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運動器系の疾患/関節の疾患

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関節の疾患

関節疾患の動物は、跛行や歩様の異常の主訴で来院します。外傷性、成長性の関節疾患では、跛行は1肢に現れるのみで、一貫して同一の1肢に跛行がみられます。複数の関節が異常な場合には、跛行を示す患肢が変わることも多いのが特徴です。

関節疾患の分類

非炎症性炎症性
 成長性
 退行性
 外傷性
 腫瘍性
 感染性
 非感染性(免疫介在性)
   非びらん性
   びらん性

退行性関節症(DJD)は、典型的な症状として慢性的な軽度の不快感のために、跛行や運動不耐性がみられますが、全身的な疾患はみられません。多発性関節炎に関連した疼痛はより重篤で、歩行を嫌がったり、動かしたり触ったりしたときに、鳴くことがあります。多発性関節炎の中には、明らかな跛行がなくて、食欲不振、衰弱、発熱などの非特異的で漠然とした主訴で来院することもあって、これは要注意です。回帰性の発熱や非特異的な炎症の原因として、最も高頻度にみられる疾患ですので。関節痛や関節の腫脹もみられないので、非特異的な症状を示している症例では、多発性関節炎を疑ってみることが重要です。

 診断アプローチ

非特異的な疼痛、跛行、運動を嫌がる動物や原因不明の発熱を呈する動物は、疼痛や炎症の部位を特定するために、慎重な検査が必要です。姿勢や歩様を観察して、脊椎、四肢の筋、骨、関節を触診して動かしてみることが重要です。

外傷、汎骨炎、肥大性骨異栄養症、骨髄炎、骨腫瘍によって跛行を呈している場合は、骨の触診で疼痛を示すことがあります。筋炎や挫傷・捻挫では、その筋肉を触ると疼痛が生じるので、怒って咬んできます。頸部の触診や頸部を動かすことによって疼痛がみられる場合は、種々の脊髄疾患や椎骨の異常、頭蓋内疾患、髄膜炎、多発性関節炎が示唆されます。椎体が向き合う関節面の炎症は、頸部、背部の疼痛として症状が発現します。

多発性関節炎の動物によっては、関節を動かしたときに、明らかに不快感を示します。退行性関節症やびらん性関節炎に罹患した関節を伸縮させることで、一般に、関節可動域の減少や捻髪音が明らかになることがあって、その場合には、関節の磨耗、骨棘の存在や関節周囲の病変の存在が示唆されます。関節の安定性を調べて、その関節の支持靭帯が無傷かどうか、を評価しましょう。

非びらん性の多発性関節炎の動物では、触診の際に明らかな異常がみられることはそれほど多くなくて、関節の腫脹や関節を動かすときに疼痛が観察されます。関節の触診で異常がないから、という理由で多発性関節炎を除外することができないので、診断の際には十分注意してください。

多発性関節炎が疑われる犬や猫で、全身性ないし局所性の炎症を伴う単発性関節疾患に対しては、関節液の採取と評価を行うべきです。関節液の評価で、炎症性か非炎症性か、が鑑別できます。炎症性なら、感染症として細菌、マイコプラズマ、L型菌、スピロヘータ、リケッチア、真菌が考えられます。血液検査、尿検査と合わせて、血液・尿・関節液の培養、ダニ介在性疾患の血清検査も考慮します。感染症が除外されたら、免疫介在性の要因を考えます。

非感染性の免疫介在性多発性関節炎は、犬でよくみられる疾患です。特発性であったり、全身性エリテマトーデス(SLE)としてみられること、全身性の抗原刺激によって二次的に起こること(反応性多発性関節炎)、があります。反応性多発性関節炎は、関節が感染を受けてるわけではなくて、免疫複合体が関節に沈着するために関節炎が生じます。

病歴から原因となる事象を特定できないなら、感染症や腫瘍などによる全身的な徴候を鑑別するために、一連の検査として血液検査、胸部・腹部X線検査とエコー検査、眼検査、尿と血液の細菌培養、リンパ節の吸引生検などを行います。SLEの検査として、抗核抗体を調べたりして、これらの検査が正常であれば、特発性の免疫介在性多発性関節炎の診断が妥当なものと考えることができます。

 検査

血液検査、尿検査は普通にやりますよね。他では、関節や骨が関連していると、X線検査も皆さん行います。X線は重要な検査ですが、骨の変化が数週間~数ヵ月後にしか明らかにならない疾患もありますので、異常がなかった場合には、経時的な変化を評価する必要があります。

関節疾患に最も有用なのは、関節液の採取とその検査です。関節穿刺する針は25G、注射筒は2.5mLを使うのが一般的ですが、大型犬は22Gの1.5インチ針を使う方がいいかと。必要に応じて、鎮静下で行います。多発性関節炎が疑われる場合は、左右の足根・手根、膝関節ほか、6箇所以上から関節液を採取して検査しましょう。粘稠度の測定、細胞数の計測、白血球百分比、培養検査には1~3滴あれば十分です。

正常な関節液は、透明で粘稠度の高いものです。赤血球や白血球が混濁していると、濁りがあります。黄色の液体(キサントクロミー)の場合、一般的には過去の関節内の出血を示唆していて、退行性、外傷性、炎症性の関節炎でときおりみられます。粘稠度が低いと、ヒアルロン酸の不足を示していて、血清による希釈か、激しい炎症はんのうによる変性が疑われます。細胞学的な検査は大変重要です。塗抹を作製して、しっかりと観察しましょう。

免疫学的検査・血清学的検査

  •  ライム病抗体価
    •  ライム病の病原体であるスピロヘータ(ボレリア)が感染すると、感染性滑膜炎を起こすことがあります。免疫複合体の沈着で、免疫介在性の滑膜炎を起こすこともあります。感染動物は、ELISA法などを用いて抗体価の上昇を検出できます。しかしながら、汚染地域では、保菌動物でも高い抗体価を示すことがありますので、その評価には十分な検討が必要です。
  •  リケッチア抗体価
    •  急性期には抗体価が上昇することがあります。リケッチアの場合も、過去の感染で抗体価が高くなる症例もありますので、注意しましょう。
  •  全身性エリテマトーデス(SLE)
    •  抗核抗体検査が一般的です。血中の抗核抗体を検出します。SLEで最もよくみられる自己抗体です。高感度の指標ですので、疑いがあれば、検査機関で計測してもらいましょう。但し、抗核抗体は、SLE特異的ではありませんので、他の全身性炎症疾患や腫瘍疾患との鑑別をしっかりと行いましょう。
  •  リウマチ因子
    •  IgGと反応する血清中の凝集能を示す抗IgG抗体を検出するものです。疾患が慢性化していると、感度が高くなります。びらん性関節疾患の診断に効果的です。全身性の炎症や免疫複合体の生成や蓄積が関連する疾患で、偽陽性反応がみられる可能性があるので、注意が必要です。

関節疾患の分類

関節疾患は、関節液の解析から、炎症性と非炎症性に分けられます。非炎症性の疾患で最も多くみられるのは、退行性関節症(DJD)です。炎症性の場合は、感染性か非感染性かで分類されて、まずは感染の有無を評価します。非感染性の関節炎は、さらにびらん性と非びらん性に分類されて、多くは多発性に関節炎が発症して、免疫介在性であり、非びらん性です。骨破壊を伴うびらん性病変が検出されることは、稀です。

関節痛

非炎症性関節疾患

 退行性関節症(変形性関節症)

退行性関節症(DJD; 変形性関節症)は、慢性の進行性の非炎症性の関節疾患で、関節軟骨の障害や関節周囲の組織に、退行性・増殖性の変化が生じる疾患です。最も多くみられる基礎疾患は、関節の不安定性、外傷、成長期の整形外科的疾患が挙げられます。

関節液の検査では、非炎症性、と診断されますが、症状の発現やDJDの進行には炎症性物質が関与しています。

症状
初期は、明確な症状がみられません。筋骨格筋のみが影響を受けて、関連する全身症状は現れません。初期は、過剰な運動をした後にのみ、跛行や硬直がみられて、寒さや湿った天候によって悪化することもあります。犬の場合、症状が軽度なら、軽い運動をすれば体が温まって、跛行が消えることがあります。

進行すると、線維化と疼痛で、運動不耐性や持続性の跛行がみられるようになります。重症例では、筋の萎縮が起こります。DJDは、1関節に起こることもあれば、複数の関節で起こることもあります。

診断
罹患関節や複数の関節での疼痛、可動域の制限、関節を伸展させたときの捻髪音がでることもあります。特徴的なX線所見は、関節液の貯留、軟骨下の骨硬化像、関節腔の矮小化、関節周囲での骨棘の形成と骨のリモデリングです。

DJDでは、発熱、白血球増加、抑うつは認められません。

関節液は、粘稠性が低下していることがあります。白血球数は、増加しても5000個/μL以下です。リンパ球がほとんどで、好中球が少ないのが特徴的です。

治療
治療目的は、苦痛を和らげて、疾病の進行を阻止することです。外科的に、関節の安定性を高めること、変形を是正すること、不快感を緩和する必要があることがあります。

内科的治療は、対症療法による非特異的な治療になります。関節への負担を軽減させるために、体重を増加させない、太っている場合は痩せさせます。ランニングやジャンプなど、衝撃の強い動きは避けましょう。筋力や活動性の維持のためには、水泳や適度の散歩など衝撃の少ない運動を適度に行うことが推奨されます。天然芝のドッグランだと足に負担も少ないのでいいと思います。

急性期には患部の冷却、慢性期には温熱療法、筋肉と関節のマッサージや、超音波、電気刺激などの理学療法を行うと、苦痛が和らげられることがあります。関節用の処方食やサプリメントを服用することで、疼痛が緩和できることもあります。

薬物療法は、関節軟膏の病変の進行を遅らせて、炎症伝達物質の放出を妨げて、疼痛制御の目的で行われます。非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は、抗炎症作用や鎮痛作用を示すので、DJKの治療に用いられます。

NSAIDsは、シクロオキシゲナーゼを可逆的に阻害して、疼痛や炎症の原因となるプロスタグランジンの合成を阻害します。受容体はCOX-1とCOX-2があって、COX2阻害作用が大きくて、COX1阻害作用の弱いNSAIDsが、炎症の制御に優れていて、胃の障害や潰瘍形成・腎毒性の副作用も低いので、COX2選択的NSAIDsが多く用いられています。

使用するNSAIDsの種類に関係なく、投与開始前・投与7日後には腎機能の評価を行って、長期の使用をする場合は、少なくとも6ヶ月毎に腎機能の評価を行いましょう。食欲不振、嘔吐、メレナなど消化器毒性を示唆する所見がないか、を飼い主に注意して観察しておいてもらいましょう。NSAIDsは、犬に対する反応が個々の薬剤で異なるので、最も効果的な薬剤を決めるために、薬を変更しながら効果を確認することもあります。変更する際には、休薬期間として3日間は間を開けましょう。

軟骨保護剤は、軟骨の生合成活性を改善して、滑膜の炎症を軽減して、関節内の分解酵素を阻害する可能性があります。軟骨保護剤としては、グルコサミンやコンドロイチンが犬や猫でも使用できます。コセクインなどの商品を始めとして、各種ありますので、継続して服用させてあげましょう。

ヒアルロン酸は、関節液の粘稠性を改善して、炎症を軽減するために、関節内に投与することがあります。理論的には、DJDになる前に投与すべきですので、ヒアルロン酸は、外傷や外科手術などで関節軟骨が損傷を受けたことがわかっている動物の治療に使用するといいと思います。


感染性炎症性関節症

 細菌性関節炎

細菌性関節炎は、細菌が血液を介するか、直接間接内に侵入することによって生じる化膿性の炎症です。関節炎が複数の関節にわたってみられる場合は、局所の感染巣から細菌が血行性に播種していることを示唆しています。このような血行性の細菌感染播種は、臍静脈炎の新生子、免疫抑制下にある動物や多発性DJDをすでに発症していた動物でみられることが多くて、一般的にはそう多くある症例ではありません。

1箇所の関節に限定された関節炎が細菌性の場合は普通で、外科手術、咬傷、異物の侵入、外傷などが原因となります。内因性の疾患には関係しません。

症状
全身的に体調が悪くて、発熱や抑うつなどが、よく見られます。関節の疼痛は非常に強くて、触診の際にとくに顕著です。関節液貯留のため、明らかな腫脹がみられることもあります。関節周囲の軟部組織には熱感があって、浮腫もみられます。

診断
症状がある上で、関節液の塗抹上での細菌確認もしくは、培養検査で菌の同定を行います。化膿しているために、関節液は黄色で濁っていて、血様であることもあります。細菌性ヒアルロニダーゼや関節内の炎症細胞から分泌された酵素で変性したり、希釈されたりするので、粘稠度が低くなってます。

X線検査所見は、初期では大きな変化がなく、関節包の肥厚、関節間隙の広がり、関節周囲の軟部組織に不整な肥厚がみられる程度です。慢性疾患では、軟骨変性、関節周囲での新たな骨形成、著しい骨膜反応、軟骨下の骨融解がみられることがあります。

治療と予後
関節内の細菌感染を軽減することと、関節内に蓄積した酵素やフィブリンを除去することが治療目標です。全身性の感染の原発巣が判明しているなら、除去しましょう。

治療は、抗菌薬の投与を速やかに開始します。培養結果が判明するまでは、βラクタム系広域性抗菌薬を投与します。セファレキシン(20~40mg/kg、BID)でいいでしょう。抗生剤は、初めは非経口的に投与して、その後、長期間の経口投与に切り替えます。グラム陰性菌の感染が疑われたら、キノロン系の抗菌薬を投与します。嫌気性菌の感染が疑われたら、メトロニダゾールを投与します。

急性疾患では、関節ドレナージと全身性抗菌薬投与で治療しますが、3日以内に劇的な改善がみられないなら、外科的治療を実施します。慢性感染と関節内異物の疑いがある症例、術後の感染、成長板がまだ閉鎖していない月齢での感染には、外科的なデブリードメントと洗浄を行います。

抗菌薬は、最低でも6週間は投与すべきで、関節軟骨の再生を促進するために、可能な限り安静状態を保ちましょう。関節軟骨の損傷の程度で予後がきまります。二次的なDJDの起こることもあります。

 マイコプラズマ性多発性関節炎

マイコプラズマは、上部気道や泌尿器管に常在していて、ほとんどは病原性を持たないようです。全身性のマイコプラズマ感染は、衰弱した犬や猫、免疫抑制の症例で発生しますが、関節炎の発生はさらに頻度が多くありません。

関節炎が起こった場合は、慢性に推移して、特発性の免疫介在性非びらん性多発性関節炎との鑑別が困難です。跛行、関節痛、抑うつ、発熱がみられて、関節液の検査では、有核細胞数の増加と、変性していない好中球が主体です。確定診断には、特殊培地での培養でマイコプラズマを検出する必要があります。

ネオでは、特発性多発性関節炎の発症はまれで、多発性関節炎が疑われた症例では、経験的な治療として、ドキシサイクリン(5~10mg/kg、経口、BID)を3週間投与しておくといいと思います。猫に多発性関節炎がみられたら、FeLV・FIV検査を行いましょう。

 L型菌関連性関節炎

多発性関節炎に関連する皮下膿瘍が猫で観察されることがあります。伝染性で、咬傷を通じて、猫間で伝播します。これには、L型の変異細菌が関連しています。関節が腫脹して、疼痛と熱感があります。皮下に瘻管が形成されて、罹患する関節まで続いています。

関節からの滲出液や皮下の膿瘍には、変性もしくは非変性好中球とマクロファージが含まれています。好気性・嫌気性菌、マイコプラズマ、真菌の培養はすべて陰性です。特殊なL型菌用の培地を使う必要があります。

X線検査では、関節の軟部組織の著しい腫脹と、骨周囲の増殖像、関節軟骨と軟骨下の骨破壊がみられて、結果として、亜脱臼や関節間隙の崩壊が確認できます。

ドキシサイクリン(5mg/kg、BID)やクロラムフェニコール(10~15mg/kg、BID)の治療が効果的で、2~3日で効果が現れますが、治療は2週間程度、継続しましょう。

 リケッチア性多発性関節炎

非びらん性の多発性関節炎が、ダニ媒介性疾患に関連して認められることがあります。免疫複合体の沈着が関与していると考えられます。関節炎を発症している犬は、その他の全身性徴候も示しているはずです。

関節は、疼痛と滲出液がみられて、関節液には変性していない好中球が増加しています。関節液中に、エールリヒアやアナプラズマの桑実胚がみられることがあります。

紅斑熱による多発性関節炎の犬では、全身性血管炎に起因する発熱、点状出血、リンパ節の腫脹、神経症状、顔面や末端の浮腫、肺炎など、様々な症状を伴っています。

治療には、ドキシサイクリン(5mg/kg、BID)の投与が最善です。最低でも3週間は継続して服用させましょう。抗菌薬単独治療では発熱、跛行、関節の腫脹が消失しないなら、プレドニゾロン(0.5~2mg/kg、SID)が必要になる場合もあります。

 ライム病

ダニによって媒介されるスピロヘータ(ボレリア)がライム病の原因です。ラム病の汚染地域から来た犬に対しては、疑いを持っておきましょう。

ほとんど症状を示さないのですが、ときおり、再発する多発性関節炎を認めます。跛行、関節の腫脹、発熱、リンパ節の腫脹、食欲不振が症状です。罹患する肢が変わります。関節液の細胞診では、好中球性の炎症がみられます。

治療は、抗菌薬です。ドキシサイクリン(5mg/kg)・アモキシシリン(20mg/kg)・アンピシリン(20mg/kg)・セファレキシン(20~40mg/kg)は、すべて有効です。急性期に治療すれば、症状は顕著に改善されます。治療は、4週間、継続しましょう。急性期を見落として、慢性疾患となってしまったら、多発性関節炎の再発、糸球体腎炎、心臓の異常がみられることがあります。

 リーシュマニア症

日本では見られませんが、原虫寄生に起因する全身性慢性関節疾患があります。跛行や運動不耐性の原因となる多発性関節炎のみられることがあります。

X線検査所見で、関節周囲の融解像、骨周囲の増生を伴うびらん性病変がみられることがあります。リンパ節の腫脹や脾腫などもみられることがあるので、穿刺吸引の細胞診や関節液中のマクロファージ内に病原体が確認されれば、診断されます。

 真菌性関節炎

非常にまれではありますが、真菌感染で骨髄炎が局所的に波及して、関節炎を引き起こすことがあります。全身性の真菌感染から、二次的におこる多発性関節炎もあります。

 ウイルス性関節炎

6~12週齢の猫で、カリシウイルスの自然感染や生ワクチン接種でみられる一過性の多発性関節炎があります。跛行、こわばり、発熱が認められますが、2~3日で自然回復します。カリシウイルス感染に移行してしまうと、舌や口蓋の小胞や潰瘍、上部呼吸器症状を示します。

関節液には、有核細胞の増加がみられて、小型の単核細胞やマクロファージが主体です。好中球を貪食した細胞がみられることもあります。

非感染性多発性関節疾患(非びらん性)

犬でよくみられます。免疫介在性の多発性関節炎です。X線検査での関節破壊の有無によって、日常的にびらん性または非びらん性のいずれかに分類されます。

びらん性の疾患は非常にまれです。非びらん性疾患は、すべての免疫複合体の形成と蓄積を介して発生すると考えられます。全身性エリテマトーデス(SLE)の徴候の一つとして現れたり、慢性感染、腫瘍、薬剤性などの抗原刺激によって発生したり、特発性に発生したりします。犬種特異的な疾患もあって、遺伝的な背景があると考えられます。

 全身性エリテマトーデス誘発性多発性関節炎

SLEでは、組織の蛋白やDNAに対する自己抗体が形成されて、循環中にも免疫複合体が出現します。免疫複合体が組織に沈着すると炎症が惹起されて組織障害が起こります。関節に影響を及ぼすと関節炎になる、というわけです。

SLEの症状は、間欠的な発熱、糸球体腎炎、皮膚病変、溶血性貧血、免疫介在性血小板減少、筋炎、多発性神経症などです。SLEの犬の80%前後に、多発性関節炎が発症します。発症した症例では、全身のこわばり、関節の腫脹、患肢が変わる跛行を呈します。

SLEによる多発性関節炎は、無菌性で、非びらん性で、遠位の関節(足根や手根関節)が近位の関節よりも重篤になります。関節液は、白血球が増加していて、変性していない好中球の増加が主体です。

診断
非感染性の多発性関節炎があれば、SLEを疑っておく必要があります。抗核抗体検査をしてみましょう。関節炎に加えて、糸球体腎炎、貧血、血小板減少、皮膚炎があれば、SLEと考えていいでしょう。

治療と予後
6ヶ月間の上記治療の後、症状がなく、関節液の性状も非炎症性なら、治療は終了です。その場合は、長期間の寛解が得られることもあります。多発性関節炎の制御のみで考えると、予後は良好ですが、SLEは全身性疾患でもあり、糸球体腎炎が進行すると死亡することも多々あります。

治療手順

Step 1プレドニゾロン: 2mg/kg、BID、経口、3~4日
Step 2プレドニゾロン: 2mg/kg、SID、経口、14日
Step 3










改善がみられたらプレドニゾロンの漸減
  1mg/kg、SID×4週間
  1mg/kg、隔日投与×4週間
  0.5mg/kg、隔日投与×4週間
  0.25mg/kg、隔日投与×8週間

関節の炎症所見がみられたら、Step2へ戻って
アザチオプリン 2mg/kg/日を追加投与。

関節液の所見が正常になれば、
再度、プレドニゾロンを減量していく


 反応性多発性関節炎

細菌、真菌、リケッチアによる慢性感染、腫瘍、薬剤投与に関連してみられます。心内膜炎、異物による腫瘍や肉芽腫、椎間板脊椎炎、フィラリア症、膵炎、前立腺炎、腎盂腎炎、肺炎やその他の慢性感染、種々の腫瘍とともに、報告されています。薬剤では、サルファ合剤、フェノバルビタール、エリスロポエチン、セファレキシン、ワクチン接種などが誘因となります。

反応性多発性関節炎の多くは、基礎疾患に起因する徴候はわずかにあるだけで、関節の炎症が起こって歩行を嫌がることを主訴に来院されます。なので、注意して検査を行って、基礎疾患の特定をするように努めましょう。

反応性多発性関節炎の典型的な症状は、回帰性の発熱、こわばり、跛行です。関節液には、白血球数の増加と好中球の増加がみられますが、培養は陰性です。基礎となる炎症性疾患が、感染性の場合でも、反応性多発性関節炎では循環する免疫複合体の関節液への沈着によるものなので、関節の感染が原因ではありません。X線検査では、関節の腫脹のみがみられます。

治療
可能な場合には、内科的・外科的に、原因となっている基礎疾患や抗原刺激を除去してやります。うまくいけば、反応性多発性関節炎は、その他の治療を行わずとも改善します。重症例では、滑膜炎を抑制するために、短期間・低用量のプレドニゾロン(0.25~1mg/kg、SID)もしくはNSAIDを投与することがあります。同時には投与しないように。

 特発性免疫介在性多発性関節炎

非びらん性で、非感染性の多発性関節炎で、原疾患や基礎疾患が不明なものを、特発性の免疫介在性多発性関節炎と分類しています。他の多発性関節炎の原因を除外した結果の診断となりますが、犬の多発性関節炎の中では、最もよく認められます。

症状
回帰性の発熱とこわばり、跛行がみられます。これだけでは、鑑別できませんね。複数の関節が罹患することが多くて、遠位の関節(足根や手根)が重篤になります。SLE誘発性に似ていますね。半数以上で、触知可能な関節液の滲出や局所的な疼痛は認められません。頸部の疼痛や脊椎の過敏症を訴えることが多くて、これは椎骨間の小関節面の病変かステロイド反応性の髄膜関節の併発を反映していると考えられます。

診断
特発性免疫介在性多発性関節炎では、関節液の検査や感染性の病因を特定できないこと、SLEの診断が支持されないこと、反応性の多発性関節炎を疑う理由がないこと、に基づいて診断されます。

治療と予後
治療には、ステロイドの投与が第1選択です。プレドニゾロンの単独投与で多くが寛解します。初期は、免疫抑制量を投与して、症状が正常になって関節液の炎症が治まってきたら、4週間ごとに、漸減していきます。

治療手順

Step 1プレドニゾロン: 2mg/kg、BID、経口、3~4日
Step 2プレドニゾロン: 2mg/kg、SID、経口、14日
Step 3










改善がみられたらプレドニゾロンの漸減
  1mg/kg、SID×4週間
  1mg/kg、隔日投与×4週間
  0.5mg/kg、隔日投与×4週間
  0.25mg/kg、隔日投与×8週間

関節の炎症所見がみられたら、Step2へ戻って
アザチオプリン 2mg/kg/日を追加投与。

関節液の所見が正常になれば、
再度、プレドニゾロンを減量していく

治療中は、関節液の観察を注意深く行って、プレドニゾロンを減量する際には、毎回、関節液が非炎症性であることを確認します。低用量(0.25mg/kg)の隔日投与で維持できて、関節液に炎症所見がみられなければ、治療が終了です。生涯、低用量のプレドニゾロンの隔日投与が必要な症例もあります。

プレドニゾロンを投与しても関節液の炎症が持続する症例や、プレドニゾロンを低用量に減量すると再発する犬に対しては、アザチオプリン(2mg/kg/日)の投与を4~6週間行います。

投薬に対する反応はよく、特発性免疫介在性多発性関節炎の予後は良好です。難治性の場合は、感染性要因、反応性多発性関節炎、びらん性関節炎がないか、を再評価しましょう。内科的な治療に加えて、初期は運動制限を行って、その後は適度なリハビリ運動と体重管理を行います。関節用のサプリメントが有効なこともあります。

免疫抑制療法を受けている犬は、慢性的な滑膜の軽度の炎症の二次的な影響や、ステロイドの軟骨再生や修復への悪影響によるDJDが起こることがあります。

 犬種特異的多発性関節炎

非びらん性で、非感染性の多発性関節炎で、原疾患や基礎疾患が不明なもので、犬種特異的なものがあります。

秋田犬、ニューファンドランド、ワイマラナーに遺伝性多発性関節炎があります。髄膜炎を併発していることが多くて、免疫抑制療法に対する反応性が乏しい疾患です。ボクサー、バーニーズ、ポインター、ビーグルに特異的な髄膜血管炎を伴う多発性関節炎は、免疫抑制療法に完全な反応を示します。スパニエル系の犬種では、筋炎を併発する家族性の多発性関節炎が報告されています。運動不耐性を示して、広範な筋肉萎縮、線維化、拘縮、関節可動性の減少がみられることもあります。CKやASTが上昇しており、治療に対する反応が乏しい疾患です。

 家族性シャーペイ熱

シャーペイに特異的な疾患で、再発性の発熱と関節周囲の腫脹が特徴です。成長期や若い時期に、2~3日の発熱が続いて、発熱期間中に、足根関節周囲の組織の腫脹がみられます。罹患すると、全身性アミロイド症による腎障害や肝障害に進行する危険性が高くなります。腎臓へのアミロイド沈着は、初期は髄質性なので、必ずしも蛋白尿を呈するわけではありません。高グロブリン血症やIL-6の濃度上昇がよくみられます。二次的に、糸球体腎炎、腎盂腎炎、腎臓の梗塞、全身性の血栓塞栓症が起こることもあります。

この疾患は、常染色体性の遺伝病です。治療は、発熱と炎症を制御するための対症療法を行います。

 リンパ球形質細胞性滑膜炎

前十字靭帯の断裂を起こした犬でみられることがありますが、免疫介在性反応と靭帯破壊との関連性は不明です。前十字靭帯の断裂では、靭帯のコラーゲンに対する炎症反応を誘起することが多くて、結果として軽度の炎症性関節液やⅠ型・Ⅱ型コラーゲンに対する関節液中の抗体がみられるようになります。

もしくは、逆に、リンパ球形質細胞性滑膜炎が原発の免疫介在性疾患であって、関節のゆるみや不安定さが前十字靭帯の断裂を引き起こす原因となっている可能性もあります。

症状は、急性もしくは慢性的な跛行だけです。両側の膝が罹患することもあります。全身状態は良好です。血液検査も正常です。関節液が水様で混濁していて、有核細胞の増加が見受けられます。関節液中の細胞は、主にリンパ球と形質細胞です。

非外傷性の十字靭帯の断裂では、外科整復手術をする際には、必ず靭帯と滑膜の生検を行います。滑膜には、リンパ球と形質細胞の浸潤と、絨毛の過形成があります。

外科手術による膝関節の安定化とNSAIDsによる治療で症状は迅速に回復します。症例によっては持続的な滲出液と膝の不快感がみられますが、それらはプレドニゾロンの投与によく反応します。免疫抑制療法を行うときは、NSAIDsとの投与期間は3日以上空けて開始しましょう。

非感染性多発性関節疾患(びらん性)

 関節リウマチ様多発性関節炎(犬)

びらん性多発性関節炎と進行性の関節破壊が犬で起こることがあって、それが人の関節リウマチに似ています。小型犬やトイ犬種がよく罹患します。比較的若齢の犬に多くて、初期は特発性非びらん性多発性関節炎と区別がつきづらいのですが、時間の経過とともに、関節が破壊されます。遠位関節(足根や手根)で病状が重度になります。

原因や病態はよくわかっていません。IgGに対する抗体(リウマチ因子;RF)が形成されて、滑膜にIgGとの複合体として沈着します。その結果、補体の活性化が怒って、化学遊走因子によって形質細胞、リンパ球、好中球が関節液中に遊走してきます。滑膜が肥厚して、線維性血管性肉芽組織(パンヌス)が形成されて、関節軟骨、腱、靭帯、軟骨下骨に浸潤します。蛋白分解酵素が放出されて、関節軟骨や軟骨下骨を腐食して、関節の崩壊や軟骨下骨病変の破壊が起こります。関節と関節周囲の炎症、関節の不安定性によって、亜脱臼や脱臼に進行して、結果として関節が変形してしまいます。

症状
症状からは、他の多発性関節炎と区別できません。軽度の発熱、抑うつ、食欲低下、運動を嫌がるなどの症状がみられます。関節の疼痛やこわばった歩様など、関節に関連した徴候です。罹患し易いのは、手根、足根、指関節です。肘や肩、膝の関節が侵されることもあります。病態が進行すると、関節の捻髪音、ゆるみ、変形が明らかになってきます。

初期の段階では症状が散発的で、犬や猫が休んでいる状態から動き出すときは、こわばりが悪化して、軽い運動をすると改善します。

X線検査所見は、初期ははっきりしません。関節内の腫脹があるのみです。病態が進行すれば、軟骨下骨の破壊、関節間隙の崩壊、亜脱臼や脱臼がみられるようになります。

診断
びらん性の多発性関節炎が認められる犬で、感染性の病因がないと判断される症例では、リウマチ様多発性関節炎を疑ってみる必要があります。関節液は水様で、混濁していて、白血球が多数存在します。好中球が優勢のこともあれば、単核球が優勢のこともあります。培養しても、細菌は陰性です。周期的に増悪を繰り返すので、症状が重いときに関節液を採取する方がいいでしょう。

リウマチ因子が検査機関で測定できますので、血液を採取して依頼してみましょう。滑膜生検では、滑膜の肥厚・過形成、パンヌス形成を伴う増殖が認められます。パンヌスは、主として活性化した滑膜細胞、リンパ球、マクロファージ、好中球で構成されています。滑膜細胞を培養しても、細菌は陰性です。

臨床所見とX線検査所見、関節液の性状、リウマチ因子の判定、滑膜の生検材料による病理評価から判断して診断しましょう。

治療と予後
関節リウマチと判断できれば、不可逆的な変化を予防して、病勢の進行を食い止めるためにも、早期の治療に入れるかどうか、が重要です。

内科的治療では、免疫抑制剤と軟骨保護剤(サプリメント)を使用します。犬では、初期用量でプレドニゾロン2~4mg/kgを、経口投与で1日1回、14日間行って、その後、1~2mg/kg(半減させる)の投与(po、SID)を14日間行います。同時に、アザチオプリン(2mg/kg、SID)の投与も行います。経口の関節用サプリメントも日常的に投与してあげましょう。

治療開始から1ヵ月後に、関節液の検査を行って再評価します。関節液が非炎症性であれば、プレドニゾロンの投与回数を、隔日投与に減量します。アザチオプリンの治療は継続です。炎症性の場合は、プレドニゾロンもアザチオプリンも、毎日投与を継続します。以降も、月に1度の関節液の検査を行いましょう。

関節の障害が重度になる前に治療を始めることができた症例は、予後がよくなります。しかしながら、多くは診断がつくまでに時間が掛かってしまい、関節軟骨が重度の障害を受けているのが普通です。痛みを制御するために、NSAIDsなどの鎮痛剤の服用が必要になります。

関節リウマチは、進行性の疾患ですので、適切な治療を行っていたとしても、時間経過とともに悪化していきます。関節の安定化と疼痛を軽減するために、外科的な処置を行うこともあります。滑膜切除術、関節形成術、関節置換、関節固定術などで疼痛が軽減できて、機能が改善することがあります。

 びらん性多発性関節炎(グレーハウンド)

海外で確認されている疾患ですが、グレーハウンドに、びらん性の免疫介在性多発性関節炎がみられます。近位の指関節、手根、足根、肘、膝の罹患が多いようです。症状では、全身のこわばり、関節の疼痛と腫脹、間欠的にみられる跛行があります。

滑膜には、リンパ球や形質細胞の浸潤がみられて、関節液の検査でも同様の細胞の増加がみられます。関節軟骨の深部に重度の壊死がみられるのですが、軟骨表層の障害は少ないようです。

治療は、特発性免疫介在性非びらん性多発性関節炎と同様です。プレドニゾロン・アザチオプリン・軟骨保護剤の投与を行います。

 慢性進行性多発性関節炎(猫)

猫に発生する、びらん性多発性関節炎があります。若い雄にみられることが多くて、ウイルス感染と関連しているかも知れません。よくわかっていません。骨膜増生型と変形性びらん性型があります。

骨膜増生型の方が多くて、急性の発熱、歩様のこわばり、関節痛、リンパ節腫脹、関節を覆う皮膚や軟部組織の腫脹が特徴です。関節液には、白血球数の増加、好中球の増加を伴う炎症がみられます。疾患が慢性化するにしたがって、リンパ球や形質細胞が増加します。初期のX線検査は軽度で、関節周囲の軟部組織の腫脹や軽度の骨膜増生が認められる程度です。時間の経過とともに、骨膜増生は悪化して、関節周囲の骨棘形成、軟骨下のシスト、関節間隙の虚脱がみられることがあります。

関節の変形を伴う慢性進行性多発性関節炎の場合は、潜行性であり、徐々に跛行やこわばりが目立つようになってきます。遠位の関節の変形が多くみられます。X線検査では、軟骨下に中心性で、境界が明瞭な重度のびらん、脱臼、亜脱臼がみられて、関節の不安定化と変形に進行します。関節液の細胞診は、骨膜増殖型ほどの明らかな所見はみられません。軽度な炎症細胞の増加がみられる程度です。

治療と予後
プレドニゾロン(4~6mg/kg/日)が病態の進行を遅らせる場合があります。投与2週間後に、猫に症状の改善がみられたら、2mg/kg/日に投与量を減量します。症例によっては、長期間のプレドニゾロン(2mg/kg、隔日投与)が必要なこともあります。

疼痛の評価次第で、鎮痛薬(オンシオールなど)を併用すると、症状の緩和が得られることもあります。

初期治療には反応するのですが、長期的な疾患の管理としては非常に厳しく、予後はあまりよくありません。