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白血病

白血病は、骨髄性(非リンパ性)白血病とリンパ性白血病があります。白血病には、急性と慢性があって、急性白血病は、治療をしなければ短期間で死亡します。骨髄や血液に認められる未熟細胞(芽球)の存在が特徴的です。慢性白血病は、ゆっくりと潜在的に進行して、主体となる細胞は、よく分化した分化後期の前駆細胞です。慢性骨髄性白血病では、芽球に形質転換して、急性白血病の様相を呈して、治療に対して無反応となることがあります。慢性リンパ性白血病では、急性転化は起きません。

染色法を工夫すれば、急性白血病の分類が可能になります。骨髄性、単球性、骨髄単球性、リンパ球性の区別が可能です。モノクローナル抗体を用いて白血病細胞の表面抗原マーカーの検索も可能になりつつあります。

犬の白血病

犬の白血病は、すべての血液リンパ系の腫瘍の10%程度です。犬の白血病のほとんどは自然発生によるものと考えられています。放射線への暴露やウイルスの存在が発症要因となることが、研究では報告されています。

 急性白血病

急性骨髄性白血病が、急性リンパ球性白血病よりも多くて、急性白血病のうちの3/4程度を占めています。多くの急性白血病は、初期はリンパ球性と診断されることが多いのですが、細胞化学的染色や表面抗原を特定してみると、骨髄性に分類されます。

症状
急性白血病に特徴的な症状はありません。元気がなくなったり、食欲不振、持続性・回帰性の発熱、体重減少、跛行、神経症状などを認めます。検査によって、脾腫、肝腫、軽度の全身性リンパ節腫大が見つかります。脾臓が非常に大きくなっていて、触診で確認可能で、なめらかな表面であることもわかります。

急性白血病の犬の粘膜を注意深く確認すると、蒼白であることと、点状出血や斑状出血の認められることもあります。肝臓に白血病細胞の浸潤があると、黄疸がみられます。リンパ節の腫大は、リンパ腫に比べると軽度です。リンパ腫に罹患している犬のリンパ節は、硬いのも特徴です。白血病では、全身性の症状を示しますが、リンパ腫の犬の半数は無症状です。

身体検査だけでは、急性骨髄性白血病と急性リンパ球性白血病との区別は不可能ですが、跛行、発熱、眼病変は骨髄性の方がよく認められるようです。神経症状は、リンパ球性の方がよくみられます。

診断
急性骨髄性白血病と急性リンパ芽球性白血病では、末梢血液中に異常な白血病細胞が観察されます。多くは貧血も呈しています。リンパ芽球性白血病なら、白血球数の高値を示します。

白血病が疑わしいときは、骨髄吸引や骨髄生検を行って確定的な診断にもっていきましょう。リンパ節の腫大の程度と範囲、肝臓・脾臓の腫大の有無と程度、血液検査所見とともに考えていきます。

全身性のリンパ節の腫大と肝臓・脾臓の腫大、循環血液中にリンパ芽球がみられたら、急性リンパ芽球性白血病とリンパ腫との鑑別は重要です。予後が全く異なりますので。

白血病とリンパ腫の鑑別指標
リンパ節の腫大が大きくて硬いものであれば、リンパ腫
全身状態が悪い場合には、白血病
2系統の血球減少や汎血球減少があると、白血病
骨髄内のリンパ芽球の割合が、50%以上なら、白血病
高カルシウム血症があるなら、リンパ腫

白血病の鑑別診断には、リンパ腫の他、悪性・全身性組織球症、全身性の肥満細胞性疾患、エールリヒア症、バルトネラ症、マイコプラズマ症、結核なども考慮しなくてはなりません。

白血病の疑いのある犬の診断基本原則
1. 末梢血中に血球減少や異常細胞がみられたら、骨髄吸引や骨髄生検を行う
2. 脾臓や肝臓が腫大していれば、針吸引を行って細胞診を。
3. 芽球が認められたら、細胞化学的染色や細胞表面抗原検査を行ってみる。
4. エールリヒア症のPCR検査なども行ってみる。

治療
急性白血病の治療は、困難です。寛解は稀です。白血病細胞が浸潤して生じる臓器の機能不全のため、化学療法での毒性が強く発現されてしまいます。血球減少症によって、致命的な敗血症や出血が起こることも、治療が困難な理由の一つです。余命は3ヶ月程度、と飼い主さんには明確に伝える方がいいと思います。

急性リンパ芽球性白血病には、COP治療かCHOP治療を行います。治癒率は20%程度と考えておきましょう。急性骨髄性白血病では、シトシンアラビノシドを、5~10mg/㎡で皮下投与(BID)を2~3週間続けた後、1週間おきに投与するか、100~200mg/㎡を4時間以上かけて静脈内点滴するか、です。

 慢性白血病

慢性では、リンパ芽球性の白血病の方が、骨髄性白血病より多いようです。急性よりも、一層、特徴的な症状がなくて、半数に症状がみられません。無気力、食欲不振、嘔吐、軽度なリンパ節の腫大、間欠性の下痢、体重減少などがみられる症例もあります。検査では、軽度の全身性リンパ節腫大、脾腫、肝腫大、蒼白、発熱があります。

慢性骨髄性白血病では、血液中や骨髄中に未熟な芽球が現れることがあって、急性転化といいますが、重篤な症状を呈して、治療にも反応しなくなります。

診断

著しいリンパ球の増加(20,000/μL以上)は、慢性リンパ球性白血病の特徴ではあるので、診断の助けになります。慢性のエールリヒア症でも同様の所見が認められるので、一応、鑑別が必要です。

慢性骨髄性白血病は、診断が困難です。特に、特徴がありません。症状と血液検査から判断を行って、炎症や免疫学的な要因で好中球が増加している、ということを除外できれば、確定診断にはなると思います。

治療と予後

慢性リンパ球性白血病において、何らかの症状が発現しているなら、アルキル化薬単独、もしくは、プレドニゾロンの併用によって治療を行うといいでしょう。腫瘍随伴症候群(免疫介在性溶血、血小板減少症、単クローン性高ガンマグロブリン血症)がみられないなら、クロラムブシル(20mg/㎡、PO、2週間に1回)の単剤投与が推奨されます。腫瘍随伴症候群が認められれば、プレドニゾロン(50mg/㎡、PO、SID)を1週間、その後25mg/㎡で、48時間毎の経口投与を併用すると効果があります。

慢性リンパ球性白血病では、増殖している腫瘍性リンパ球の割合が低いので、治療に対する反応は早くありません。症状や検査の異常が消失するのに、1ヶ月以上はかかると思っておきましょう。

慢性リンパ球性白血病の生存期間は、長いです。治療をしなくても2年以上、生存する症例もあります。むしろ、他の加齢性疾患が死因となることがあります。なので、治療を行うかどうか、というのも獣医さんは考えなくてはなりません。

慢性骨髄性白血病では、ヒドロキシウレア(50mg/kg、PO)を用いて治療を行います。1~2週間は、1日1回投与、その後、隔日投与に切り替えて治療します。急性転化が起こらなければ、時間は掛かりますが、寛解に近づきます。急性転化すると、予後不良です。

イマチニブ(商品名:グリベック)が人の慢性骨髄性白血病に効果がありますが、犬では肝毒性があるので、使用できません。猫に対して、10mg/kg(経口、SID)で処方することもあります。最近は、低分子チロシンキナーゼ阻害薬の開発が進みつつあって、しばらくすると効果的な薬剤が発売されるかも知れません。

猫の白血病

猫の白血病は少なくて、造血系腫瘍すべてのうち、15%未満です。急性白血病のうち、多くは骨髄性で、リンパ性は1/3程度です。但し、骨髄単球性はほとんどありません。

猫白血病ウイルス(FeLV)は、白血病の原因としてよく知られています。ワクチンの広がりと予防意識の高まりで、FeLV感染率が低下しているので、最近では、FeLV陰性の白血病しか認められなくなってきています。

 急性白血病

症状は、犬とよく類似していますが、跛行や神経症状はあまりありません。血液検査では、血球の減少がみられます。症状と合わせて診断していきますが、疑わしいときは骨髄穿刺によって確認するといいと思います。FeLV抗体検査も行っておくべきです。

リンパ球性の方が、骨髄性よりも生存期間は長いようです。急性骨髄性白血病では、COP治療を行ったとしても、生存期間は2~3週間程度です。集中的な化学療法は、急性白血病では、有益なものではありません。

 慢性白血病

慢性白血病は、偶発的に見つかります。食欲不振、無気力、胃腸症状などが長く続いて、詳しく原因を調べたところ、慢性リンパ球性白血病であった、ということがあります。猫の慢性リンパ球性白血病では、成熟して、よく分化したリンパ球が、末梢血液や骨髄で増加しているので、治療による反応は悪くありません。猫の慢性リンパ球性白血病は、ほとんどT細胞由来です。クロラムブシル単剤か、プレドニゾロンとの併用治療に反応して、完全寛解します。猫でも、慢性骨髄性白血病は、よくわかっていません。