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皮膚の疾患/感染性皮膚炎

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感染性皮膚炎

犬の濃皮症は、原発で起こることは実は少なくて、多くは、アトピー性皮膚炎、甲状腺機能低下症、脂漏症などの基礎疾患に続発して起こることを注意しておかないといけません。

表在性膿皮症

犬の表在性膿皮症は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)から分かれて分類されたStaphylococcus pseudintermediusが原因菌としてほとんどを占めることがわかっています。表在性膿皮症の多くは、痒みを伴う毛包炎の症状を示します。毛包炎は、毛包部分に紅斑性の丘疹や、小型の膿庖としてみられるものです。丘疹や膿庖をよく観察すると、丘疹や膿庖部に毛や毛穴が認められます。毛包炎は、周囲に拡大・融合して、表皮小環を形成することがあります。

表皮小環は、環状の皮疹で、周囲に拡大する傾向があって、最外側はやや盛り上がって発赤して、その上に膿庖や膿庖が潰れてびらんを示した結果、鱗屑や痂皮が付着します。表皮小環中心部は、治癒傾向にあるか、色素沈着が認められます。表皮小環は、膿皮症に特異的な所見ではありませんが、表皮小環は表在性膿皮症であると考えて構いません。

診断
表在性膿皮症は、毛包炎や表皮小環などの症状から強く疑うことができますが、病変部の細胞診と細菌培養によって確認して治療の方向性を正確に決めることが可能です。感受性試験の結果で原因菌を確定して、より適切な抗菌薬を選択するといいのでしょうが、ほぼ原因菌は、Staphylococcus pseudintermediusのはずです。

丘疹を鋭匙で掻爬して、スライドグラスを壊れた丘疹表面に押し付けて、滲出液の塗沫染色標本を作成して観察します。表皮小環の最も外側の痂皮、鱗屑を剥がして、その下のびらん面や皮膚にスライドグラスを擦り付けて、採材することも可能です。膿庖の表面を消毒した後、25G程度の針で膿庖を潰した後、膿庖の内容物をスライドグラスに塗沫することもあります。膿庖内容物を針に吸引してから、スライドグラスに落としても構いません。

塗沫に球菌が存在するかどうか、を観察します。好中球による球菌の貪食の有無も観察します。さらに、好中球の変性像が認められるかを観察します。好中球は、変性すると、核が不明瞭になって、完全に崩壊すると青い線が認められます。

治療
最初に投与する抗菌薬は、経験的に選択します。表在性膿皮症の原因菌は、ほとんどがStaphylococcus pseudintermediusなので、初診時は必ずしも細菌培養をする必要がありません。2週間後に再診にて、再評価を行って、改善が認められないなら、細胞診、細菌培養と感受性試験を行って、結果に基づいた抗菌薬を選択します。

  •  セフェム系抗生物質: セファレキシン・セファラジン・セフォベシン
  •  サルファ合剤: オルメトプリル+スルファジアジン・トリメトプリム+スファジアジン
  •  フルオノキノロン系抗菌薬: マルボフロキサシン・エンロフロキサシン・オルビフロキサシン・オフロキサシン
  •  アンピシリン+βラクタマーゼ阻害剤

抗菌薬の用量は、一般的に報告されている用量を十分な期間投与します。セファレキシンであれば、3週間は必要です。症状が消失してから、少なくとも1週間は継続しておいた方がいいです。服用を嫌がる犬や猫に対しては、投与回数が少ない薬剤や、投与方法を考慮してあげるといいと思います。

治療に際して重要なのは、可能な限り、セファレキシンで治療を開始することと、十分な用量で十分な期間投与することです。これは多剤耐性菌の出現を防止するために、必要なことですので、中途半端な投与は絶対に止めましょう。難治性の場合は、確実に投与されているのか、基礎疾患がないか、を確認しなければなりません。

処方例
セファレキシン 
     25~30mg/kg・PO・BID
マルボフロキサシン(ゼナキル) 
     5mg/kg・PO・SID
エンロフロキサシン(バイトリル) 
     5mg/kg・PO/SC・SID
オルビフロキサシン(ビクタスS) 
     2.5~5mg/kg・PO/SC・SID
オフロキサシン(ウェルメイト、タリビット) 
     5mg/kg・PO・SID

外用療法
抗菌性シャンプーなどを用いる外用療法は、細菌を皮膚表面から物理的に除去して、細菌の増殖を抑制して、炎症性代謝物や皮膚の残屑を取り除いてくれます。補助療法として、膿皮症の治療に有効です。クロルヘキシジンなどを含んだシャンプーを、週に2~3回程度用います。シャンプーは、すぐに洗い流さずに、5~10分程度、患部と接触させてから流します。シャンプーは頻度が多すぎると、脂分を除去してしまうので、皮膚が過剰に乾燥して、バリアー機能が低下して、刺激に対して過敏になって、痒みを誘発して症状を悪化させてしまうことがあります。頻度を守りつつ、それでも乾燥していると感じた場合は、セラミド、プロピレングリコール、グリセリンなどを含む保湿性のシャンプーを併用します。


深在性膿皮症

深在性膿皮症は、皮膚の深部に起因する細菌感染症で、主に毛包より下部に起きる細菌感染症です。但し、深在性膿皮症は、皮膚の深部に原発する感染症であることは稀で、ほとんどが毛包炎や他の真皮上部の感染症が拡大したものです。咬傷、舐めること、外傷、異物などに続発することもあります。深在性膿皮症の病変が拡大すると、毛包炎、フルンケル、フレグモーネ(蜂窩織炎)と呼ばれます。毛包炎は、単一の毛包に限局して化膿性の腫脹を伴いますが、単一の毛包に限局して病態が進むものをフルンケル、皮下組織まで侵すものをフレグモーネと分類します。

病因となる細菌は、ブドウ球菌が多いですが、表在性膿皮症とは異なって、大腸菌など他の様々な菌が関連する可能性があります。

症状
痂皮を認めることもありますし、潰瘍や瘻孔が認められて、出血、血様膿、膿様物質を排出します。通常、病変部の炎症が強くて、皮膚の強い発赤、熱感、浮腫、浸潤がみられます。排出物、滲出物を認めない部分でも、触診で浸潤が確認できることがあります。

表在性膿皮症では、痒み以外の症状を認めることはあまりありませんが、深在性膿皮症では、発熱、疼痛、食欲不振、運動性低下、左方変位を伴う白血球数増加を併発することがあります。

鑑別診断には、毛包虫症、結節性無菌性皮下脂肪織炎、深在性真菌症、全身性エリテマトーデスなどがあります。

診断
病変部から滲出液、膿などを採取して、染色して、細胞診を行いましょう。球菌、桿菌、変性好中球の存在を確認して、初診時から細菌培養と感受性試験を行った方がいいと思います。必要に応じて、真菌培養もしておくといいでしょう。飼い主からのステロイド投与の有無などを聞き取った上で、全身の精査を行って、基礎疾患の特定をしていきます。

四肢の趾間に発生する深在性膿皮症では、舐めることによって毛包が破壊されて、異物である毛幹が真皮内に露出することで、異物性の肉芽腫を伴うフルンケルとなります。この病態は、抗菌薬と消毒だけでは治療に非常に時間が掛かります。

難治性の深在性膿皮症では、異物の検出や他の疾患の否定のために、生検や病理組織学的検査を行った方がいいと思います。

治療
深在性膿皮症の治療方針は、表在性膿皮症と同じですが、表在性膿皮症と比較して治癒には時間が掛かります。感受性試験で、適切な抗菌薬を選択して治療を行っても、治癒までに1~3ヶ月程度を要すると考えておきましょう。

抗菌薬や消毒薬などに反応しない場合、生検とデブリードマンなどの外科的処置、基礎疾患の精査が必要です。

マラセチア性皮膚炎

犬や猫の表皮角質に常在する酵母様真菌であるMalassezia pachydermatisが原因菌です。皮膚、耳道、会陰部、肛門周囲から検出されます。好酸性の非脂質依存性の微生物で、湿潤や皮脂の多い皮膚の環境で増殖しやすい特徴があります。マラセチア性皮膚炎は、皮膚の微小環境の変化や宿主の免疫機能の変化によって病原性を発症すると考えられています。

マラセチアによる皮膚炎の病態は明らかではないのですが、酵母が産生した物質による炎症や、抗原としての関与が示唆されています。また、マラセチア菌は、ブドウ球菌と共生関係があるようで、細胞増殖因子の産生や微小環境を変化させて、互いに有益な環境を作るようです。そのため、マラセチア性皮膚炎の多くは、膿皮症を併発します。

マラセチア性皮膚炎は、犬種・年齢・性別を問いませんが、マラセチアが増殖しやすい犬種は、本態性脂漏症の好発犬種です。他の皮膚疾患に二次的に生じることも多くて、その背景として、アレルギー性皮膚炎や甲状腺機能低下症、角化異常などがあります。

症状
マラセチア性皮膚炎は、高温多湿の季節に悪化する傾向があって、強い痒みを生じます。ステロイド治療には抵抗性があります。皮疹はワックス様の皮脂や鱗屑を伴う紅斑で、耳・口唇・口吻・頸部腹側・液窩・趾間・爪囲・下腹部・大腿部内側・外陰部間擦部・肛門周囲に好発ます。独特の脂っぽい臭気があります。

慢性病変では、色素沈着や苔癬化を呈して、掻いて裂毛や外傷が見られることもあります。

診断
診断は、細胞診でマラセチアを検出することです。皮脂が多くて広い病変部では、スライドグラスを皮膚に圧着させると採材できます。趾間や爪囲では、テープや綿棒で採材が可能です。

治療
マラセチア性皮膚炎の治療は、全身療法と外用療法を行います。マラセチアの検出数と臨床症状の重症度は必ずしも一致しないので、全身療法による治療は重要です。膿皮症の合併も多いので、必要に応じて抗菌薬を併用します。

マラセチア性皮膚炎は、強い痒みを生じますが、他の瘙痒性疾患が合併していなければ、治療で痒みは治まります。なので、ステロイド剤などの止痒剤は用いずに治療して、痒みが持続する場合は、他の瘙痒性疾患を検討します。

  •  全身療法
  •  ケトコナゾール 5mg/kg・1日1回・経口投与・2~3週間
    •  イミダゾール系の抗真菌薬です。日本では外用薬のみ発売されています。経口投与では、脂質と一緒に摂取すると吸収がよくなるので、食事とともに与えます。ケトコナゾールは肝臓の酵素活性を阻害するので、投薬前は肝機能の評価を行いましょう。副作用は、食欲不振、嘔吐、下痢などの消化器症状です。
  •  イトラコナゾール 5mg/kg・1日1回・経口投与
    •  トリアゾール系の抗真菌薬です。食事とともに摂取すると吸収が上がります。ケトコナゾールよりも、副作用は少ない薬剤です。2~3週間の連日投与を行うか、連日2日投与の後、5日休薬するパルス療法が可能です。
  •  外用療法
    薬用シャンプーを用いた外用療法が効果的です。予防や維持療法としても有用です。シャンプーによって、余分な皮脂や落屑を除去して、健常な皮膚環境を作ることができます。
  •  マラセブシャンプー 週1~2回
    •  抗真菌薬であるミコナゾールと2%クロルヘキシジンを含有する動物用シャンプーです。2%クロルヘキシジンが、マラセチアと共存することが多いブドウ球菌に対する効果も期待できます。シャンプーと皮膚との接触時間を5~10分程度保つことで十分な効果が得られます。
  •  カニマールワンシャンプー(二硫化セレン含有シャンプー) 週1~2回
    •  二硫化セレンは、強力な脱脂作用を有しています。抗真菌効果はありませんが、ワックス様の皮脂が顕著な脂漏性皮膚炎では、過剰な皮脂を除去するのに有用です。少し皮膚刺激を生じることがあります。洗浄する人も気をつけましょう。
  •  外用薬(ニトラゼンローション) 1日1~2回
    •  限局的な皮疹やマラセチア外耳道炎には、外用薬を用いることがあります。軟膏基材の外用薬は、皮膚の保護作用があって作用時間も長いですが、被毛部では、塗布が困難で、違和感があると動物が気にして舐めてしまうことがあるので、注意が必要です。

予後
予後は良好です。好発犬種、本態性脂漏症の犬には、維持治療としてシャンプー療法を定期的に行うといいと思います。アレルギー性皮膚炎に併発するマラセチア性皮膚炎は、よく再発します。

皮膚糸状菌症

皮膚や皮膚の角化した組織に進入して生息する白色・透明な糸状菌による皮膚疾患が皮膚糸状菌症です。皮膚の脱毛、紅斑、水疱、痂皮、落屑などの皮疹が主な徴候です。皮下に肉芽腫性病変を形成することもあります。人にも感染する人獣共通感染症でもありますので、注意しましょう。

原因菌の多くは、Microsporum canisが原因菌です。他では、M.gypseum、Trichophyton mentagrophytesなどが感染します。被毛にだけ生息する不顕性感染も多くて、その場合でも人への感染源になります。感染は、接触感染で広がります。土壌や人家、ケージや動物の小屋などからも感染します。比較的、若い動物に多く発生しますが、基礎疾患を持つ症例や免疫抑制状態にあると発症することがあります。

診断
皮膚糸状菌症の診断には、症状、直接鏡検(掻爬試験)、ウッド灯検査、培養検査があります。短時間で確定診断が可能な直接鏡検が最も信頼できます。但し、直接鏡検で検出されなかったといっても、糸状菌を完全に除外することができない場合もあります。

  •  症状
    •  脱毛、落屑、皮疹、感染状況からの疑いで診断しますが、類似した疾患が多いので、確定診断はできません。
  •  直接鏡検
    •  病巣の周辺部などの新しい病巣から検体を採取します。リングワーム状病変(表皮小環)では、病変の中心部ではなく、健常部位との境界部の被毛や落屑を採取するほうが菌体が多くなります。毛髪は、簡単に抜けるもの、先端を欠いているものを選びます。小水疱の被膜、落屑、増殖した角質も検査対象です。
    •  検体をスライドガラスに置いて、10~20%KOH溶液を滴下してカバーガラスをかけます。10~20分間放置すると、材料が軟化します。標本を少し押し付けてから観察するとみやすくなります。
    •  皮膚糸状菌によって分解されて、被毛の輪郭が不鮮明になります。毛根部にも菌体が多くあります。毛根や不鮮明な被毛をみつけたら、強拡大にして菌糸や分節分生子が確認されたら、皮膚糸状菌症です。
  •  ウッド灯検査
    •  360nmの波長の紫外線を被毛に照射すると、M.canisが蛍光を発します。M.canis以外は蛍光を発しません。なので、蛍光を発しないから皮膚糸状菌症ではないとは言えません。特に、ウサギ・げっ歯類。
  •  培養検査
    •  病変部位の被毛や落屑を、クロラムフェニコール・シクロヘキシミド添加サブローブドウ糖寒天培地もしくは市販のDTM培地(ダーマキット)に接種して、24℃条件下で培養して菌を同定します。
    •  被毛に付着しているだけの皮膚糸状菌でも培養されるので、直接鏡検と併用して行うといいと思います。

治療
治療方針は、外用薬・毛刈りと洗浄・内服です。

  •  外用薬
    •  局所感染では外用薬の使用も有効ですが、被毛があるので薬剤が浸透しにくく、患部をなめたりしますし、気づかないうちの体表の広い範囲に感染が広がっていることが多いので、十分な治療ができないことがあります。
  •  毛刈りと洗浄
    •  患部の消毒、感染被毛や落屑の環境中への飛散を防ぐことができます。抗真菌薬との併用で、より一層の効果が期待できます。
    •  一般的には、ミコナゾール含有シャンプーを用います。病院では、マラセブシャンプーがよく用いられます。全身を週1~2回、洗浄します。十分にシャンプーが浸透するように、20分程度の時間をかけて洗浄します。
  •  抗真菌薬
    •  イトラコナゾールやケトコナゾールを経口投与します。用量は、5~10mg/kg、1日1回投与です。
    •  副作用で嘔吐や下痢、とくにケトコナゾールでは肝毒性がありますので、注意しましょう。また、内服期間は根治まで時間が掛かります。

予後
多くの健康な動物では、皮膚糸状菌症は、自己修復可能な疾患なので、無治療でも10~12週間で自然治癒します。しかしながら、環境中を汚染することになるので、適切な治療をしてあげましょう。基礎疾患や免疫抑制状態では治癒しにくく、時には真皮まで感染が広がって、難治性の肉芽腫性炎になることがあります。

予防
罹患動物に触れたら、必ず手洗いを行います。器具も、毎回、洗浄と滅菌・消毒を行って、他の処置と併用しないようにします。部屋の消毒や掃除も行う方がいいです。床や壁の清掃には、塩素系(ハイターなど)洗剤が効果的です。器具類、ケージ類を10分以上浸すとより効果があります。