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泌尿器系の疾患/症状

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症状

頻尿と排尿困難

尿路下部に炎症が起きると、排尿の頻度が増加(頻尿)したり、いきみを伴う排尿困難・排尿障害を来たします。いきみは、痛みを伴う排尿障害で、何度もトイレに行ったり、排尿時に鳴き声をあげることもあります。

犬では、下部尿路炎症は、原発性の細菌感染で起こることが多いのですが、猫ではあまりありません。他の原因としては、尿石症や特発性膀胱炎による尿路の無菌性炎症、下部尿路を閉塞する腫瘍や尿管瘤で、頻脈や排尿困難が起こります。

そんな時は、まず触診です。膀胱を見つけましょう。膀胱の拡張、膀胱壁の肥厚、膀胱内に何かないか、確認して、何かあるならX線検査とエコー検査はしておくべきかと思います。尿検査、尿の細菌培養、エコーとX線で、原因が明らかになることも多いです。

抑うつ、嗜眠、食欲不振、嘔吐などの全身症状がみられたら、血液検査も行って、腎臓、前立腺/子宮についても、症状との関連性を精査しましょう。

尿道閉塞

機能的な要因・体の中で尿道を閉塞させる反応が起こっている場合と、解剖学的な要因・物理的に尿道を塞ぐ場合に、尿道の閉塞が起こります。尿道閉塞では、乏尿もしくは無尿が症状として現れますが、尿意はあるので、頻繁にトイレに行きます(頻尿)し、排尿困難の状態を呈します。よくあるのは、尿石症です。

機能的な要因なら、尿道カテーテルの挿入は簡単です。物理的に閉塞していると、尿道カテーテルの挿入が困難であったり、場合によっては不可能です。完全に尿道が閉塞しているなら、すぐに血液検査で、BUN・クレアチニン、カリウム濃度は調べましょう。高カリウム血症は、致死的な不整脈を起こす原因になりますので、迅速な治療が必要です。

尿路感染

何はともあれ、泌尿器系の疾患を疑うと、尿検査をしますが、尿検査をするには尿を採取しなければなりません。飼い主が持ってきてくれることもありますが、一番良いのは、膀胱穿刺で尿を採取することです。針を真っ直ぐに膀胱に向かって入れれば、犬も猫も痛がることなく、尿が採取できます。これは、若い先生も、練習しておくべきでしょう。膀胱穿刺以外では、膀胱へのカテーテルの挿入、膀胱を圧迫して排尿させる方法がありますが、完全に閉塞していると、膀胱穿刺以外、取りようがありません。

再発性、難治性の尿路感染が認められる犬や猫では、X線検査やエコー検査で、解剖学的な異常を探しましょう。原因として考えられるのは、腫瘍やポリープ、尿石、腎盂腎炎、前立腺炎、尿道瘤、尿膜管遺残などです。
機能的な原因として、ステロイドの長期投与、副腎皮質機能亢進症、慢性腎不全、糖尿病などの全身性疾患が関連していることがあります。

移行上皮癌

移行上皮癌は、犬で最も一般的な悪性の膀胱腫瘍です。猫では稀です。高齢犬で、血尿、頻尿、排尿困難があれば、疑ってみましょう。

触診や画像診断で、び慢性に肥厚する膀胱壁が確認できます。膀胱三角部での発生頻度が高いので、直腸検査でも触知できることがあります。腫瘍の種類と病期を確認するためには、生検と病理組織学的検査を行いましょう。

尿石症

尿石症では、尿路の炎症を示唆する所見がみられます。血尿、膿尿、上皮細胞の増加や蛋白尿が特徴的です。尿路系の疾患では、とにかく膀胱や尿道の触診から始めます。触診で尿石が触知できることがあります。排尿障害の押す犬では、尿道をしっかり触診しましょう。尿が充満していたり、炎症を起こして膀胱壁や尿道が肥厚しているとわかりにくいので、必要に応じてX線検査やエコー検査で確認するといいと思います。ストラバイトやシュウ酸カルシウム尿石は、X線透過性が低いので、見えます。尿酸アンモニウムはX線が透過してしまうので、見えません。ケイ酸塩やシスチンは、中間のX線透過性を示すので、石が小さく(直径<5mm)なければ確認できるでしょう。

ストラバイト: 最も頻度の高い結晶です。1歳齢以下の犬は、通常ストラバイトです。尿路感染が高確率でみられます。尿がアルカリ性になると出てきます。X線不透過(X線で映る)です。
ストラバイト

シュウ酸カルシウム: この写真は、二水和物です。一水和物は、細長い結晶です。高齢の雄犬に多くて、尿は、酸性から中性で、X線不透過です。高カルシウム血症が原因のことがあります。
シュウ酸Ca

尿酸アンモニウム: 暗黄色です。雄犬に多く、尿は、酸性から中性で、X線透過性ですのでX線検査では見えません。重度の肝不全の犬に多い傾向があります。
尿酸NH3

シスチン: 六角形の形をしてます。雄犬に多くて、尿は酸性です。中等度のX線透過性です。
シスチン

尿のpHは、結石の種類、細菌感染の併発、食事で変化します。ストラバイト尿石はアルカリ尿、とくにウレアーゼ産生菌が存在するとより出現しやすくなります。シスチン尿石は酸性尿シュウ酸塩・尿酸塩・ケイ酸塩は中性から酸性尿でみられることが多いのが特徴です。

尿の中の結晶(結晶尿)は、尿の濃度、pH、温度によって認められることがあります。結石がなくて、結晶尿が見られるのは、よくあることで、逆に結晶尿がなくても結石がみられることもあります。普通は、結石と結晶の成分は同じですが、ウレアーゼ産生菌は、シュウ酸カルシウム尿石やケイ酸尿石中の尿にストラバイト結晶を生成することがあります。

尿石が認められたら、尿路感染が併発していることが多いので、尿の細菌培養と感受性試験を行っておいた方がいいでしょう。結石を除去する手術をした場合には、膀胱の粘膜や結石にも細菌が隠れていることがありますので、膀胱粘膜と結石の小片を細菌培養しておきましょう。
尿石を摘出したときには、尿石の定量分析を行います。種類を特定しておくことで、尿石の溶解や再発防止に管理が容易になります。

下部尿路疾患

下部尿路疾患は、とくに猫(とくに、雄)で起こる泌尿器疾患で、頻尿、排尿困難、血尿、不適切な排尿が認められます。尿路閉塞を起こしている雄猫は、半日から1日程度では、頻繁に排尿姿勢を取って、陰部を舐めたり、ウロウロしたり、不安な様子で鳴いたりします。閉塞が2日程度続いてしまうと、腎後性高窒素血症や高カリウム血症を呈してしまい、食欲不振、嘔吐、脱水、抑うつ、虚脱、昏迷、低体温、アシドーシスや徐脈がみられることがあります。突然死も起こりうるので、おしっこが出ていないなら、すぐに病院に行きましょう。

不完全な閉塞なら、圧迫排尿も可能で、見た目は比較的健康な状態です。完全に閉塞している猫は、腹部の触診で痛みを伴うので怒ります。不完全な閉塞状態でも、疼痛を感じる猫がいます。膀胱が完全に閉塞すると、圧迫排尿は困難です。圧迫の勢いで開通することもありますが、膀胱内圧の上昇で膀胱壁が損傷して破損することもありますので、十分に注意して触診を行いましょう。膀胱が、あり得ないぐらい大きくなってることもあります。

頻尿、排尿困難、血尿が急性にみられる猫は、下部尿路疾患が示唆されます。触診をして、尿の残量を確認、膀胱内に腫瘤や結石の有無を確認して、尿を採取して尿検査を行います。

閉塞のない猫は、多くの場合、無菌性の尿で、食事療法を行えば反応します。1週間で効果がなければ、再度、尿を採取して、尿の培養と感受性検査、腹部X線検査、腹部エコー検査、必要に応じて膀胱や尿道の造影を行います。

血尿

尿中に異常に赤血球が存在する状態が血尿です。飼い主さんは、赤い尿(肉眼的血尿)をみると結構驚いて、病院に飛んできます。見た目は赤くなくても、血液が混じっていること(顕微鏡的血尿;潜血尿)があります。尿試験紙検査で反応がでることがありますが、尿試験紙検査ではヘモグロビン(血色素)もミオグロビン(筋色素)も検出するので、尿試験紙検査で陽性=血尿とは限りませんので、必ず、遠心分離して、尿沈渣を調べましょう。

頻尿と排尿困難を伴う血尿は、普通は下部尿路疾患によるものです。潜血尿も、頻尿や排尿困難の犬や猫に多い状態です。その症状がなく血尿が出てるのであれば、上部尿路からの出血であると考えられます。出血部位と基礎疾患を特定するために検査を行います。

血尿の原因の多くは、泌尿生殖器の炎症、外傷、腫瘍ですが、全身性の出血性疾患、激しい運動、熱中症、腎梗塞で起きます。
排尿の初めに生じる血尿(初期血尿)は、下部尿路からの出血と考える方がいいでしょう。尿道、膣、会陰部、陰茎、包皮からの出血を確認しましょう。発情前期、子宮炎、子宮蓄膿症、前立腺疾患、生殖器の腫瘍など、泌尿器以外の原因も、初期血尿の要因となります。
排尿の最後に生じる血尿(終末期血尿)は、上部尿路からの出血と考えるのが妥当です。膀胱、尿管、腎臓からの出血を疑いましょう。終末期血尿は、赤血球が膀胱内に沈殿して尿の最後に排出されるので、間欠的でもあります。排尿を通じで常に生じる血尿(全血尿)も、膀胱、尿管、腎臓からの出血です。
偽血尿というのは、見た目は赤いですが、ヘモグロビン(血色素)、ミオグロビン(筋色素)、薬物や食用色素が混入していることに起こります。尿を遠心分離しても、上清が着色したままなら、偽血尿です。

血尿の原因が下部尿路の炎症、外傷、腫瘍であるなら、症状は、頻尿と排尿困難です。上部尿路からの出血ですと、抑うつ、嗜眠、食用不振、嘔吐、下痢、体重減少、腹部疼痛を伴うことが多いのですが、無症状であることもあります。上部尿路からの出血で、血餅が膀胱内に形成されて、排尿困難を示すこともあります。泌尿器系以外からの出血の場合は、他の徴候を見逃さないようにしましょう。生殖器からの出血だと、排尿と無関係な出血があるかも知れませんし、可能性の膣や尿道からの分泌物、発情前期に行動の変化、前立腺疾患なら排便時にしぶりもみられます。X線検査、エコー検査、膀胱鏡検査から出血部位と原因が特定されることもありますが、試験開腹や生検(腎臓、膀胱、前立腺)が必要な場合もあります。

血尿の評価は系統立てて確認していきましょう。
腎臓を触診して、大きさ・形・硬さ・対称性・疼痛の有無を確認します。膀胱内の腫瘤・結石・壁の肥厚の評価、排尿の観察、尿を採取して尿検査を行います。血尿の出る時期、出方、排尿困難の有無も確認します。直腸検診で、前立腺や尿道、膀胱三角を調べましょう。雄犬では、会陰尿道の触診、陰茎を包皮から露出させて腫瘤、外傷、尿道脱の有無をみます。最後に、尿道カテーテルで尿道の開通性を確認しましょう。

膀胱穿刺で採取した尿と、自然排尿した尿を比較することで、下部尿路や生殖器の疾患による血尿か、上部尿路疾患による血尿かを区別できます。膀胱穿刺では、尿道、膣、外陰部、包皮、子宮からの細菌、細胞、壊死組織片の混入を防げます。前立腺疾患がある場合は、穿刺尿にも異常はみられますので、穿刺尿の異常は、膀胱、尿管、腎臓か、前立腺の異常が疑われます。カテーテルの挿入、圧迫排尿、頻回の膀胱穿刺で外傷性の血尿が生じうることは考慮しておかなくてはなりません。

尿検査は、採尿後、可及的速やかに行いましょう。尿沈渣も必ず実施します。尿沈渣では、赤血球、白血球、上皮細胞、腫瘍細胞、円柱、結晶、。寄生虫卵、細菌も評価します。尿が室温で30分以上放置されると、ウレアーゼ活性菌が増殖して、尿のpHが上昇します。赤血球、白血球、円柱が破壊されたり溶解したりもします。結晶の組成が変化することもあります。低張尿が赤血球や白血球を溶解する原因になって、赤血球の破壊はヘモグロビン尿と血尿が混在することになってしまいます。尿を採取して、しばらく検査できないときは、密閉された無菌容器に入れて、冷蔵で保存しましょう。

全身症状を伴う血尿の犬や猫は、血液検査も実施しておくべきです。炎症性の白血球は、子宮炎、子宮蓄膿症、急性細菌性腎盂腎炎、前立腺炎で認められます。高窒素血症を示すようなら、腎実質や尿排泄路の破綻を示唆(腎前性疾患は除外される)します。血尿による失血がひどい時や全身性の出血傾向があるなら、凝固系検査、血小板数の測定、出血時間の評価を行いましょう。

考えられる血尿の原因

泌尿器による出血泌尿器以外からの出血
排尿の初めの血尿
 尿道の問題
(外傷・感染・尿石症・腫瘍・肉芽腫性尿道炎)
 膀胱三角領域:腫瘍

前立腺:感染・嚢胞・膿瘍・腫瘍
子宮:感染・腫瘍・発情前期・退縮不全
包皮/陰茎:腫瘍・外傷 
常に血尿/排尿の最後に血尿
 偽血尿
 腎臓、尿管、膀胱
(外傷・感染・尿石症・腫瘍・寄生虫・薬物性)
 猫下部尿路疾患
 腎梗塞
 腎毛細血管拡張症
 特発性腎性血尿

前立腺:感染・嚢胞・膿瘍・腫瘍
止血異常
熱中症
激しい運動




排尿障害

排尿障害には、尿のうっ滞と漏出(尿失禁)があります。尿失禁は、不適切な排泄のことで、先天的なことで起こる場合もあり、失禁する犬や猫では、膀胱の大きさ、拡張しているのか、小さいのか、正常なのかを確認することが必要です。

尿の貯留で拡張した膀胱は、排尿筋の収縮力低下もしくは流出路抵抗の増大に起因します。流出路抵抗の増大は、尿道結石や反射強調不全などで起こります。
尿失禁は、一般的には流出路抵抗の低下や排尿筋の収縮力増大によって起こります。なので、膀胱は正常か、正常以下の大きさですが、尿貯留を引き起こす疾患で尿が貯留(膀胱拡張)し、膀胱内圧が上昇して流出路の抵抗圧を超えてしまうと起こることもあります。

  •  診断
    •  初発の年齢、避妊・去勢の有無と実施していればその時の年齢、投薬歴、外傷や過去の泌尿器系の疾患歴の問診が重要です。
    •  排尿痛や尿の着色を確認して、膀胱の大きさ、壁の厚さを触診で評価します。直腸検査で、肛門の緊張度、前立腺、膀胱三角を触診しましょう。雌犬は、膣の狭窄や異所性尿管などの先天的な異常にも注意が必要です。
    •  神経学的な検査も必要です。会陰反射と球海綿体反射を見ましょう。会陰反射は、会陰部の皮膚を摘んで、肛門括約筋が収縮して、尾を腹側に曲げる反射です。球海綿体反射は、尿道球または外陰部を軽く圧迫すると、肛門括約筋が収縮する反射です。陰部神経と仙骨神経(S1~S3)に支配されてます。反射が悪いと、尿失禁の恐れがあります。
    •  排尿姿勢や尿の出方も確認しておきましょう。排尿直後の膀胱の残尿量も調べます。尿は採取して、必ず尿検査をします。必要なら、細菌培養も行いましょう。
  •  治療
    •  排尿筋収縮低下 ⇒ 副交感神経作動薬
    •  尿道緊張性低下 ⇒ αアドレナリン作動薬・ホルモン補充療法
    •  尿道緊張性亢進 ⇒ α交感神経遮断薬・筋弛緩薬
    •  排尿筋過剰収縮 ⇒ 原因となる炎症性疾患の治療
    •  重度の炎症 ⇒ 抗痙攣薬と副交感神経遮断薬

です。詳しくは、排尿障害のページに。

尿失禁の原因特徴
大きい膀胱
 下位運動ニューロン障害
 上位運動ニューロン障害
 反射性筋失調

 流出路尿路閉塞


尿漏れ。圧迫排尿可能。
圧迫排尿が困難。麻痺がみられることも。
圧迫排尿は困難だが、カテーテル挿入は容易。
   尿の排出が途中で中断。大型犬種の雄犬に多い。
尿漏れと排尿困難。圧迫排尿とカテーテル挿入が困難。雄に多い。 
小さい膀胱
 尿道括約筋不全症

 排尿筋反射亢進
 先天性異常

寝ている時やくつろいでいる時に尿漏れ。
   中高齢の避妊犬や去勢犬に多い。
頻尿、排尿困難、血尿、細菌尿
持続的な尿漏れ。若齢動物に起こる。

 拡張した膀胱

膀胱の拡張を伴う尿失禁には、神経学的な障害と流出路の尿路閉塞疾患が考えられます。神経学的な障害では、運動ニューロンの障害と反射性筋失調が原因になります。神経学的検査で、神経学的な障害や異常が判明したら、膀胱の状態を見て、病変部を同定して、原因となるニューロンの障害が、上位運動ニューロン(第5腰椎より頭側)なのか、下位運動ニューロン(第5腰椎より尾側)なのかを区別できます。

下位運動ニューロン障害の特徴的な膀胱の症状は、容易に圧迫排尿できる膀胱の拡張です。膀胱神経支配に影響を与える下位運動ニューロン障害は、括約筋と排尿筋の反射低下を引き起こして、障害部位がS1~S3を含むと、会陰反射と球海綿体反射も消失します。
上位運動ニューロン障害が認められる症例では、圧迫排尿が困難な大きく拡張した膀胱が認められます。不全麻痺・完全麻痺の原因にもなります。上位運動ニューロン障害の動物では、陰部神経の体性遠心性抑制が欠如するので、随意的な排尿の調節が出来なくなって、尿道括約筋の反射が過剰に興奮するので、膀胱の圧迫排尿が難しくなります。但し、上位運動ニューロン障害で拡張した膀胱では、排尿筋の伸張によって反射性収縮が起きるため、わずかに排尿(尿漏れ)がみられます。

反射性筋失調や排尿筋・尿道筋筋失調は雄の大型犬でよく認められます。原因の特定は難しいですが、神経障害が原因でしょう。反射性失調は、尿道括約筋の弛緩を伴わない排尿筋の能動的な収縮で生じます。特徴的な症状は、排尿の始まりは正常なのですが、だんだんと細い尿になっていくことです。尿が噴出したり、尿が途中で中断してしまって、排尿のために力むことが多いのも特徴です。その後は、尿が滴って、歩きながらぽたぽたと尿を漏らすこともあります。カテーテルの挿入は簡単にできます。

流出路尿路閉塞を有する動物の尿失禁は、膀胱内圧が尿道内圧を超えたときに、尿道や膀胱破裂が起こる前に尿が閉塞を通り抜けて漏出することで起こります。尿の滴下、尿が出ないのに排尿しようとするしぶり、落ち着きがない、腹部疼痛などの症状があります。原因は、結石、腫瘍、尿道閉塞、肉芽腫性尿道炎などです。犬の前立腺疾患も原因となり得ます。前立腺過形成を伴う高齢犬では、排尿困難としぶりの症状を訴えて検査をすることが多いのですが、流出路尿路閉塞の原因としては、前立腺腫瘍や前立腺膿瘍の方が一般的です。

 正常な大きさの膀胱

膀胱の大きさが正常で尿失禁をする場合、尿道括約筋不全症、排尿筋反射亢進、先天的な異常が、原因として考えられます。
エストロジェンやテストステロンは、αアドレナリン作動性神経支配への反応性を増加させて、正常な尿道筋緊張を保っています。なので、中高齢の避妊犬では、エストロジェン濃度の低下で尿失禁が起こりやすく、眠っている状態やくつろいでる時によく認められます。エストロジェンの補充で改善します。同じように、高齢の去勢犬でもみられる症状で、テストステロンを筋肉内投与で反応します。

尿道括約筋不全症の犬では、αアドレナリン作動薬の投与が有効で、重症な場合には、ホルモン補充療法を併用します。但し、問題行動、前立腺疾患、会陰部疾患によって去勢された犬には、テストステロンの治療は禁忌です。αアドレナリン作動薬を用いるので、高血圧の症例には注意して投与しましょう。

排尿筋反射が亢進している症例、もしくは不安定な症例では、強い切迫性排尿のために、排尿の調節が不可能になります。膀胱や尿道の炎症で、膀胱に膨満感があって、それが排尿反射のトリガーになります。症状は、頻尿、排尿困難、頻繁な血尿です。犬では細菌性尿路感染、猫では無菌性の下部尿路疾患がよくある原因です。尿検査で、尿路感染、細菌尿、膿尿、血尿があれば、切迫性や炎症性失禁と考えます。炎症の治療を開始しても症状が続くなら、膀胱の浸潤性疾患(腫瘍や慢性膀胱炎)、ポリープ、尿石、尿膜管遺残が、頻尿や排尿困難の原因と感がられます。エコー検査やX線造影検査、膀胱鏡を使った検査が必要です。特発的に起こることもあるので、注意しましょう。

若齢動物で尿失禁は、先天的な欠陥で認められることがあります。異所性尿管と膣狭窄がよくある先天性の異常です。雌犬で発生する方が多い異常で、犬種特異性もあります。異所性尿管があると、持続的な尿漏れが症状としてみられますが、片側だけの異所性尿管なら正常に排尿できることがあります。犬の異所性尿管の70%程度は、直接、膣に尿道が開口するので、膣鏡を使えば開口部を確認できることもあります。
膣狭窄による尿失禁は、間欠的です。体位を変えると尿漏れが認められます。

尿失禁は、高齢の犬や猫で多いことは想定できます。他には、認知症、膀胱容量の減少、運動性低下でも起こります。高齢になると、慢性腎不全や糖尿病のような多飲多尿を示す疾患に罹患することも多いので、尿失禁を助長することになります。そのような疾患では、利尿薬やステロイドの投与は、尿の濃縮を妨げるので避けるべきです。

多飲多尿

多飲と多尿は、よくみられる症状です。犬でも猫でも、目安としては、飲水量が80~100mL/kg/日以上尿量が40~50mL/kg/日以上です。注意することは、正常範囲内でも、個々の犬や猫によっては異常であることもある、ということです。多飲と多尿は、通常、同時に起こります。どちらが多いのか、を判断するのも必要になってきます。

多頭飼いの飼い主は、気付きづらいのですが、多飲では、水入れがすぐに空になったり、他のところにある水まで飲もうとする行動がみられます。飼い主が多尿に気付くのは、夜間の多尿や頻尿、失禁があったときです。主訴とともに、十分に問診で病歴や自宅での様子を伺いましょう。原疾患を考えていくことが必要になります。

多飲多尿の原因

多飲多尿
心因性
肝不全
門脈体循環シャント









下垂体性尿崩症
腎性尿崩症
腎機能障害・腎不全
副腎皮質機能亢進症・低下症
肝不全
子宮蓄膿症
高カルシウム血症
高カリウム血症
閉塞後性利尿
糖尿病
甲状腺機能亢進症
薬物性

リンパ節の腫大や肛門周囲の腫瘤では、高カルシウム血症を示すことがあり、白内障(⇒糖尿病)、体幹部の対称性脱毛(⇒副腎皮質機能亢進症)、膣分泌物(⇒子宮蓄膿症)、凸凹のある腎臓(⇒慢性腎臓病)では多飲多尿を示すので、鑑別診断リストの一つとして重要です。多飲多尿を示す犬や猫では、血液検査、尿検査、胸部・腹部X線検査、エコー検査は最低限、実施しておきたい検査です。

喉の渇きは、浸透圧に影響を受けます。細胞外液の浸透圧上昇が、水分喪失や高張液を摂取または静脈内投与されると起こります。高浸透圧血症は、浸透圧受容器の脱水を起こして、喉の渇きを刺激します。動脈血圧の低下、体温上昇、疼痛、薬物によっても渇きは刺激されます。喉の渇きは、細胞外液量の増加、動脈圧の上昇、飲水、胃の充満で抑えられます。腎機能は正常で、過剰な水分を排泄するため、二次的に多尿が生じます。

腎臓は、糸球体で水分と脂質を再吸収して体液の組成と量を維持しています。水分が過剰になると、脂質の再吸収で希釈尿が産生されます。逆に、脂質が過剰になると、水分の再吸収で濃縮尿が産生されます。濃縮尿の産生には、抗利尿ホルモンが産生されて放出されます。腎尿細管が抗利尿ホルモンに反応します。抗利尿ホルモンがあると、遠位曲尿細管後部と集合管での水分に対する透過性が上昇して、水分が尿細管腔から再吸収されます。
この抗利尿ホルモンの欠乏によって起きる原発性の多尿は、下垂体性尿崩症、抗利尿ホルモンに反応しない多尿は、腎性尿崩症と呼びます。

尿比重を調べておくことは、原疾患の特定や、本当に多尿であるのか、を確認するために重要です。

尿比重 
1.001~1.007低張尿
1.008~1.012等張尿(血漿と同じ比重)
犬: 1.013~1.030
猫: 1.013~1.035
軽度濃縮尿
犬: >1.030
猫: >1.035
高張尿

尿比重と、動物の脱水状態、BUN値、クレアチニン値、現在の投薬内容を合わせて考えていきます。多飲多尿の犬や猫は、高張尿を示すことは、まずありません。原発性の多飲の症例や下垂体性尿崩症では、低張尿を示します。腎性尿崩症では、等張尿から軽度濃縮尿を示します。原因がはっきりしないなら、血漿浸透圧測定、段階的な水制限試験、外因性抗利尿ホルモンに対する反応を調べる特別な検査が診断には必要です。

蛋白尿

糸球体毛細血管壁の蛋白の分子量と電荷に基づく選択的透過性によって、ほとんどの蛋白質の濾過は妨げられます。尿中には、通常、蛋白はほとんどない、ということです。糸球体毛細血管壁は陰性に荷電しているので、陰性荷電蛋白(アルブミンなど)はさらに尿中に出てきません。糸球体毛細血管壁を通過する小さな分子量の蛋白質や陽性荷電蛋白は、近位尿細管上皮細胞に再吸収されます。再吸収された蛋白は、分解されて上皮細胞に利用されたり、血流に戻って再利用されます。

腎性蛋白尿は、多くは糸球体毛細血管壁の病変によるものです。濾過されずに、尿中に排泄されるということです。尿細管病変は、濾過された蛋白(主にアルブミン)の再吸収が低下して、尿中に蛋白質が排泄されます。

尿蛋白の評価は、尿比重と尿沈渣の結果を考慮して行います。
同じ尿蛋白2+であっても、尿比重が1.010と1.040では、比重が軽い方がより重篤です。尿蛋白は下部尿路疾患や血尿で増加するので、尿蛋白がみられるようであれば、尿沈渣で、細菌、白血球や赤血球、上皮細胞の増加をしっかり評価しましょう。

激しい運動や、発作、発熱、極度の暑さや寒さ、ストレスが蛋白尿誘発の原因になりますが、これらは一過性のものであり、原因を除去すれば改善します。
持続性の蛋白尿が確認されたら、その原因を特定すべきです。泌尿器以外の異常によっても生じて、糸球体で濾過されて近位尿細管での再吸収能を超える量の低分子蛋白の産生が、一因です。血色素尿や、うっ血性心不全が招く腎臓のうっ血、生殖器の炎症が、原疾患となり得ます。
泌尿器性の蛋白尿では、上記、下部尿路疾患や出血が最も多い原因です。尿沈渣では、尿石、腫瘍、外傷、細菌性膀胱炎を示唆する所見がみられます。腎臓の疾患が原因となるのは、糸球体の障害(糸球体腎炎やアミロイド症)、腎臓の炎症性疾患や浸潤性疾患(腎盂腎炎や腫瘍)、尿細管の異常(ファンコーニ症候群など)です。

高窒素血症

血中の尿素とクレアチニン濃度の上昇で起こる病態です。
尿素は、摂取蛋白と内因性蛋白の異化作用で生成されたアンモニアから、肝臓で産生されます。尿素産生は、食物性蛋白摂取量の増加、上部消化管出血、体内蛋白の分解を起こす異化亢進状態(発熱やステロイド投与)で増加します。尿素は低分子量で、体内に拡散していきます。腸管腔内に拡散した尿素は、腸内細菌でアンモニアに分解された後、再吸収されて門脈循環から肝臓で尿素に再変換されます。尿素は腎臓から排泄されるのですが、糸球体で自由に濾過されて、尿細管で受動的に再吸収されます。尿細管の流速と流量が減少すると、尿細管での尿素の再吸収が増加して、排泄量が減少します。つまり、血中の尿素濃度が上がります。これは、脱水や心拍出量の減少による腎血流量の減少(腎前性)と、尿道閉塞や膀胱破裂などによる尿排泄量の減少(腎後性)で起こるわけです。

クレアチニンは、筋のホスホクレアチニンとクレアチニンの非酵素代謝によって、非可逆的に形成されます。クレアチニンの産生量は、筋肉量に比例しており、筋肉量の多い動物の方が産生量が多くなります。クレアチニンの分子量は尿素よりも大きく、ゆっくりと体液内へ拡散します。クレアチニンの一部は腸管内に拡散して腸内細菌に分解されて糞便中に排泄されますが、ほとんどは腎臓から排泄されます。糸球体で自由濾過され、腎尿細管でほとんど再吸収されません。クレアチニンの産生は、各個体で一定なので、血清クレアチニン濃度の上昇は、腎臓からの排泄低下を示します。

クレアチニンが正常で、BUNが高値の場合、高蛋白食の摂取、上部消化管出血、腎前性高窒素血症に関連した尿細管の尿素の再吸収の増加が起こっていると考えられます。クレアチニンが正常で、BUNが低値の場合、肝機能低下、門脈体循環シャントの存在、低蛋白食、長期の利尿による影響が示唆されます。

高窒素血症は、腎前性、腎性、腎後性に分けて考えていきます。
腎血流量の減少を引き起こす状態は、全て腎前性高窒素血症の原因になります。循環血液量の減少、低血圧、大動脈や腎動脈の血栓形成がその一因です。腎前性高窒素血症の腎臓は、機能も構造も正常です。水分とナトリウムを保持して腎血流量の低下に対応できます。この時、ナトリウム濃度が低く、クレアチニン濃度の高い高張尿が産生されます。基礎疾患が、腎実質に障害を与えるほどでなければ、基礎疾患を除去して改善できます。

腎後性の高窒素血症は、尿路の閉塞や破裂で起こります。初期の腎臓は正常です。尿比重は病状によって異なります。如道閉塞ではカテーテルの挿入が困難で、排尿困難が一般的な症状です。尿路の破裂は、尿道や膀胱で発生して、腹水や皮下の液体貯留の原因になります。貯留液は、無菌性です。腎臓が尿を生成して腹腔内に流れてくるため、腹水は、血中よりも高濃度のクレアチニンを含んでいます。

腎性の高窒素血症は、ネフロンの喪失や障害の結果として起こります。等張尿や軽度濃縮尿の高窒素血症が持続すると、腎性高窒素血症であると判断できます。腎前性高窒素血症でも、腎性高窒素血症でも、脱水症状が生じて、輸液療法を行うことが多いのですが、予後は全く異なります。腎性高窒素血症の場合、輸液療法だけでは完全な改善はみられません。腎前性高窒素血症は、循環血液量の減少を補正できれば急速に改善します。

腎腫大

腎腫大は触診や画像診断で明らかになります。猫の腎臓の大きさは、だいたい4cm前後。犬は体重、体の大きさで変わります。

腫大した腎臓は、浮腫、急性炎症、び慢性浸潤性腫瘍性病変、片側性代償性肥大、外傷、腎周囲嚢胞、水腎症で起こります。腫瘍、嚢胞、膿瘍、水腎症や血腫では、異常な形の腎腫大がみられることもあります。

最近は、高画質のエコーでしっかり観察できます。水腎症や膿瘍、腎周囲や腎実質の嚢胞に有用です。