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感覚器系の疾患/水晶体の疾患

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水晶体の疾患

ものを見るときのレンズの役割を果たすのが水晶体ですが、網膜に焦点を結んではっきりとした画像を得る役割を持っています。水晶体を固定している毛様小帯と毛様体筋の働きで、厚さを瞬時に調節しています。生まれつき水晶体がない、形が異常、定位置からズレている、透明性を失う、といったことが起こると、視覚障害が生じます。

白内障

水晶体が混濁すると、白内障です。核硬化症という疾患があって、水晶体の中心部に丸く青白い輪郭がみえるようになります。水晶体の老化によるものですが、こちらは視覚がなくなることはありません。この核硬化症を除いた水晶体の混濁が白内障ですが、犬で7歳齢を超えた頃から目立ってくる場合があります。

白内障は、加齢による変化です。犬種を問わず、どの犬にも起こる可能性がありますが、混濁はあっても視覚を失うことのない犬も多くいます。犬で、2歳齢までに生じる白内障は、若年性白内障と呼び、2~6歳齢で起こる白内障は、成犬性白内障と分類します。これらは遺伝的な疾患です。薬物や怪我によって生じる白内障や、糖尿病などによる全身性疾患に関連して起こる場合もあります。

白内障になって認められる症状は、眼が白く見えること、瞳孔が開いているなどの眼の症状もありますが、暗いところで動かなくなったり、段差のあるところでつまずいたり、ものにぶつかったり、壁伝いに歩くといった、視覚障害を示す症状が現れます。飼い主さんがおかしいと気づくのは、そういった行動変化で、よく見ると眼が白くなっている、ということに気づくことが多いようです。

犬は、多少眼が見えにくくなっても、嗅覚や聴覚、体表に伝わる感覚などで、住み慣れた環境では、さほど行動するに困らないようです。しかしながら、白内障が進行して、視覚を失うと、1日中、寝ているようになって、急に手を出すと、驚いて噛み付いてくることもあります。

白内障でも視覚が保たれている場合は、内科的治療が選択されますが、目薬や内服は期待できる効果が得られるものではありません。視覚障害や失明しているときは、手術をすることがあります。手術は、水晶体全体を取り出す方法と、切開創から超音波で水晶体内容物を砕いて吸い取る方法があります。しかし、レンズがなくなると、犬は極度の遠視になります。手術をしても近くが見えなくなるので、段差がわからなかったり、電柱にぶつかったり、躓いたりします。人工水晶体を挿入して対処するのですが、犬の水晶体は、人の水晶体の倍ぐらいの大きさでもあり、手術手技も煩雑です。術後の炎症もあり、安静と清潔さを保つことも大変です。簡単にはいかないので、飼い主さんもよく認識しておいて頂いた方がいいかと思います。

水晶体脱臼

水晶体の位置がずれたり、前房内や硝子体腔に変位した状態が水晶体脱臼です。原因は、鈍性外傷、緑内障による眼球の増大、白内障による水晶体の膨化、眼内腫瘍、遺伝要因などがあります。

水晶体が前房内へ脱臼すると、白眼の充血と激しい痛みがあって、ぶどう膜炎や緑内障を発症しやすくなります。しかしなばら、脱臼が起こっていても、緑内障やぶどう膜炎が起こっていなければ、無症状なこともあって、脱臼に気づかないことがよくあります。光を当ててみると、ズレいているのがわかります。水晶体脱臼の多くは、硝子体腔への後方脱臼で、光を当てると、水晶体が移動した反対方向の赤道部(水晶体の辺縁)が見えるようになります。

水晶体が前房内へ脱臼した場合(前方脱臼)は、水晶体が虹彩の上にあるので、赤道部全周が目視できるようになります。虹彩や瞳孔は、見えにくくなります。

後方脱臼で、ぶどう膜炎や緑内障が起こっていなければ、治療の必要はありません。前方脱臼では、水晶体の摘出手術を行います。