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化学療法

腫瘍組織中に占める分裂細胞数の割合が分裂指数、腫瘍の中で増殖している細胞の割合を増殖細胞率、腫瘍の大きさが2倍になる時間を倍加時間といいます。非腫瘍性の組織は、低分裂・低増殖・長い倍加時間ですが、腫瘍では、高分裂・高増殖・短い倍加時間となります。

増殖が平衡に達している腫瘍に対して、減容積手術を行うと、分裂指数と増殖細胞率が増加して、倍加時間が短くなります。そのような状態になると、化学療法や放射線療法に高い感受性を示します。

化学療法の原理

化学療法剤は、腫瘍細胞が分裂の盛んな時期に作用して、その細胞を殺滅させます。悪性腫瘍を治療するときは、異なった抗癌剤の殺腫瘍効果を利用するために、一般的には3種類以上の薬剤を組み合わせて使います。各薬剤は、対象とする腫瘍に対して有効に作用しなければならず、それぞれが異なった作用機序で抗腫瘍効果を示さなくてはなりません。組み合わせる薬剤の副作用が重複しないようにも考慮します。

単剤による化学療法よりも、併用する方が、より良好な寛解率と生存期間の延長をもたらします。多剤を併用する意味は、薬剤耐性を遅らせること、場合によっては防ぐことができるという目的もあって実施されています。

例外では、犬の骨肉腫を治療する場合にシスプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシンなどから1剤を選んで投与することや、犬の慢性リンパ性白血病を治療する場合にクロラムブシル単剤で行うこと、犬の可移植性性器腫瘍をビンクリスチン単剤で治療する場合などがあります。

細胞周期の観点から、薬剤感受性が同じであったとしても、大きな腫瘍より小さな腫瘍の方が化学療法によく反応します。小さな腫瘤は、分裂も増殖も大きな腫瘤より高く、倍加時間が短いことから、細胞の分裂が活発であることが薬剤への感受性が高い理由です。

抗癌剤の投与量は、体表面積を基準にして算出されます。体重の小さな犬や猫にドキソルビシンを投与するときは、副作用が出やすいので、体重を基準にして投与(1mg/kg)する方がいいようです。

体重から算出される体表面積の目安(犬)

体重(kg)15102030
体表面積(㎡)0.100.300.450.751.00


化学療法の適用と禁忌

化学療法が適用される症例は、リンパ腫や白血病などの全身性腫瘍や転移性の腫瘍に多いのですが、切除不可能で、放射線治療や温熱療法に反応せず、抗癌剤には反応することがわかっている腫瘍には用います。

腫瘍の部分摘出の後、補助療法として用いたり、原発腫瘍摘出後に微小転移を制御する目的で化学療法を行うこともありますし、悪性腫瘍に伴う体腔液貯留が認められる症例や腫瘍が体腔内や不明部位に浸潤している場合、抗癌剤を体腔内に投与することもあります。

外科的手術ができない大きな腫瘍に対して、抗癌剤投与によって一時的に腫瘍を小さくして、その状態で外科的に腫瘍を摘出することもあります。その後は、残った腫瘍細胞を制御するために、化学療法を継続します。

化学療法は副作用が強いので、外科療法・放射線療法・温熱療法の代替法として用いることは厳禁です。同時に、多臓器不全の状態に陥っている症例にも行うべきではありません。仮に、投与せざるを得ない場合は、用量を低く設定して、注意深く行ってください。

作用機序

殺滅される腫瘍細胞の数は、投与された薬剤の用量に依存します。抗癌剤は、腫瘍細胞の一定の割合を殺滅します。小さい腫瘍なら全滅させる、ということではなく、大きさの何%を殺滅するか、ということです。

抗癌剤の種類が異なれば、当然ながら作用機序は異なりますが、細胞周期の複数の時期に作用して、分裂期の腫瘍細胞のみを攻撃する薬剤は細胞周期非特異性薬といいます。アルキル化剤がこれです。ある特定の細胞周期にある腫瘍細胞のみを攻撃する薬剤は、細胞周期特異性薬です。代謝拮抗薬や植物アルカロイドなどがこれです。細胞周期に関係なく腫瘍細胞を攻撃する薬剤は、細胞周期非特異薬ですが、重度の骨髄抑制があるので、用いません。

抗癌剤の種類

国内で手に入らない薬剤もありますので、注意してください。

アルキル化剤代謝拮抗薬抗腫瘍性抗生物質
シクロフォスファミド
クロラムブシル
メルファラン
ロムスチン
カルボプラチン
シトシンアラビノシド
メトトレキサート
5-フルオロウラシル
(猫には使用しない)
アザチオプリン
ドキソルビシン
プレオマイシン
アクチノマイシンD
ミトキサントロン

植物アルカロイドホルモン剤その他
ビンクリスチン
ビンブラスチン
ビノレルビン
エトポシド
プレドニゾロン



ダカルバジン(DTIC)
L-アスパラギナーゼ


アルキル化剤は、DNA鎖間もしくは間内を架橋することで複製を阻害して作用します。アルキル化剤の効果は、放射線療法と似ています。いくつかの細胞周期に対して小夜します。特に、高用量を間欠的に用いると、効果が増強されます。副作用は、骨髄抑制と胃腸障害です。

代謝拮抗薬は、細胞周期のDNA合成期にある細胞に対して作用します。この薬剤は、少量を複数回投与したり、持続的に静脈内投与することで効果が増強されます。副作用は、骨髄抑制と胃腸障害です。

抗腫瘍性抗生物質は、複数の機序を介して作用します。フリーラジカルやⅡ型トポイソメラーゼを介してDNAに損傷を与える作用が重要です。これも骨髄抑制と胃腸障害が主な副作用です。ドキソルビシンとアクチノマイシンDは、血管外に漏れると、組織に対して著しい腐食作用(壊死)を引き起こすので、絶対に漏らさないようにしましょう。ドキソルビシンには、蓄積性の心毒性もあります。

植物から抽出される抗癌剤があります。ビンカアルカロイドは、有糸分裂時の紡錘体形成を阻害して、分裂を停止させます。エピポフィロトキシン誘導体は、DNA鎖間を架橋して合成を阻害します。副作用は、血管外にもれると血管周囲に壊死を起こして、痂皮形成を起こします。エトポシドは、基剤がアナフィラキシーショックを起こすので、静脈内投与は禁忌です。

ホルモン製剤は、血液リンパ系の悪性腫瘍や内分泌関連の腫瘍で用いられます。ステロイド剤はいいのですが、ホルモン製剤は副作用が強いので、基本的に使いません。

他では、分子標的薬があります。イマチニブ(商品名:グリベック)は、選択的にチロシンキナーゼ経路を遮断して、腫瘍細胞のアポトーシスを起こします。表に挙げた抗癌剤は、腫瘍細胞、正常細胞に関わらず作用してしまうという抗癌剤の最大の欠点があるのですが、分子標的薬では、正常細胞のアポトーシスを起こしません。肝毒性が副作用として報告されています。

抗癌剤の取り扱い

細胞傷害薬は、薬効領域が非常に狭くて、標準的な用量でも毒性がみられます。それは、投薬する獣医師の健康被害も考えなくてはならず、薬剤の準備・投与における暴露には十分注意をしておきましょう。頭痛、吐き気、肝障害、生殖異常などの有害事象が報告されています。

調剤を慎重に行って、可能であれば、調剤薬局に頼んでもいいぐらいです。投与時は、手袋の着用、防護メガネ、マスクは必須です。廃棄についても注意を払いましょう。器具の再利用はせず、罹患動物の排泄物の処理も慎重に行いましょう。薬剤をこぼすこともあるだろうので、他の動物が入ってこない部屋での処置を考えることも必要です。

化学療法の副作用

ほとんどの抗癌剤は、非選択的に細胞に対して作用しますので、腫瘍組織だけでなく正常組織も攻撃します。治療に用いる用量と毒性が現れる用量が近いことも、抗癌剤の欠点です。抗癌剤は、用量依存的に効果が増強されるので、毒性も増強されてしまいます。

毒性が発現しやすいのは、代謝が早く、倍加時間の短い骨髄や絨毛細胞のような増殖が活発な組織です。なので、骨髄抑制や胃腸障害が、副作用で多くなります。その他、アナフィラキシーショック、皮膚毒性、膵炎、心毒性、肺毒性、神経毒性、肝毒性、泌尿器毒性があります。

腎臓から排泄される抗癌剤は、腎疾患を伴った犬には毒性が強くなってしまいます。腎疾患を患っている場合は、用量を調節するか、他の薬剤を使用することを考慮しましょう。

異なる臓器における抗癌剤の直接作用に加えて、腫瘍細胞が急激に死滅すると、代謝障害を起こすことがあります。すると、薬剤毒性に似た急性症状があって、抑うつ、嘔吐、下痢を示します(急性腫瘍溶解性症候群)。

猫では、犬に比べて、食欲不振や嘔吐などの副作用が起こりやすいのですが、骨髄抑制は少ないようです。コリー種などの特定の犬種では、骨髄抑制や胃腸障害が、より急性に発現しやすい傾向があります。全体的にみれば、人への抗癌剤の投与よりも、副作用の発現は少ないようです。

 血液毒性

骨髄細胞は、細胞分裂率や増殖細胞率が高いので、抗癌剤の毒性が発現しやすい傾向があります。血液毒性が抗癌剤による副作用で最も多くて、重症で命を脅かす可能性がある血球減少症が起きた場合には、抗癌剤を中止する必要があります。

犬の赤血球の骨髄からの移行時間と血中半減期は7日と120日で、血小板では3日と4~6日、顆粒球は6日と4~8時間です。副作用としては、好中球の減少から起こって、次に血小板の減少が起こる、ということになります。貧血は起こりづらく、起こったとしても遅れて認められます。血小板の減少によって、自発性の出血が起こることも滅多にありません。

栄養失調、高齢、合併症、それまでに受けた化学療法が骨髄抑制に影響することもありますし、腫瘍の骨髄への浸潤や広範囲の転移による影響もあります。

好中球の減少で、犬では致死的な敗血症が認められることがあります。猫ではあまりありません。有害作用は、投与開始5~7日後に起こることが多くて、36~72時間以内に好中球数は正常に戻ります。好中球数が2000/μL以下になったら、敗血症に注意しましょう。

敗血症は、抗癌剤による胃腸の陰窩上皮の細胞死と脱落が骨髄抑制と同時に起こって、腸内細菌が障害された粘膜バリアから全身循環に取り込まれて、それらの侵入細菌に対応する好中球がないために起こります。適切な治療を行わないと、犬は死にます。

炎症に反応する好中球が少ないので、発赤、腫脹、体温上昇、疼痛、機能異常が出現しないことがあります。抗癌剤を投与するときは、白血球数をチェックしておく必要があります。胸部X線所見が正常であることもありますので、注意しましょう。積極的な抗菌剤による治療が必要です。

ワクチンに関しては、化学療法を受けていても、十分な血清抗体価が得られるようなので、感染防止にワクチンは接種しておいた方がいいと思います。

血液検査は、毎週か隔週で行って、好中球数が2000/μL以下、血小板数が50000/μL以下になったら、抗癌剤の投与は中断します。2~3回の休薬で、血球数は正常に戻ることが多いですが、投与再開時は、初回投与量の75%を投薬して、2~3週間かけて元の投与量まで戻します。投薬の中断で、腫瘍の再発の危険が高まるので、獣医師は慎重に判断しなければなりません。

好中球減少症には、有熱性と無熱性があります。発熱していると、特に積極的な治療が必要です。静脈は常に確保しておいて、その都度、抗癌剤の中止や抗菌剤の投与に対処できるようにしましょう。ステロイドは、急な中止はせず、漸減します。血小板が減少している症例には、穿刺などの処置は避けます。培養試験の結果を待っている時間があまりありませんので、抗菌剤は、エンロフロキサシン(5~10mg/kg、SID)とアンピシリン(20mg/kg、BID)を併用します。感染菌の多くは、腸内細菌やブドウ球菌なので、この抗生剤の組み合わせを選んでおくのが無難です。好中球数が戻って、症状が落ち着いたら、経口剤に切り替えて、自宅にて投薬を行います。その場合は、ST合剤(スルファジアジン・トリメトプリム;15mg/kg、BID)やエンロフロキサシン(5~10mg/kg、SID)を用いて、5~7日間の投与を行います。

好中球減少症を示しても、無熱性で、他の症状がないなら、ST合剤を処方して、外来診療で対処可能です。飼い主には体温を測定してもらって、発熱があれば、来院してもらいましょう。発熱がなくても、全身症状を示すのであれば、敗血症を疑って、上記治療を行います。

 消化管毒性

胃腸炎を起こす場合と、食欲不振、悪心、嘔吐を示す場合とがあります。人に比べると、悪心や嘔吐の頻度は低いです。注射による急性の食欲不振、悪心や嘔吐は、静脈内投与を緩徐にすると予防できます。それでも出るなら、制吐剤として、メトクロプラミド(0.1~0.3mg/kg)で投与します。その他、オンダンセトロン(0.1mg/kg、iv)やマロピタント(セレニア;2mg/kg、経口、SID)も使うことがあります。

経口投与されることが多いメトトレキサートやシクロフォスファミドが食欲不振、悪心、嘔吐を起こします。メトトレキサートは、治療開始2~3週間で食欲不振を嘔吐がみられます。これに対しては、メトクロプラミドで遮断できます。それでも続くなら、メトトレキサートの投与を中止した方がいいでしょう。シクロフォスファミドは、猫で食欲不振や嘔吐を引き起こす傾向があります。猫では、ペリアクチン(1~2mg、po)が食欲刺激剤や制吐剤として非常に効果的です。

胃腸炎の起こることは稀です。ドキソルビシンとメトトレキサートが起こすと思っていていいと思います。コリー種が胃腸炎を起こしやすい犬種のようです。腸炎では、出血性下痢が特徴で、これは大腸性で、投薬後3~7日で起こります。補助的に輸液をしてやると有効で、3~5日で回復します。予防的に、整腸剤を服用させておくことを考慮してもいいかも知れません。

 過敏症

犬にL-アスパラギナーゼやドキソルビシンを、非経口的に投与した場合に、急性のⅠ型過敏症の起こることがあります。ドキソルビシンは、IgEを介さずに直接肥満細胞の脱顆粒を誘導するので、本来の意味でのⅠ型過敏症という訳ではありません。猫で起こることはありません。

症状は、投薬中や投薬直後に現れて、耳が痒くなるので頭を振る所作があって、全身性の蕁麻疹と紅斑、嘔吐や下痢、ひどい場合は低血圧による虚脱がみられます。

抗ヒスタミン剤(H1ブロッカー、ジフェンヒドラミン、1~2mg/kg)を抗癌剤の投与20~30分前に筋肉内投与しておくと効果があります。L-アスパラギナーゼは、静脈内投与を行わず、皮下投与をすれば、アナフィラキシーショックは抑えられます。ドキソルビシンのように、他の投与経路を選べないなら、ゆっくりと投与しましょう。

過敏症が出たら、抗癌剤の投与は中止して、ジフェンヒドラミン(0.2~0.5mg/kg)を緩徐にivするか、デキサメタゾン(1~2mg/kg)を静脈内投与して、必要に応じて、輸液を行います。過敏症が全身性で重篤な場合、エピネフリン(1000倍希釈して、0.1~0.3mL)を筋肉内もしくは静脈内投与します。

 皮膚毒性

皮膚局所の壊死(血管外への漏出によるもの)、被毛の成長遅延や脱毛、色素沈着などが起こります。

ビンクリスチン、ビンプラスチン、アクチノマイシンD、ドキソルビシンは、犬で、血管外に漏出すると、皮膚の壊死が認められます。中には、直接的な腐食作用を持つ抗癌剤もありますので、そのような抗癌剤の静脈内投与には、細心の注意を払わなくてはなりません。レトリバーの中には、抗癌剤が静脈内に投与されているにも関わらず、注射部位に瘙痒感や不快感を示す症例がいます。疼痛や不快感で、患部を舐めて、化膿性外傷性皮膚炎を起こします。エリザベスカラーなどを装着して予防しましょう。

手技にも注意は払いましょう。血管外漏出を予防するために、できれば細い留置針や翼状針を遣います。液剤を適切に希釈して、投与時には、確実に静脈を確保できていることを確認するために、カテーテル内に血液が戻ってくることを確認しましょう。少しでも開通性が不確かならば、他の血管を確保すべきです。

抗癌剤の血管外漏出に対する管理
・ 静脈内カテーテルを抜かないこと
・ 10~50mLの生理食塩水を注入する(抗癌剤の希釈)
・ 25Gの針で10~20mLの生理食塩水を患部に皮下注射する
・ 1~4mgのデキサメタゾンを患部に皮下投与
   (リソソームと形質膜の安定化を図る)
・ 患部を48~72時間アイスパックなどを用いて冷却する
   (血管収縮と薬剤の局所での拡散防止、局所組織の代謝を減少させる)

事前準備にも関わらず局所反応が生じてしまう場合というのは、ビンカアルカロイド類やアクチノマイシンD投与では投与1~7日後、ドキソルビシンでは投与7~15日後に認められます。特に、ドキソルビシンは腐食性が強くて、15~16週間まで組織に残留します。ドキソルビシンの血管漏出が起こったら、カルベジロール(商品名:アーチスト、0.1~0.4mg/kg、BID)を投与してみましょう。効果があるようです。

症状には、疼痛、瘙痒、紅斑、湿性皮膚炎、壊死が認められて、著しい皮膚の脱落を伴うことがあります。

局所組織壊死の治療
・ 抗菌剤の軟膏塗布
・ 包帯(毎日交換)
・ エリザベスカラーや口輪で自傷予防
・ 瘙痒や炎症軽減にデポメドロール(10~20mg)を皮下注射
   (細菌感染がない場合)
・ 重度の壊死や嫌気性菌による汚染があれば外科的切除
・ 患肢の断脚が必要なことも・・・

化学療法を受けていると、脱毛よりも、毛の成長遅延がよく認められます。抗癌剤は、増殖が活発な組織に影響するので、毛周期の成長期の細胞が影響を受けやすいためです。脱毛は、プードルなどのようにきめの粗い被毛の犬種で起こりやすいのが特徴です。毛の成長遅延や脱毛は、多くの場合、抗癌剤の投薬終了後、短期間で回復します。

皮膚の色素増強は、ドキソルビシンやブレオマイシンを含む処方を行っている症例で、犬の顔面、腹部、側腹部に起こることがあります。

 膵炎

人では、抗癌剤の副作用で膵炎がよく起こるのですが、犬や猫ではほとんどありません。L-アスパラギナーゼの投与で起こることがあります。

症状は、食欲低下、嘔吐や沈うつが、投与開始1~5日後に発現します。静脈内輸液で3~10日以内に改善します。予測ができない疾患なので予防は出来ませんが、肥満している高齢犬には、L-アスパラギナーゼの投与は避けることや、低脂肪食を与えておくことがいいかも知れません。

 心毒性

ドキソルビシンで、犬に起こる有害作用です。急性毒性と慢性累積性毒性があります。急性毒性は、ドキソルビシンの投与中か投与直後に発現する不整脈(洞性頻脈)が特徴です。洞性頻脈や低血圧は、抗ヒスタミン薬(H1ブロッカーでもH2ブロッカーでも)の前処置で回避できます。そこから考えると、ドキソルビシンによるヒスタミン介在性カテコラミン放出が原因で起こる心毒性だと思われます。

ドキソルビシン投与を繰り返す行っていると、数週間~数ヵ月後に、心室性期外収縮、心房性期外収縮、発作性心室頻拍、第2度房室ブロックや心室内伝導障害が持続する不整脈に進行することがあります。これらの調律障害は、多くの場合、拡張型心筋症の発生に起因します。

慢性毒性による拡張型心筋症は、ドキソルビシンの累積投与量が約240mg/㎡を超えたら起きます。病変では、心筋の空胞化が認められて、筋線維の消失を伴う場合もあります。うっ血性(左)心不全がでます。治療は、ドキソルビシンの投薬中止と、ジギタリスなどの変力作用型強心薬の投与です。心筋病変は不可逆性の変化なので、心筋症が起こると予後不良です。

ドキソルビシンを投与する場合は、3サイクル(9週間)毎に心エコー検査を行って、心機能を評価しておきましょう。

 泌尿器毒性

腎毒性や無菌性出血性膀胱炎の認められることが、稀にあります。ドキソルビシンの猫に対する毒性、シスプラチンの犬に対する毒性、メトトレキサートの犬への高用量の投与が重要です。利尿剤を併用すると、シスプラチンの腎毒性の発症を低く抑えることができます。

無菌性出血性膀胱炎は、シクロフォスファミドの長期投与でみられる疾患です。原因は、シクロフォスファミドの代謝産物であるアクロレインによる刺激です。フロセミドやプレドニゾロンを併用すると、発症率が低下するようです。症状は、下部尿路疾患と同様で、頻尿、血尿、排尿困難です。尿検査では、出血と白血球数の増加ですが、細菌は検出されません。治療には、シクロフォスファミドの投薬を中止すること、強制利尿させることです。二次的な性菌感染を予防しておくことも重要です。シクロフォスファミドの投与を中断すれば、1~4ヶ月以内に症状は改善します。利尿剤にはフロセミド(2mg/kg、経口、BID)、抗炎症作用にはプレドニゾロン(0.5~1mg/kg、経口、SID)、二次感染予防にはST合剤(15mg/kg、経口、BID)を使います。治療を行っても症状が悪化すれば、1%ホルマリン液を膀胱内に注入することがあります。血尿が改善できます。

 肝毒性

発生は極めて稀です。メトトレキサート、シクロフォスファミド、ロムスチン、アザチオプリンが犬に対して肝毒性を持ちますが、ロムスチン以外は目立った症状はないようです。ロムスチンは、ALT値やALP値の上昇を引き起こすことがありますが、投与間隔の延長や1回投与量の減量によって、低下します。

コルチコステロイド誘発性の肝障害は、当然ながら出てしまいます。

 神経毒性

神経毒性はほとんどありませんが、5-フルオロウラシルを猫に投与すると興奮や小脳性運動失調が起こって死亡します。ほとんどの猫で死亡するようです。犬でも神経毒性がみられることがありますが、他剤との相互作用による影響が強いようです。

 肺毒性

犬や猫ではほとんどありません。シスプラチンが、猫に肺毒性を起こすことがあるようです。投与48~96時間以内に、致死的な呼吸困難が起こることがあります。なので、猫へのシスプラチンの投与は止めましょう。病理組織学的には、肺と縦隔の浮腫と肺血管の微小血管病変が認められます。

 急性腫瘍溶解症候群

犬のリンパ腫で起こる疾患です。急なリンパ腫細胞の溶解で、高尿酸血症、高リン血症、高カリウム血症、低カルシウム血症、代謝性アシドーシスなどがみられる疾患です。二次的な細胞内のリン酸、尿酸、核酸代謝物の放出が原因と考えられます。化学療法開始数時間以内に抑うつ、嘔吐、下痢が起こります。

腫瘍以外の疾患を患っていることが、この疾患の引き金になっているかも知れません。輸液を行って、電解質の補正などを行えば改善すると思われますが、急性の変化で死亡する症例もあります。