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腫瘍/細胞診

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細胞診

臨床的に応用可能な診断のための細胞診の手技、採材時の注意点、標本の解釈などについて記載しますが、予後の判定は治療方針の決定のためには、必ず専門医に標本を評価してもらうようにしましょう。

針吸引生検

検査対象の臓器や腫瘤に対して、23~25ゲージの針を使って、注射筒は10mLか20mLを用いてFNAを行うと、単一細胞からなる細胞塊が得られます。皮膚、皮下組織、リンパ節、脾臓、肝臓、腎臓、肺、甲状腺、前立腺、由来不明の体腔内腫瘤などが、比較的容易に採材できます。

表層性の腫瘤を吸引する場合には、吸引箇所の厳密な滅菌はそれほど必要としませんが、対象臓器や腫瘤が体腔内にある場合は、術野の剃毛と消毒はしっかり行いましょう。腫瘤や臓器を確認して、手で保持して行います。エコーガイド下、X線透視やCTを使う場合もあります。

注射筒を針に付ける場合は、少し強めに3~4回、少し強めに吸引します。針のみでも可能です。この場合は、針を組織・腫瘤に数回刺して行います。腫瘤や腫瘍性病変部の大きさがある程度あれば、針先を2~3回変えて、これらの操作を繰り返します。

針やシリンジを抜く前には、標本に混入する血液やシリンジ円筒部に標本が付着しないように、吸引を止めておきます。注射筒から針を外して、注射筒内に空気を吸い込んで、注射筒に針を再度、装着します。針に空気を送って、材料をスライドガラスに吹き付けます。

針のみでFNAを行う場合は、腫瘤や病変部位を分離・保持して、その中に針を4~6回程度、刺し入れます。少量の材料を、注射針の中に打ち抜いて採取します。これも、注射筒を使って、空気でスライドガラス上に、丁寧に押し出しましょう。

潰瘍性のある表層性腫瘤では、滅菌したメス刃やガーゼを用いて、表面を掻爬することで、簡単に採材できます。スライドガラスを、潰瘍性病変部に押し当てて作成することも可能です。押しガラス法よりも、2枚のスライドガラスを重ね引きして、薄層塗抹標本を作る方がいいです。

押捺塗抹標本

上記の押スライド法で作製する標本です。外科的に摘出した材料でも可能ですし、開放性の病変部に対しても行います。余分な血液や組織片を、ガーゼや紙タオルをしっかり押し付けて除去して、その後、ピンセットなどを用いて組織片をスライドガラスにしっかりと押し付けます。2~3列の押捺標本を作製する方がいいと思います。

現場では、ライト染色・ギムザ染色が簡単でいいと思います。Diff-Quik染色も汎用的です。

細胞診の判定

簡単な細胞診は、獣医師ならできると便利ですけど、最終的な診断は、専門医に必ず依頼しましょう。

細胞診の標本は、正常組織、過形成/異形成、炎症、腫瘍、嚢胞性病変、混合細胞性浸潤の6カテゴリーに分類されます。混合細胞性浸潤は、炎症を伴う悪性腫瘍(好中球性の炎症を伴った扁平上皮癌など)や慢性炎症に続発する組織の過形成(上皮の過形成や異形成を伴う慢性膀胱炎など)で認められます。

 正常組織

上皮系組織
多くの上皮細胞、特に腺上皮や分泌性上皮は付着して集塊を形成したり、シート状に観察される経口があります。個々の細胞は、同一の細胞であることが確認できます。細胞が円形か多角形で、核と細胞質は識別可能です。

間葉系組織
線維芽細胞、線維細胞、軟骨芽細胞などの間葉系組織由来細胞は、細胞基質中に存在するので、FNAや掻爬では得られません。典型的な間葉系細胞は、紡錘形、多角形、卵円形で、核は不整です。細胞質の境界が不明瞭になって、集塊の形成は稀です。

造血系組織
血液リンパ系組織に由来する細胞の多くが円形で、集塊を作ることなく、単一の細胞として認められます。核は円形か、腎臓のような形です。骨髄細胞では、分化段階の異なったさまざまな細胞がみられます。

 過形成

腺構造を有する器官やリンパ系組織の腫大として認められます。上皮系の過形成とリンパ系の過形成では、特徴が異なります。細胞診での過形成の判断は、正常組織にも似てますし、腫瘍組織にも似てますので、非常に難しいです。腫瘍性変化がなくても、高度過形成や異形成所見があると、要注意です。腫大した前立腺や肥厚した膀胱の細胞を評価する際には、特に慎重な評価が必要です。

 炎症性変化

炎症反応の多くは、塗抹に炎症細胞と壊死組織片が混在しているのが特徴です。炎症細胞の種類は、炎症の種類によって好中球が多かったり、好酸球が多かったりしますし、炎症反応の時期によって、顆粒球が主体であったり、マクロファージやリンパ球が主体になったりします。病原体が同定されることもあります。

 腫瘍細胞

骨髄の前駆細胞を除いて、正常な組織や臓器を構成している細胞は、十分に分化しています。正常な細胞は、大きさ、形とも類似していて、核/細胞質比(N/C比)も正常です。核は、濃縮したクロマチン(染色質)からなっていて、核小体は存在しません。細胞質は、分化していることが多いのが特徴です。

悪性腫瘍細胞では、N/C比の上昇(大きな核と狭い細胞質)、きめ細かなクロマチンパターン、複数の核小体、核の大小不同があって細胞に大きさの異なる核がみられて、多核細胞中の一つの核が隣接する核によって圧縮されている状態(核変形)がみられて、すべての細胞が異常に同様の形をしていて、分化段階の異なった細胞が多くなって、空胞形成があって、細胞の大小も不同で、多核巨細胞があったり、細胞に貪食能が認められます。

他では、リンパ節内に上皮細胞が認められるなど、転移を示唆する所見がみられます。通常存在しない場所に、別の細胞が存在しているということです。

悪性腫瘍の特徴
大きな核
きめ細かいクロマチンパターン
一つもしくは複数の核小体
核の大小不同
核の変形
均一な細胞集団
多形性
細胞の大小不同
細胞質内空胞形成
細胞質の好塩基性
多核巨細胞
貪食
異所性


多くの癌は、円形か多角形の細胞で構成されて、互いに付着して集塊を形成したり、大きなシート状になる傾向があります。細胞の細胞質は、濃青色になって、腺癌の場合は細胞内に空胞が認められることがあります。重なり合っている細胞では、細胞質の境界を認識することが困難になります。

扁平上皮癌では、細胞が孤立性で、不整形か多角形をしており、細胞質が濃青色で、大きな空胞を持ちます。扁平上皮癌で認められる腫瘍細胞は、白血球貪食像を示すことがあります。腺癌、扁平上皮癌は、いずれも核が大きく、きめ細かなクロマチンパターンを呈して、核小体は複数あります。

肉腫
間葉系腫瘍は、紡錘形、多角形、多面形、卵円形の細胞からなっていて、細胞質は赤みを帯びた青色から濃青色で、核は不整形です。多くの細胞は孤立性です。核は細胞質から外に出ています。空胞のある灰青色の細胞質を有する紡錘形か多角形の細胞が認められると、血管肉腫である可能性が高くなります。

肉腫細胞は、一般に剥離しにくいので、FNAでは偽陰性となることもあります。疑わしいときは、コア生検で病理組織学的検査をするべきです。

円形(孤立性)細胞腫瘍
単一細胞集団で、形態的に円形もしくは孤立性細胞から構成される腫瘍です。リンパ腫、組織球腫、肥満細胞腫、可移植性性器腫瘍、形質細胞腫、悪性黒色腫などがこの腫瘍です。細胞質内の顆粒、空胞の有無、核の位置が有用な所見となります。

肥満細胞腫、大顆粒リンパ球性リンパ腫、黒色腫、神経内分泌腫瘍などは、細胞質内に顆粒を有しています。リンパ腫、組織球腫、形質細胞腫、可移植性性器腫瘍などでは細胞質内顆粒はみられませんが、空胞を持つことが多いのが特徴です。

 リンパ節

リンパ節の腫大が認められるなら、リンパ節の針吸引細胞診を積極的に行った方がいいと思います。細胞診で結論が得られないなら、外科的に摘出して、病理組織学的検査を実施します。

正常リンパ節
正常なリンパ節では、観察される細胞のほとんどが小リンパ球です。直径7~10μm(赤血球の1~1.5倍程度)で、濃染性のクロマチンパターンを示して、核小体はみられません。その他、マクロファージ、リンパ芽球、形質細胞や他の免疫細胞が観察されるでしょう。

反応性・過形成性リンパ節腫大
抗原刺激の種類が異なっても、反応するリンパ系組織の細胞学的特徴は類似しています。反応性のリンパ節は、小リンパ球、中リンパ球、大リンパ球、リンパ芽球、形質細胞、マクロファージなどから構成されています。反応性・過形成性リンパ節腫大の細胞診の特徴は、さまざまな細胞集団の存在が挙げられます。異なる分化段階の細胞が存在する場合、リンパ系組織が多種類の抗原に対して反応していることを示しています。

リンパ節炎
炎症がリンパ節に起こった場合、細胞診での変化は、反応性リンパ節腫大と似ていますが、炎症細胞が多量に出現していて、細胞の退行性変化(核濃縮、核崩壊)も顕著です。原因となる病原体がみられることもあります。

腫瘍
腫瘍細胞がリンパ行性・血行性に転移した場合やリンパ節原発性に腫瘍が発生した場合(リンパ腫)は、リンパ節内に腫瘍細胞がみられます。転移を示す病変では、反応性変化と腫瘍細胞の両方が認められます。転移が進行した場合では、正常なリンパ系細胞がみられないこともあります。

リンパ腫では、形態学的に均一で大型の未熟リンパ系細胞集団が認められることが特徴です。細胞が大型で、異常に低いN/C比と粗いクロマチンパターン、明瞭な核小体を持っています。小細胞型・中間細胞型のリンパ腫は、正常リンパ球と類似しているので、細胞診で診断するのは困難です。