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内分泌・代謝系の疾患/上皮小体の疾患

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上皮小体の疾患

上皮小体機能亢進症の高カルシウム血症と低リン血症は、PTHの作用で生じます。腎性二次性上皮小体機能亢進症では、腎不全がリン保持の原因になって、高リン血症が生じます。リン濃度が上昇すると、カルシウム濃度が下がります。カルシウム濃度が低下すると、PTHの分泌を刺激します。最終的には、び慢性の上皮小体過形成が生じます。

栄養性の二次性上皮小体亢進症は、低カルシウム/高リン食の摂取がカルシウム濃度の減少となって、PTHの分泌を亢進させて、上皮小体の過形成を引き起こします。

副腎皮質機能亢進症(副腎性二次性上皮小体機能亢進症)でもPTH濃度が増加することがあって、カルシウムの喪失やリン濃度の上昇に対する代償性の反応と考えられています。副腎皮質機能亢進症の適切な治療で、リン濃度とPTHは低下して、カルシウム濃度は上昇します。

原発性上皮小体機能亢進症

上皮小体が、過剰に、且つ、自律的にPTHを分泌してしまう疾患です。PTHの作用で、高カルシウム血症と低リン血症が必ず生じます。犬でもあまりみられない疾患ですし、猫ではほとんど認められません。上皮小体腺腫が原因であることがほとんどです。罹患する犬や猫に、好発種は特になく、性差もありません。中年齢以上でみられるのが通常です。

カルシウム(Ca)とリン(PO4)代謝に影響するホルモン

ホルモン腎臓腸管血清Ca血清PO4
上皮小体ホルモン

骨吸収亢進

↑Ca吸収
↑PO4排泄
作用なし

カルシトニン

骨吸収低下

↓Ca再吸収
↓PO4再吸収
作用なし
ビタミンD

Ca輸送系の維持
↓Ca再吸収

↑Ca吸収
↑PO4吸収

 症状

腫瘍の拡大による症状ではなく、過剰に分泌されるPTHの生理作用によるものです。この疾患の特徴は、高カルシウム血症と、高カルシウムが原因となる膀胱結石と下部尿路感染症です。

軽度な症例では、症状は認められません。他の疾患での血液検査で偶然、高カルシウム血症が見つかります。発現する症状には、犬では、腎臓、消化管、神経骨格筋に由来することが多く、嗜眠、全身性の筋萎縮、膀胱結石(リン酸カルシウムやシュウ酸カルシウム)が認められます。猫では、元気消失、食欲不振や嘔吐、便秘、多飲・多尿、体重減少などがみられます。

原発性上皮小体機能亢進症の症状
多飲・多尿
筋虚弱
下部尿路障害: 頻尿、血尿、排尿困難

  活動低下、食欲減退、嘔吐、尿失禁
  体重減少、筋萎縮、振戦、痙攣

身体的所見もほぼ正常で、悪性腫瘍に付随する高カルシウム血症との鑑別が重要になります。

犬の頸部を触診しても、上皮小体の腫瘤は触知されません。高カルシウム血症の犬で、頸部の腫瘤が触知された場合、甲状腺癌、扁平上皮癌、リンパ腫を疑うことが必要で、上皮小体腺癌は最も可能性が低い腫瘍です。猫では、上皮小体腫瘤を触れることが多いのですが、猫で頸部に腫瘤が触知されれば、まず、甲状腺機能亢進症を疑いましょう。

診断
高カルシウム血症を引き起こす疾患は多々ありますが、持続的な高カルシウム血症と低リン血症があれば、原発性上皮小体機能亢進症を疑います。鑑別する疾患は、犬のリンパ腫や猫の癌でみられる悪性腫瘍随伴性の高カルシウム血症・低リン血症です。疑いがあれば、検査機関に依頼してPTH濃度を測定してもらいましょう。

他では、頸部のエコー検査で、肥大した上皮小体が確認できるかも知れません。健常犬では、上皮小体は長径3mm以下です。

 治療と予後

治療の第一選択は、外科的除去です。ほとんどが孤立性の上皮小体腫なので、比較的容易に確認可能です。複数の上皮小体が腫大しているようなら、多発性の上皮小体腫か、上皮小体の過形成が疑われます。腫大していなければ、原発性上皮小体機能亢進症の診断を疑った方がよくて、潜在的な悪性腫瘍、異所性の上皮小体組織の存在、非上皮小体腫瘍によるPTHの産生が疑われます。

外科手術の際に注意すべきことは、低カルシウム血症を予防するために、少なくとも一つの上皮小体を残しておかなくてはなりません。上皮小体腫瘍を切除すると、術後はPTH濃度・カルシウム濃度が低下します。正常組織が残っていれば、カルシウム低下に反応してPTHが分泌されて、カルシウム濃度が上昇します。しかしながら、原発性上皮小体機能亢進症が進行した状態で手術すると、反応できないことがあり、重度の低カルシウム血症が術後1週間以内に現れてきます。その場合は、カルシウムの静脈内投与・経口投与や、ビタミンDの経口投与を開始します。

術後管理
術後、カルシウム濃度を管理しながら、カルシウムとビタミンDの投与を検討します。重度の原発性上皮小体機能亢進症の術後は、術後すぐに、投与を開始した方がいいでしょう。

低カルシウム血症に対して、カルシウムの静脈内投与を行った後、萎縮した上皮小体が回復するまで、カルシウムとビタミンDを経口投与します。血清カルシウム濃度を、9~10mg/dL程度(ちょっと低め)に維持するのがいいようです。低めに維持して、低カルシウム血症の改善と、高カルシウム血症の再発を避けて、萎縮した上皮小体の機能回復を刺激します。

動物の状態が安定したら、カルシウムとビタミンDの経口投与を、3~6ヶ月掛けて、漸減します。ビタミンDは、投与間隔を延長しながら漸減します。2~3週ごとに、1日ずつ、投与間隔を広げていきます。血清カルシウム濃度が9~11mg/dLで安定して、ビタミンDの投与間隔が1週間に1度になれば、休薬して構いません。

予後
原発性上皮小体機能亢進症が上皮小体腺腫によるものであり、術後の重度の低カルシウム血症が予防されれば、予後良好です。上皮小体過形成による原発性上皮小体機能亢進症で、体内に他の上皮小体が残っていると、術後、数週間から数ヵ月後に、高カルシウム血症が再発することがあります。


原発性上皮小体機能低下症

PTHの分泌が不足して起こります。腎臓と腸管に対するPTH作用の低下が、低カルシウム血症と高リン血症を引き起こします。ほとんどの症例は、外傷、悪性腫瘍、手術で破壊されて起こったり、原因不明に特発的に起こったりしますが、原発性上皮小体機能低下症の症例は多くありません。

猫の甲状腺機能亢進症の治療で、両側に甲状腺を摘出した際、医原性の上皮小体機能低下症になるのが普通です。上皮小体が摘出されてしまったり、傷害されたり、血流が滞ったりして起こりますが、回復して正常な血清カルシウム濃度が保たれるためには、上皮小体が1つでも残されていれば大丈夫です。

重度のマグネシウム欠乏症で、一過性の上皮小体機能低下症を二次的に発症することがあります。これは、重度のマグネシウムの欠乏でPTHの分泌が抑制されるためで、抹消組織でのPTH抵抗性が亢進して、活性型ビタミンDの合成が抑制されます。その結果として、低カルシウム・高リン血症が生じます。マグネシウムを補充すれば、症状は消失します。特発性の原発性上皮小体機能低下症では、マグネシウム濃度は正常です。

 症状

症状の発現は、比較的若い時期に見られます。好発品種はないようです。症状は、低カルシウム血症に起因する神経骨格筋系への作用です。神経過敏、全身性発作、局所の筋痙攣、後肢筋痙攣やテタニー(手足の屈曲した拘縮)や運動失調です。

神経系以外の症状では、元気消失、食欲不振、顔の擦りつけ、呼吸促迫などがあります。症状の発現は、急性で重篤です。運動時や興奮時、ストレス下で起こりやすい傾向があります。可能性のある心臓の異常として、徐脈、発作性頻拍性調律異常、心音減弱、股動脈拍動の減弱が挙げられます。

症状は、一時的で、定期的な間隔を置きながら、繰り返して現れます。しかも、この間も、カルシウム濃度は低いままです。

診断
低カルシウム血症を引き起こす原因は多々ありますけど、持続的な低カルシウム血症・高リン血症で、腎機能が正常な犬や猫は、原発性上皮小体機能低下症を疑いましょう。PTHの測定が必要です。

 治療と予後

治療は、カルシウムの補充とビタミンDの投与です。第1段階(急性期の緊急治療)は、低カルシウムによるテタニーを改善するために、10%グルコン酸カルシウムをゆっくりと静脈内投与します。テタニーがなくなるまで行います。低カルシウム血症がコントロールできたら、経口のカルシウム剤とビタミンDを投与します。その効果が現れるまで(血清Ca値8mg/dL以上)、10%グルコン酸カルシウム60~90mg/kg/日で、間欠的(1日2回程度)に静脈内投与しましょう。点滴液には乳酸リンゲルなどを使わないようにします。カルシウムが沈殿してしまうので。

第2段階(維持療法)では、毎日、カルシウムとビタミンDを経口投与します。血中カルシウム濃度を、8~10mg/dLに維持して、低カルシウム血症の症状を軽減して、高カルシウム血症・低リン血症のリスクも抑えましょう。維持療法は、静脈内カルシウム補充療法によってテタニーが改善され次第、開始します。ビタミンDには、カルシトリオールを用いるのが最も作用の発現が早く、効果も優れています。カルシトリオールの初期投与量は、0.02~0.03μg/kg/日で、単独経口投与で血中カルシウム濃度が8~10mg/dLに保たれるまで続けます。できれば、入院して経過観察をすべきでしょう。

血中カルシウム濃度が安定したら、8~10mg/dLを保ちながら(毎週、測定する)、カルシウムをゆっくり漸減して行きます。2~4ヶ月で中止できるように減らしていきましょう。その後、ビタミンDを必要最小量まで減量します。ビタミンDの服用は、生涯必要になります。カルシウムは、食事の中に十分に含まれているはずです。

治療終了後も、3~4ヶ月毎には、定期的な検診を行いましょう。

予後
適切な治療と厳密な定期検診で、予後は良好です。調子が良くなったからと、飼い主が自分で維持療法を止めてしまうと、再発します。血中カルシウム濃度の再検査の機会が多いほど、予防的な効果は上がりますので、QOLの維持は容易くなります。