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免疫介在性の疾患/治療

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治療

免疫介在性の疾患の初期治療の多くは、グルココルチコイド(ステロイド)による治療です。最初にステロイドを用いるのは、作用の発現が早いこと、毒性のリスクが低いこと、費用が安くつくこと、が挙げられます。長期的にはステロイドを使用してはいけない糖尿病などの併発症があっても、最初はステロイドで治療して、その後、併発疾患を管理するに適した薬剤に変更していくことを考えながら治療していきます。

ステロイドでは十分な反応が見込めない時には、他の免疫抑制剤を治療の最初から使う場合があります。重篤な免疫介在性溶血性貧血、全身性エリテマトーデス、関節リウマチなどで、他の薬剤を使うことがあります。多くは、他の免疫抑制剤を使う前にステロイドの反応性を評価して、反応が悪ければ使用する、という手順が一般的です。

ステロイドの反応が悪い場合、ステロイドの副作用が強い場合、他の薬剤を考慮しますが、アザチオプリンを考慮して、シクロスポリンやシクロフォスファミドを考慮していく、というのが通常の考え方です。もちろん、疾患によって異なります。犬の肛門周囲瘻では、シクロスポリンを第1選択とした方がいいようですし、赤芽球癆の猫では、シクロフォスファミドが第2選択薬として考慮されます。第3選択薬を用いる状況下では、第2選択薬の投与を中止します。但し、通常、2種類以上の免疫抑制剤を使用することは勧められません。重度の免疫抑制と易感染性が起きる可能性が高まるためです。

免疫介在性の疾患が、基礎疾患に感染要因を持っている場合、免疫抑制剤を使う前には注意しましょう。

グルココルチコイド(ステロイド)

グルココルチコイド活性を持ったコルチコステロイド、それをステロイド、と通称で呼んでますが、免疫介在性の疾患には効果的で、作用時間が早く、費用も安価です。作用時間、作用強度、投与経路で、いくつかの種類に分かれます。個々のステロイドは、視床下部-下垂体-副腎を抑制する時間によって決められる生物学的半減期に特徴があります。

コルチゾルなど、短時間作用型のステロイドの半減期は12時間未満です。プレドニゾン・プレドニゾロンなど、中間作用型のステロイドの半減期は、12~36時間で、デキサメタゾン・ベタメタゾンなどの長時間作用型は半減期が48時間もしくはそれ以上になります。作用時間は、化学構造に依存しています。

ステロイドの抗炎症作用は、グルココルチコイド活性と関連してて、ナトリウム保持や浮腫などの副作用は、ミネラルコルチコイド活性と関連しています。コルチゾルよりも、高いグルココルチコイド活性を持って、ミネラルコルチコイド活性が低い合成ステロイドが、プレドニゾロンやデキサメタゾンです。プレドニゾロンは、コルチゾンの4倍の抗炎症作用を持ってますが、ミネラルコルチコイド活性は1/3程度です。デキサメタゾンは、コルチゾンの8倍の抗炎症作用を持っていますが、ミネラルコルチコイド活性はありません。

免疫介在性の疾患症例でのステロイドの投与経路は、経口投与が理想的です。嘔吐や消化管からの吸収に問題のある症例では、静脈内や皮下投与を行う必要がありますが、長時間作用型の非経口剤を使用するのは、血漿中濃度が高くならない上に作用を長時間持続させてしまうので、勧められません。

ステロイドの効果
・ マクロファージと好中球の貪食と走化を阻害
・ 好中球の辺縁化と移動を抑制
・ リンパ球の増殖を抑制
・ 循環リンパ球の数を減らす
・ T細胞由来のサイトカイン産生の減少
・ 炎症メディエーターに対する細胞の反応性を低下
・ 補体経路を阻害
・ 免疫複合体が基底膜を通過するのを阻害
・ プロスタグランジンとロイコトリエンの合成を減少
・ 犬のリンパ球の表面マーカーの発現を減らす
・ リンパ球のアポトーシスを誘導

ステロイドの初期効果は、肝臓と脾臓でのマクロファージの貪食活性を低下させることで、長期的な作用は細胞性免疫の抑制によるものと考えられます。猫は、比較的ステロイド抵抗性があって、どの程度の抗体産生が抑制されているのかわかりませんが、Bリンパ球に対する反応は、抗原に対する抗体の完全な反応に必要なヘルパーT細胞の抑制で生じるようです。

多くの免疫介在性の疾患では、プレドニゾロンのような中間作用型のステロイド剤が好んで選択されます。プレドニゾンは肝臓でプレドニゾロンに変換されるのですが、猫はプレドニゾンをプレドニゾロンに変換できないことと、犬でも肝不全が存在すると変換されないので、プレドニゾロンを投与した方がいいと思います(特に、猫)。

プレドニゾロンの初期投与量は、1日量を2~4mg/kgとして、2回に分けて投与します。猫は犬よりもステロイドへの抵抗性が高いので、2~8mg/kgを1日量とします。デキサメタゾンならば、4mg/頭/週が推奨用量です。他のステロイドを用いるときには、プレドニゾロンと比較した薬剤の強度で、用量を調節します。犬で、デキサメタゾンの投与を行うなら、プレドニゾロンの1/8用量でいい、ということです。抗炎症作用が強いからいい、というわけではなく、デキサメタゾンを用いる理由は、嘔吐があって経口投与できない症例に用いる、ということです。

免疫介在性の疾患に、ステロイドは有効ですが、ご存知のように、ステロイドには副作用があって、長期投与で衰弱したりするため、飼い主が継続治療に耐えられなくなることがあります。その他、多飲・多尿、パンティング、皮膚の変化、感染、消化管潰瘍、筋の萎縮があります。ステロイド誘発性肝症や、インスリン抵抗性と高血糖が起こることもあります。

副作用を軽減させるには、投薬量を効果が最も低い用量でみられる用量に設定すること、長時間作用型よりも作用時間の短いステロイド剤を用いること、可能な限り隔日投与に切り替えること、などの対処を行います。ステロイドの反応を最大限に得るためには、初めに高用量で治療を開始して、徐々に減量していきます。減量は、治療に対する反応を、ヘマトクリット値や関節液の検査結果をみながら行います。再発しないよう、減量も少しずつ行うことが必要です。用量を早く減量してしまったために症状が再発すると、再度、寛解を得るのが難しくなります。ステロイドの副作用が強く出るなら、他の免疫抑制剤を用いて、より早く、ステロイドを減量できるようにしましょう。


アザチオプリン

アザチオプリン(イムラン)は、経口吸収された後、肝臓で代謝されて細胞傷害性を示す代謝物になって、それが核酸の合成の際に、プリンに拮抗します。これにより、機能のない核酸鎖が形成されます。DNAとRNA合成が阻害されることで、活発に分裂している細胞の増殖を抑えます。

肝不全では、アザチオプリンの免疫抑制作用が減弱するため、アロプリノールを併用することで活性のある代謝物の濃度を増加させることができます。アザチオプリンは、細胞性免疫とTリンパ球依存性抗体産生を抑えて、Tリンパ球の機能に対して優先的に作用します。循環血液中の単球の数も減少します。アザチオプリンの十分な効果は、発現までに時間が掛かることがあるので、認識しておきましょう。

アザチオプリンは、免疫介在性溶血性貧血、免疫介在性血小板減少症、免疫介在性多発性関節炎、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデスなどの疾患の第2選択薬として使用します。開始用量は、2mg/kg(経口、SID)です。副作用には、骨髄抑制、胃腸障害、膵炎、肝毒性などがあります。骨髄抑制が認められた犬には、用量を1mg/kg(経口、SID)に下げて投与します。骨髄抑制は、投与1~4ヶ月程度でみられることがあります。休薬すれば、1~2週間で元に戻ります。骨髄抑制と肝毒性を検知するため、アザチオプリン投与開始1ヶ月は、毎週、その後は1~3ヶ月ごとに血液検査を行いましょう。

犬では、通常、免疫抑制量のプレドニゾロンと共に使用を開始します。併用療法で効果が確認できたら、プレドニゾロンの用量を、2~4ヶ月掛けて、減量していきます。この間、アザチオプリンの投与量はそのままです。症状の再発がなく、プレドニゾロンの投与を中止できれば、アザチオプリンの用量を徐々に減じていきます。通常、投与間隔を隔日にして、症状を見ながら3日に1回ずつとし、その後、投与を終了します。

再発を認める症例では、アザチオプリン(2mg/kg、隔日投与)を継続することがあります。その間でも、定期的に血液検査で、血球と肝酵素はチェックしましょう。

猫には、アザチオプリンを用いません。重度の好中球減少症と血小板減少症が起こることがあるためです。多くのIMHAの猫は、ステロイドの単独投与に反応してくれます。


シクロスポリン

強力な免疫抑制剤です。真菌から抽出された環状ポリペプチドです。CD4陽性Tリンパ球の初期活性を阻害します。サイトカイン(特に、インターロイキン2)をコードする遺伝子転写を阻害します。これによってTリンパ球の活性化と増殖、二次的な他のサイトカインの合成を阻害します。

シクロスポリンは、液性免疫には影響を及ぼさないので、ワクチン接種の反応に対して影響を及ぼすことはありません。犬の肛門周囲瘻に対して効果があって、アトピー性皮膚炎にも効果的です。難治性の免疫介在性の疾患の治療に使用することが多く、免疫介在性溶血性貧血、炎症性腸疾患、重症筋無力症、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎、赤芽球癆や免疫介在性の皮膚疾患が対象疾患となります。

錠剤とマイクロエマルジョン製剤があって、マイクロエマルジョン(アトピカ、ネオーラル)は、薬剤の吸収性や安定性が優れています。エマルジョンエマルジョン製剤は、食事の摂取で薬剤の吸収が遅延して血中濃度がばらつくため、食間(2時間前か2時間後)に服用させます。用量は、5mg/kg・SID~10mg/kg・BIDですが、エマルジョン製剤では、低用量で効き目が得られます。

チトクロームP450酵素系の代謝経路を共有するので、他の薬剤との相互作用が多くなります。併用して血中濃度が高くなる場合があるので、毒性が強く出る場合もありますが、うまく利用すれば、効果が強くなるということでもあります。シクロスポリンを2~5mg/kg・経口・SIDで治療している犬で、ケトコナゾール(5~15mg/kg、SID)を同時に投与すると、シクロスポリンの必要量を減量(1.25~2.5mg/kgに)することができます。シクロスポリンの値段が高いので、薬価を節約できるということがメリットです。

副作用は、胃腸障害、感染、歯肉過形成、乳頭腫、多毛などです。乾癬や苔癬様の皮膚疾患も報告されています。抗菌薬の投与と、シクロスポリンの減量で改善できます。感染のリスクは、アトピー性皮膚炎の治療用量(5mg/kg)なら有意な差はなく、移植の拒絶反応を予防するための高用量(20mg/kg)や多剤(プレドニゾロンやアザチオプリン)との併用では、乾癬リスクが高まります。

シクロフォスファミド

Bリンパ球とTリンパ球、両方に対して細胞分裂を阻害するアルキル化薬です。アルキル化薬は、核酸と共有結合を形成して、DNAを架橋して、DNA合成を阻害します。そうすると、分裂の早く細胞に細胞死をもたらすのですが、分裂の早い細胞≒癌細胞であり、そうです、シクロフォスファミドは抗癌剤です。

シクロフォスファミドは、液性免疫にも細胞性免疫にも作用しますが。液性免疫抑制のほうがより強く作用します。骨髄抑制、胃腸障害、脱毛・発毛障害、無菌性出血性膀胱炎が副作用で報告されており、副作用のリスクが高いので、最近は、使われるケースは減っています。まぁ、シクロスポリンやアザチオプリンでいいよね。


ビンクリスチン

基本的には、抗癌剤です。ニチニチソウに由来するアルカロイドです。血小板内に豊富に存在する微小管の働きを阻害します。微小管は、染色体を新しい細胞に運ぶ働きをしますが、その働きを阻害して、有糸分裂を阻害します。ビンクリスチンは、微小管の構造蛋白であるチューブリンに結合します。低用量では、循環血小板数を一過性に増加させますが、高用量では免疫抑制と血小板減少を引き起こします。

ピンクリスチンの免疫介在性の疾患への適用は、特発性血小板減少性紫斑病です。補助的に使われます。ステロイドの投与に加えて、単回で0.02mg/kgを静脈内投与して使用されます。プレドニゾロン単独よりも早く血小板数が増加します。

高用量では骨髄抑制があるので、低用量での使用だけにしましょう。それと、血管外に漏れると、腐食性があるので、静脈内投与する際には、十分に注意して投与してください。

免疫グロブリン

ヒト免疫グロブリンは、健常人の血漿から採取した多特異的な免疫グロブリンG(IgG)製剤です。人では、このヒト免疫グロブリン製剤が、免疫介在性血小板減少性紫斑病や、他の免疫介在性の疾患に用いられています。機序は不明なんですけどね。

犬では、ヒト免疫グロブリン製剤は、単核貪食細胞のFc受容体の阻害によって、貪食を阻害するようです。他には、自己抗体の産生低下、T細胞の機能調節、ナチュラルキラー細胞の活性低下、補体媒介性の細胞傷害の阻害、炎症性サイトカインの放出と機能の調節などの機序もあるのでは、と考えられています。免疫介在性溶血性貧血、赤芽球癆、血小板減少性紫斑病、多形紅斑、落葉状天疱瘡、中毒性皮膚壊死症の治療などに利用されることがあるようですが、正確な治療評価はできていません。

推奨される用量は、0.25~1.5mg/kgを、6~12時間掛けての静脈内投与です。これは、ヒトの蛋白質を含む製剤ですから、繰り返し治療を行うと、感作されて、アナフィラキシーショックを起こす可能性があるので注意しましょう。2回ぐらいの投与では起こりません。いつ起こるかはわかりませんが。

情報が少ないのは、製剤が高価なため、主とした治療で用いられることがないからです。通常は、免疫抑制剤に反応しない免疫介在性の疾患に対して、補助的に用いられるだけです。他の免疫抑制剤の効果が認められるのを待つ間、つなぎの治療として使用するのが自然な利用方法でしょう。

脾臓摘出

脾臓の摘出は、溶血性貧血や血小板減少性紫斑病などの免疫介在性の血液疾患において行われる補助的な治療法です。脾臓の摘出によって、抗体に覆われた赤血球や血小板を貪食する貪食系単球数を減らすことが出来ます。薬物療法に抵抗性がある溶血性貧血や血小板減少性紫斑病の犬で、実施することがあります。プレドニゾロンとアザチオプリンを減量した際に再発する血小板減少性紫斑病には、有用であるデータがあります。

溶血性貧血に対しての有効性は、も一つです。脾臓は、髄外造血の重要な臓器なので、貧血に対しては、脾臓摘出が再生反応を低下させるかも知れません。それと、溶血性貧血は、普通、手術対象とはなりません。