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腫瘍の治療について

ある特定の腫瘍に対する最善の治療方法というのが、必ずしも個々の動物や飼い主の希望に沿ったものではありません。症例側で考慮すべき最も重要なことは、活動性を含めたその動物自身の一般的な健康状態を維持することです。

健康状態が悪く、極度に元気がなく、一般状態が低下している犬や猫に対して、積極的な化学療法や麻酔をかけて手術や放射線治療を何度も行うことは、取るべき方法ではありません。

腫瘍に関しては、治療を考えるにあたり、動物の年齢を考慮する必要はありません。10歳前後の腎臓病やうっ血性心不全の犬よりも、15歳で健康状態のよい腫瘍の犬の方が、治療に対してしっかり反応できます。つまりは、腫瘍の治療を始めるにあたっては、栄養状態を改善して、血液生化学検査値の補正に注意を払うべきです。

治療の原則

がん治療を行う上で重要なのが、飼い主の意向です。例えば、リンパ腫の犬に対して化学療法を行うことを、飼い主さんが拒否することがあります。このような場合は、飼い主さんを説得してでも行った方がよい場合が多いのです。

飼い主さんにも治療に参加してもらい、腫瘍の大きさを測る、体温を毎日測定する、自宅での活動状況を記録するなど、自宅での治療を積極的に行ってもらいましょう。その際、獣医師からのインフォームドコンセントは大変重要です。治療法について、利点と欠点を飼い主さんに説明して、治療中に何が起こるか、何が起こる可能性があるか、を明確に説明しておく必要があります。そのことによって飼い主さんも安心されるでしょうし、獣医師との信頼関係も円滑で強固なものにできます。安楽死についても、治療を始める時点で説明しておく方がいいと思います。すぐに安楽死を考えなければならないのか、治療がうまく行かなかったときには選択肢として考慮しなければならないかも知れない、ということを伝えておきましょう。

それと重要なのは、治療費です。転移性、播種性の悪性腫瘍に罹患している犬や猫の治療は、高額になります。獣医師として私は、先ずは、治療費のことを一切考えずに治療法を飼い主さんに説明しておきます。その治療が高いか安いかを決めるのは、飼い主さんです。

 治療法に関する要因

腫瘍の治療計画において、考慮すべき重要な要因があります。まず、選択する治療法の特徴を十分に認識しておくことです。外科的な摘出、放射線治療、温熱療法は、転移の可能性が低い局所浸潤性の腫瘍は根治できる可能性が治療法ですが、広範囲にわたる腫瘍や転移を伴った腫瘍の緩和的治療としても行います。

化学療法は、腫瘍の種類によっては進行を軽減させることができますが、通常、腫瘍を根治することはできません。免疫療法も、単独では腫瘍を根治することは難しいですが、一部の腫瘍に対しては、劇的な効果をもたらすこともあります。分子標的薬による治療では、腫瘍細胞の特異的な代謝経路を遮断して効果を発揮します。

当然のことですが、最も効果的な治療は、腫瘍が小さいうちに積極的な治療を行うことです。小さいうちに大きく治療を行いましょう。

今は、複数の治療法を組み合わせるのが一般的です。腫瘍は転移や再発を起こす疾患ですので、『二次予防治療』という考え方が必要です。外科手術と化学療法、外科手術と免疫療法など、効果的な方法を選択することで、生存期間が延長します。

治療による有害事象も、腫瘍の治療法を選択する場合に重要な要因となります。治療中でも、QOLの維持・向上は重要です。

がん治療は、緩和的治療となることもありますし、根治的治療となることもあります。緩和的治療と考えられていても結果的に腫瘍が治癒する場合もあります、根治的治療を行っているつもりでも緩和的にしか作用しないこともあります。いずれにしても、『癌』の診断を行えば、腫瘍を根治するために、可能な限りの治療を行いましょう。悪性腫瘍が自然消失することはありません。

根治が得られない場合、治療目標としては、QOLを高く保つことと寛解を得ることです。寛解とは、腫瘍が縮小することを意味します。通常は、緩和的治療を行います。化学療法で治癒が望めないとしても、状態を改善して、生存期間を延長できるのであれば、適用すべきだと思います。免疫療法も然りです。仮に、腫瘍で死亡する結果となっても、長期間、自覚症状がなく、苦しむことがなければ、飼い主さんにとっても、犬や猫にとってもいい治療だったと思います。

緩和的外科手術という方法があります。自潰した乳腺癌で肺に転移している症例では、安楽死を進められる場合もありますが、乳腺の摘出手術を行うことで、化学療法を実施しなくとも、呼吸不全が現れるまでの間、QOLを改善できることがあります。リンパ節への転移症例でも、リンパ節を外科的に切除することで、症状を改善できることがあります。

他では、腫瘍そのものを治療できなくても、腫瘍が原因で起こる高カルシウム血症を改善してやることで、QOLが大きく改善します。これも治療の一つです。腫瘍の治療というのは、単純なものではないことが多いので、獣医師としては、多方面からの協力を得ながらの治療にあたることが必要です。