、BID)、ナトリウムチャネル遮断薬(メキシレチン、8mg/kg、経口、BID)などの膜安定化剤の投与が有効な症例もあります。多くの犬は症状が重篤で、安楽死が選択されます。

 遺伝性代謝性筋症

骨格筋エネルギー系の生化学的欠損が遺伝的にあって、結果として筋肉の能力が十分に発揮できないことになります。筋肉の機能不全(運動不耐性)、筋肉の虚弱、強ばった竹馬様歩行、筋肉の疼痛、振戦、萎縮が認められます。

代謝性筋症の正確な原因の確定は、生化学的な異常が広範囲にわたることと、筋線維を作り出す全ての構造蛋白が原因になるので、非常に困難です。疾病としては、ミトコンドリア筋症、グリコーゲン貯蔵病、脂質蓄積筋症、筋線維内のネマリン桿状体蓄積によって起こる疾病が知られています。

代謝性の検査や筋生検で、ミトコンドリア筋症や脂質蓄積筋症が示唆されたら、L-カルニチン(50mg/kg、BID)、コエンザイムQ10(100mg/Head、SID)、リボフラビン(100gm/Head、SID)の経口投与で、筋力の増強改善がもたらされることがあるようです。

筋緊張における不随意性変化

筋強直(テタニー)、後弓反張、ミオクローヌス、ジスキネジーは筋疾患ではないのですが、筋緊張の不随意的な変化です。テタニーは筋肉の持続した強直性の収縮です。後弓反張は、四肢や頸部の筋肉が痙攣を起こして、頸部の背側への屈曲と四肢伸筋の固縮を生じて横臥する重度な筋硬直です。ミオクローヌスは、ある筋群が律動的に反復収縮を呈するものです。

 後弓反張と破傷風

筋強直と後弓反張に関連した意識の消失は、感染、外傷、腫瘍が原因で起こる重度な脳幹疾患の犬や猫でみられます。意識状態の変化がない後弓反張と筋強直は、小脳吻側部の外傷や破傷風菌の感染でみられます。

破傷風菌は、芽胞を形成して、環境中で長期間維持されるグラム陽性、嫌気性菌です。深部の傷や組織損傷部に芽胞が侵入して汚染されると、芽胞は嫌気的に栄養型に変わって、毒素を産生します(破傷風テタニー)。

毒素は末梢神経から脊髄へ上向して、抑制性介在ニューロン(レンショー細胞)からの神経伝達物質の放出を阻害するために、伸筋が抑制から開放されて、結果として筋強直(テタニー)が生じます。

感染初期、もしくは軽度の感染では、強直した歩行、耳介の起立、尻尾が伸展して持ち上がった状態になったり、顔面筋の収縮がみられます。多くの場合、毒素が産生されている場所の近辺で、最初に症状が重篤になります。

重症になると、犬は横臥位になって、四肢の伸筋硬直と後弓反張を呈します。呼吸不全で最終的には、死亡してしまいます。猫は、毒素に対して抵抗性が強いので、疾患自体が起こりません。

治療は、安静、速やかな外傷の壊死組織の切除、抗生物質の投与を行い、集中看護を行います。抗生物質は、2週間もしくは症状が改善するまで継続して投与します。ペニシリンやメトロニダゾールを投与します。日本では、破傷風はまずないので、抗毒素は簡単に手に入りませんが、あれば、皮内反応を見た上で投与すると効果的です。

痙攣に対しては、静かな暗室で過ごすようにさせた上で、ジアゼパム(0.5~1mg/kg)とクロルプロマジン(0.5mg/kg、iv)もしくはアセプロマジン(0.1~0.2mg/kg、im)で管理します。必要であれば、フェノバルビタール(2mg/kg)も投与します。

食事を自分で摂ることができないはずなので、しばらくは経鼻カテーテルや胃瘻チューブが必要になります。状態によっては、導尿による尿排泄と、浣腸による排便管理も必要です。集中管理で1週間以内に回復が見込めるはずですが、3~4週間を要することもあります。急速に症状が進行する場合は、予後不良です。

 ミオクローヌス

筋肉の一部、または一つの筋肉が、1分間に60回程度の律動で反復して収縮する疾患です。この律動的な収縮は、睡眠時や全身麻酔下においても治まりません。四肢と顔面の筋肉が最もよく侵される筋肉です。

ジステンパー脳炎を関連していることもありますが、脊髄の局所性炎症や腫瘍によっても発生することがあります。予後は、期待できるものではありません。

家族性反射性ミオクローヌスは、ラブラドール・レトリバーが好発犬種で、4~6週齢で起こります。症状は、散発的に起こる後弓反張を伴う体幹と四肢の筋肉の間欠的痙攣です。ストレスや興奮で悪化します。

治療には、ジアゼパムなどを用いて試みられていますが、効果は少なく、予後も厳しいものがあります。