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皮膚の疾患/角化異常

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栄養・内分泌障害性皮膚疾患

角化異常

 脂漏症

脂っぽい皮膚とフケの増加が特徴の皮膚疾患です。脂性脂漏症と乾性脂漏症があります。症状が進行すると、皮膚の臭いが強くなって、二次感染による痒みを伴います。

皮膚の表面にある表皮では、一番下にある基底細胞が常に分裂していて、皮膚の表面に向かって移動して、皮膚の表面の角質層を形成するようになります。脂漏症では、基底細胞の分裂が正常時よりも盛んで、基底細胞から皮膚表面に向かっての細胞の移動速度が速くなります。皮膚の潤いに重要な皮脂腺にも変化が生じて、脱毛や脂漏、落屑が生じます。

多くは生後1年以内の若い時期から症状が出始めます。頸の前側、体幹の背側、両側、腹部、外耳に脱毛や脂漏、落屑が起こって、皮膚の臭気が強くなります。症状が進むと痒みが出て、細菌やマラセチアの二次感染による皮膚炎が生じます。

治療
シャンプーによる皮膚の状態を調整することが大切です。脂漏症による皮膚のワックスや角化が進んで増えた落屑を、角質溶解シャンプーで取り除いてやります。症状が重度であれば、週に2回程度のシャンプーが必要です。二次感染があれば、抗生物質で治療します。

完治する疾患ではないので、生涯に亘る管理が必要になります。

 亜鉛反応性皮膚炎

亜鉛の欠乏が原因で生じる皮膚炎です。急な成長期にある大型犬での発症率が高くて、ラブラドールレトリバーは好発犬種です。シベリンアンハスキーとマラミュートは、腸からの亜鉛の吸収能力が低い個体がいて、食事が適切に与えられていても発症することがあります。ブルテリアでは、常染色体劣性遺伝の代謝性疾患として肢端性皮膚病があります。

肉球や関節部分など、皮膚が外部と強く接触したり、擦れたりする部位、足先、尾、皮膚と粘膜の協会部分、外耳、爪周囲に、皮膚の炎症や角質の肥厚、落屑、痂皮形成がみられます。

治療には、適切な食事、亜鉛の添加を行います。通常、6週間程度で治癒します。亜鉛は、皮膚の状態をよく保つために必須の微量元素で、蕁麻疹の場合も
亜鉛を服用させると、速やかに改善することがよくあります。


肉芽腫性脂腺炎

この疾患も角化異常性疾患です。脂腺の肉芽腫性炎症です。毛包虫症、無菌性肉芽腫から二次的に発症するものと、原因が明らかでない本態性のものがあります。日本では秋田犬に認められて、遺伝的な要因が示唆されます。原因は不明ですが、

  1.  脂腺に構造的な形成異常があって、産生された脂質が真皮内に流出して、異物反応が起きている
  2.  脂腺を標的にした自己免疫反応が起きている
  3.  ケラチン産生異常に続発する脂腺導管の栓塞があって、その結果炎症が起きている
  4.  脂質代謝異常が角化と皮脂産生異常を起こす

などの仮説が提案されています。
初発年齢は1~7歳で、自然に治癒することはほとんどありません。発症部位は、耳介、頸部など背線を中心に起こり始めて、徐々に頭部、体幹、尾部に拡大します。脱毛、鱗屑、脂漏、束状の被毛、毛包角栓が症状です。被毛は、簡単に脱落して、束状に抜けた被毛の根元には角質が付着します。二次性の表在性膿皮症、マラセチア性皮膚炎を合併していることがあります。

診断
秋田犬が、頭部、背部の隣接と脱毛を主訴に来院されたら、この疾患を疑います。他の感染性疾患を除外して、生検・病理検査を行います。

治療
二次性の脂腺炎なら、原因となる疾患を治療します。本態性の脂腺炎は、難治性で進行性なので、治療に難渋します。治療の目標は、治癒を目指すのではなく、二次感染、鱗屑、落屑の管理を行うことに注力しましょう。ステロイドに対する反応性は低くて、副作用を考慮すると使用するメリットはありません。

細菌感染症とマラセチアはしっかり管理した上で、外用療法で鱗屑の除去と、角化異常によって皮膚が乾燥しているので保湿を目的にシャンプーをします。鱗屑の除去には硫黄、サリチル酸などの角質溶解作用のあるシャンプーを用いて、保湿性のシャンプーはプロピレングリコール、グリセリン、セラミド、オートミールなどを含有するものを使います。鱗屑の付着が強固な場合は、マイクロバブルが有効かもしれません。

ビタミンA(レチノール)を1万単位/Headもしくは800単位/kgで投与すると、表皮のターンオーバーを改善できる可能性があります。ビタミンAには強い催奇形性作用があるので、使用には十分な注意が必要です。

シクロスポリン(5~10mg/kg)が効果的な場合があります。一部の脂腺の再生が報告されています。シクロスポリンを減量・中断すると症状が再発することが多いため、経済的な理由で投与できないこともあります。

飼い主には、秋田犬で脂腺炎と診断された時点で、治癒が見込めないことを説明して、管理とケアを十分に行うことでQOLを向上させることを目指すよう説明しておいた方がいいでしょう。

処方例
ビタミンA
  1万単位/Headもしくは800単位/kg・PO・SID
シクロスポリン(アトピカ・ネオーラル)
  5mg/kg・PO・SID


脱毛症X

原因がわからない脱毛症で、成長ホルモンの投与に反応することもあるので、内分泌異常ではないか、と推察されています。1~2歳齢のポメラニアンに発症することが多い疾患です。チャウチャウやトイプードルでも発症することもあります。

症状としては体幹部を中心とした脱毛だけで、全身症状や代謝性疾患を伴うこともありません。脱毛は、尾、大腿部尾側、頸部などから始まって、経過とともに頭部と四肢を除く全身に拡大します。脱毛する前に、乾燥した柔軟性のない第1毛や線毛状の毛などの被毛の変化が観察されることがあります。皮膚生検や外傷後、受傷部位に限局した発毛を認めることがあって、他の内分泌疾患では認められない徴候です。

診断には、他の内分泌疾患の可能性を全て除外した結果、脱毛症Xと判断します。

治療
特異的な治療法がありません。成長ホルモンの投与で発毛することがありますが、糖尿病や投与時のアナフィラキシーショックなど、重大な副作用を生じやすいので、用いません。

脱毛症Xは、全身症状がなく、明確な効果がある治療法は存在しないので、より副作用の少ない安全な方法を試してみることで対処します。

  •  去勢手術
    •  未去勢の雄では、去勢手術が効果的なことがあります。術後、2~4ヶ月後に発毛が認められることがあります。
  •  ウロエース(0.25~0.5mg/kg、1日1回、7日間)
    •  酢酸オサテロン(ウロエース)は犬の前立腺肥大治療薬で、hydroxyprogesterone誘導体で選択的にテストステロンの吸収阻害をして、ジヒドロテストステロン(DHT)レセプターを減少させて、DHTレセプター複合体形成阻害によって、抗アンドロゲン作用を示します。糖尿病、肝障害、クッシングでは禁忌です。
  •  メラトニン(3~6mg/Head・1日1~2回)
    •  L-トリプトファンから生成される松果体ホルモンで、神経内分泌に関与して、光周期依存性の換毛や毛色変化に関与しています。毛包への直接作用や中枢神経系からのメラノサイト刺激ホルモン、プロラクチン分泌の調整などの機序が考えられています。
  •  補助療法
    •  L-システイン(ハイチオール; 40mg/Head・BID)
    •  ニコチン酸と固フェローる(ユベラ; 50mg/Head・BID)

予後
命に関わる疾患ではなく、痒みも伴わないので、治療として、「何もしない」というのも選択肢です。軽快後、1~2年で再発する症例もあります。


性ホルモン関連性皮膚症

性ホルモン関連性皮膚症(性ホルモン失調)は、性ホルモンに起因した皮膚疾患です。雌の性ホルモン関連性皮膚症は、中高齢の未避妊雌(卵巣機能失調)にみられます。多くの場合、卵巣嚢腫、機能性卵巣腫瘍でエストラジオール、プロゲステロン、テストステロンが単独あるいは複数で増加しています。雄の性ホルモン関連性皮膚症も中高齢に多くて、原因は睾丸原発腫瘍であるセルトリ細胞腫、間細胞腫、精細胞腫です。

雌でみられる症状は、会陰部、外陰部周囲、体幹部、頸部に生じる対称性の脱毛で、色素沈着を伴います。他に、脂漏性皮膚炎や二次感染とは関連のない痒みが生じる場合があって、発情周期によって増悪します。皮膚病変以外に、発情周期の異常、偽妊娠、乳腺や外陰部の腫脹がみられることがあります。

雄では、会陰部、外陰部から始まる脱毛が、体幹部と頸部に拡大します。脱毛は対称性です。女性ホルモンが原因となる場合には、皮疹とともに、雌性化乳房、泌乳、包皮下垂、雌の排尿姿勢など、雌性化傾向が認められることがあります。雌性化は、セルトリー細胞腫であることが一般的です。アンドロゲンの関与が疑われる肛門周囲腺過形成や肛門周囲腺腫、前立腺肥大がときにみられます。エストラジオールが増加する症例では、骨髄抑制による再生不良性貧血に注意が必要です。

診断
診断には、他の内分泌疾患の除外と、X線検査やエコー検査による卵巣や精巣の腫瘍の画像診断を行います。血中のエストラジオール、プロゲステロン、テストステロン濃度を測定することも有効なことがあります。

治療
治療は、基本的に去勢・避妊手術です。治療的評価による診断を行うこともあります。

雌の性ホルモン関連性皮膚症では、テストステロンの投与が有効な場合があります。これも診断的治療として行うことがありますが、副作用として肝毒性や攻撃性が増加することがありますので、慎重に行いましょう。長期的な投与は推奨されません。

予後
一般に、去勢・避妊手術後、3ヶ月以内に改善がみられますが、性腺の腫瘍が転移している場合には、予後不良となることがあります。