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内分泌・代謝系の疾患/膵臓の腫瘍

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インスリン分泌性β細胞腫瘍(インスリノーマ)

膵島β細胞の機能性腫瘍は、低血糖による抑制作用とは無関係にインスリンを分泌してしまう悪性腫瘍です。β細胞は、自律的にインスリンを分泌する訳ではなく、血糖値の増加などのインスリン分泌刺激に反応してインスリンを分泌します。症状は、インスリンの過剰分泌による低血糖によって起こります。

インスリン分泌性β細胞腫瘍(インスリノーマ)は、犬でも猫でも、そう発生頻度の高い腫瘍ではありません。犬のインスリノーマは、ほぼ悪性で、ほとんどの症例で転移が認められます。付属リンパ節やリンパ節、肝臓、膵臓周囲の腸間膜です。肺への転移は、末期に認められます。多くは、手術で腫瘍を除去しても、低血糖が再発します。腫瘍の発生から症状がみられるまでと、飼い主が症状の変化に気付いても、腫瘍が見つかるまでに時間が掛かってしまうことに影響していると思います。

症状

性差はないですが、中年齢~高齢犬で発生するのが通常です。見た目は、全く正常なことが多いのですが、症状は、低血糖と血中カテコールアミンの上昇で引き起こされて、発作、虚脱、運動失調、後肢の虚弱、筋萎縮、異常行動などがみられます。重症度は、低血糖の期間と程度によります。20~30mg/dLという低血糖が長時間続いても、症状が現れないこともありますが、ちょっとしたきっかけ(絶食、興奮、運動など)が症状を引き起こす引き金になります。

低血糖が起こると、血糖を上昇させる代償機構が働きますので、症状を呈するのは短時間(数秒~数分間)に留まってしまいます。代償機構が不十分になると、血糖値が下がり続けて発作が起こると考えられます。発作は、30秒~5分程度続きます。発作が起こると、カテコールアミンの分泌が刺激されて、その他の代償機構が活性化されて血糖値が上昇します。

末梢神経障害
インスリノーマの犬では、末梢神経障害のみられることがあって、四肢の麻痺、顔面の知覚異常や顔面神経麻痺、反射の低下や消失、筋緊張低下、筋萎縮を起こすことがあります。感覚神経の傷害も起こります。症状の発現は、潜伏性に起こるので、急性です。原因はわかりません。治療は外科切除ですが、プレドニゾロン(1mg/kg、SID)でも改善がみられます。

 診断

血液検査や尿検査も、正常であることが多く、みられる所見は低血糖だけのことがよくあります。インスリノーマの診断には、低血糖の存在を確認して、続いて不適切なインスリンの分泌を証明して、エコーなどで膵臓の腫瘍を特定しましょう。低血糖の可能性のある疾患を鑑別して、身体所見に問題がなく、血液所見で低血糖以外に異常がなければ、インスリノーマと考えていいかと思います。超音波で確認できることがありますが、小さいためにエコーでは異常がみられないこともあります。

強く疑えば、低血糖時の血清インスリン濃度を測定してみましょう。インスリノーマでは、低血糖に対する感受性が低くなっていて、低血糖時にインスリンの分泌抑制作用を受けにくくなります。よって、インスリン濃度が下がらず、不適切に高いインスリン濃度を示します。血糖値が低ければ低いほど、高いインスリン濃度が不適切であり、インスリノーマの可能性は強くなります。インスリノーマでは、多くの犬が持続的な低血糖を呈しますので、経時的に血糖値を測定することが診断の助けにもなります。

治療

インスリノーマの治療は、試験開腹慢性低血糖に対する内科治療が考えられます。試験開腹で、インスリノーマがみつかることもあります。孤立性で、切除可能な腫瘍であれば、手術で完治する可能性があります。切除不可能な腫瘍であったり、転移病巣を認める犬でも、できる限り、腫瘍を切除することで、症状が緩和されます。その後、数週間~数ヶ月の内科療法にもよく反応します。手術をせずに、内科治療のみで過ごす犬に比べて、生存期間が長くなるようです。

しかしながら、腫瘍の転移が効率に認められる上に、インスリノーマを発病する犬は高齢で、術後の膵炎の危険性や、手術そのものに対する危険性もあり、積極的に手術に踏み切れるか、は疑問です。

手術を行うまで、もしくは、手術をしないのであれば、重度の低血糖に陥らないように処置しなければなりません。少量の食事を頻回に給与することと、ステロイド療法を実施します。特に、周術期には、5%ブドウ糖液を静脈内投与しておくことが重要です。これは、正常な血糖値を保つためではなく、低血糖による症状の発現を防ぐことで、血糖値は35mg/dL以上に維持すればいいでしょう。

術後は、膵炎、高血糖、低血糖に注意しましょう。これらの合併症が起こる要因は、手術の手技、腫瘍の部位が左右の葉なのか膵体部なのか、転移の有無、術前の輸液管理が適切であったかどうか、に関連しています。膵体部の腫瘍を切除する場合が、重度の膵炎の起こる可能性が最も高くなります。膵体部は血流が豊富で、膵管が存在しているためです。予防的な積極的輸液、術後の絶食、食事療法などを施しても、致命的な膵炎が起こる可能性があります。

インスリノーマの切除後に起こる一過性の糖尿病は、治癒したわけではなく、萎縮した正常なβ細胞からインスリンが十分に分泌されないためです。萎縮したβ細胞が分泌能を回復するまで、低インスリン血症になりますので、術後は外因性インスリンの投与が必要になります。インスリンが必要な時期は一時的で、0.25U/kgを1日1回投与で、症状や血糖値の変動をみながら、投与量を調節します。尿糖が消失して、多飲・多尿が解決すれば、インスリン療法を中止します。再発したら、低用量で再開しましょう。

逆に、術後の低血糖を呈する犬は、転移病変があると考えられます。膵炎があれば改善させ、状態を安定させて、食事、飲水が可能となって、内科治療を開始するまで、ブドウ糖の点滴を継続しなければなりません。

インスリノーマの長期内科治療
標準的な治療方法
1. 食事療法
  a. 1日量のフードを、3~6回に分けて給餌
  b. ぶどう糖、果糖、ガラクトースの摂取は避ける
2. 運動制限
3. ステロイド療法
  a. プレドニゾロン:初期用量を0.5mg/kg/日として、1日2回に分割投与
  b. 必要があれば、投与量と投与回数を増やす
  c. 症状を改善させる
  d. 血糖値の正常化は期待しない
  e. 医原性副腎皮質機能亢進症が重篤になるか、
    ステロイドの効果がなくなったら、他の治療を考慮


 慢性低血糖に対する内科療法

試験開腹を実施しない場合や、手術後に低血糖症状が再発する場合は、慢性低血糖に対する内科治療を開始します。内科治療での目標は、低血糖の頻度と程度を軽減すること、急激な低血糖状態を避けることで、血糖値を正常化させることではありません。

内科療法は、緩和的な処置を行います。食事を頻回に行って消化管からのグルコースを吸収する機会を増やすこと、ステロイドを用いて肝臓の糖新生やグリコーゲンの分解を亢進すること、です。

頻回の給餌
食事を頻回に行うことで、β細胞から過剰に分泌されたインスリンの基質として、安定したカロリー源を与えることができます。高脂肪、炭水化物、食物繊維を含む食事を与えることで、胃の排泄や小腸でのグルコース吸収を遅らせて、食後の門脈血の血糖値の上昇を抑えて、その結果、腫瘍からのインスリン分泌を抑制します。単糖類(ぶどう糖、果糖、ガラクトース)は、腸で速やかに吸収されて、β細胞腫瘍からのインスリン分泌を直接刺激する可能性があるので、避けましょう。

ドライフードとウェットフードを組み合わせて、1日3~6回、少量ずつを与えるのが効果的です。高インスリン血症になると、肥満の原因となってしまうので、1日当たりのカロリー摂取量は適度に制限する必要があります。運動制限の必要もあるので、散歩は適当にしておきましょう。

ステロイド療法
食事療法だけで低血糖症状が予防できなくなったら、ステロイドの投与を行います。ステロイドはインスリン作用に拮抗して、肝臓のグリコーゲン分解を刺激して、糖新生のための基質を間接的に供給します。プレドニゾロンを、初期用量0.5mg/kg/日として、2回に分けて投与します。投与量は、症状の改善をみながら調節します。症状を抑制するプレドニゾロンの必要量は、腫瘍や転移巣が増大するにつれて、増加します。

最終的には、プレドニゾロンによる副作用(多飲・多尿など)が生じますが、投与量を減らしても、治療は中止しないように。飼い主にも十分に説明をしておきましょう。

予後

インスリノーマの長期予後は、要注意です。内科療法に先立って、外科手術を実施した犬の方が、内科療法のみを行う犬よりも、生存期間が長いようです。内科療法のみの治療では、痙攣発作が再発したときや医原性の副腎皮質機能亢進症が発症したときの状態が悪く、安楽死を選択せざるを得ない状況になることもあります。

外科手術で予後が改善されるかどうか、も転移の程度によります。術後に、治療不可能な低血糖や膵炎を併発してしまうことが原因です。6ヶ月以上の長期にわたって低血糖や合併症を管理できれば、1年以上、生存することがあります。それでも、最終的に、治療できない低血糖によって死亡することがあります。

術後の内科治療に反応しなくなった犬でも、転移巣を摘出する手術で、再度、内科療法に反応することがあります。


ガストリン分泌腫瘍(ガストリノーマ)

ガストリノーマは、悪性の機能性腫瘍です。腫瘍からの過剰なガストリン分泌によって、胃の塩酸の分泌過剰が引き起こされて、症状が発現します。肝臓、付属リンパ節、脾臓、腸間膜に転移することがあります。

 症状

老齢動物で発症することが多く、嘔吐、体重減少、食欲不振、下痢が最もよく認められます。他には、胃や十二指腸の潰瘍と食道炎がみられて、吐血、血便、メレナ、吐出などが起こります。

胃酸過多で、腸管内容物が酸性化して、膵消化酵素の不活化、胆汁酸の沈殿、小腸粘膜細胞の障害が起こって、消化不良を伴う下痢や脂肪便が起こります。元気の消失、発熱、脱水、腹部痛に加えて、失血が重度で、潰瘍の穿孔があると、ショック症状に陥ります。

血液検査では、消化管の炎症や出血による再生性貧血、低蛋白血症、好中球増加を伴う白血球増加や、低アルブミン血症、低カルシウム血症、ALT・ALP活性の上昇などがみられます。嘔吐がひどい場合は、低クロール、低カリウム、代謝性アルカローシスが起こることもあります。尿検査では、異常はありません。

メレナや吐血が認められたり、内視鏡検査で胃や十二指腸に重度の潰瘍が認められる犬や猫では、ガストリノーマを疑っておくことも必要です。腹部X線検査所見も正常であることが多く、腹部エコー検査で膵臓の腫瘤がみつからない限り、重度の炎症性腸疾患や胃・十二指腸のびらんや潰瘍と診断してしまいます。エコー検査で腫瘤があって、消化器の炎症や潰瘍に対する内科治療が反応しない、抗潰瘍治療を中止した後に症状や消化管潰瘍が再発するような場合は、ガストリノーマの疑いが強くなります。

 治療と予後

治療は、腫瘍の外科的切除胃酸過多の是正です。消化管潰瘍に対しては、H2受容体拮抗薬(シメチジン、ファモチジンなど)、プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール)、消化管粘膜保護薬(スクラルファート)などで治療します。

治癒させるには、外科的切除が必要ですが、肝臓、付属リンパ節、腸間膜へ転移していることがよくあります。そうなると、予後は要注意です。潰瘍が消化管を穿孔しているときは、潰瘍部位の外科的な切除も必要になることがあります。

H2受容体拮抗薬で胃酸抑制して、スクラルファートで消化管を保護して潰瘍の治癒を促進することで、短期的な予後は改善されます。