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内分泌・代謝系の疾患/視床下部・下垂体-その2

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その他の視床下部・下垂体の疾患

内分泌性脱毛

炎症や症状がみられない左右対称性の脱毛は、ホルモン疾患による毛根休止が原因となることがよくあります。毛包が萎縮して、被毛は抜けやすくなって、皮膚が薄くなって緊張感がなくなったり、過剰な沈着がみられることもあります。落屑、痂皮、丘診など、他の皮膚病変は認められません。

犬でよく見られるのは、甲状腺機能低下症副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)です。猫では、アンドロジェン欠乏症に関連すると言われている内分泌性脱毛症が、一般的です。内分泌性脱毛を疑った場合は、問診、身体検査、血液検査、尿検査を行います。そこで、甲状腺機能亢進症や副腎皮質機能亢進症を示唆する所見があれば、詳細検査を行います。

甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症が除外されたら、性ホルモン副腎皮質ステロイドホルモンの中間代謝物のどちらかが過剰になっているかどうか、を確認しましょう。種々の性ホルモンに起因する皮膚病は、どれも症状が似ています。会陰部、生殖器付近、腹部腹側から始まって、頭の方に脱毛が広がっていきます。被毛は粗剛で乾燥して、抜けやすくなっています。毛を刈ると、発毛不良になります。脂漏症や色素沈着も見受けられます。

エストロジェン過剰症では、雄犬の雌性化乳房、包皮下垂、他の雄犬が引き付けられたり、排尿時にしゃがみこむ。片側性の精巣萎縮、雌犬の外陰部腫脹、持続的な発情などの所見がみられます。

性ホルモン誘発性の皮膚病では、皮膚生検での組織学的検査で特異的な変化はありません。診断を行うには、エストロジェンやプロジェステロンなど、血漿中の性ホルモン濃度を測定してもらいましょう。エストロジェン濃度の上昇があれば、雄犬の機能性セルトリ細胞腫、雌犬の高エストロジェン症が疑われます。エコー検査を行って、卵巣嚢胞、卵巣腫瘍、精巣腫瘍などが確認されます。手術で除去すれば、高エストロジェン症と脱毛は改善されます。プロジェステロンが異常に上昇すると、副腎腫瘍、機能性卵胞黄体嚢胞、副腎皮質ステロイドホルモン中間代謝物の不均衡が疑われます。去勢・避妊済みの犬や猫では、血清プロジェステロンの上昇は、診断を確実にしてくれます。

副腎皮質ステロイドホルモンの中間代謝物の濃度上昇は、副腎皮質機能亢進症でみられます。これは、下垂体性でも、副腎腫瘍でもみられます。コルチゾルの過剰分泌で、症状が起こります。アロペシアX(脱毛症X)と呼ばれているこの皮膚疾患は、休止期毛包、両側性で対象性の非瘙痒性(痒くない)脱毛、皮膚への色素沈着が特徴的な所見です。血液検査や尿検査に異常はみられません。皮膚の生検で、毛包の萎縮が認められます。治療には、トリロスタンやミトタンを用いることがあります。言い方は悪いですが、毛が抜けるだけで、QOLや寿命には影響がないので、普通の生活を送るのも選択肢の一つです。

上記、甲状腺機能低下症・副腎皮質機能亢進症・性ホルモン過剰症・副腎皮質ステロイドホルモン中間代謝物過剰が全て否定されてしまうと、診断は非常に難しくなって、脱毛の原因は、はっきり言うと、よくわかりません、ということになります。

他の要因として考えられるのは、副腎皮質ステロイドホルモン中間代謝物過剰に似た症状としては、成長ホルモン(GH)反応性皮膚症があります。内分泌性脱毛の皮膚症状というのは、どの要因でも非常に似通っています。エストロジェンやアンドロジェンなどの性ホルモンは、過剰にあっても不足しても皮膚症状を呈して、その症状が、他の内分泌性脱毛と似ています。性ホルモンを用いた治療でも、同様の皮膚症状がでる場合があります。これらは、治療に対する反応性で判断していくしかありません。

原因不明なら、去勢や避妊を、既に済んでいれば、性ホルモンの補充療法を試してみるのも診断の一つです。反応してくれるなら、3ヶ月以内に被毛の完全がみられます。改善がなければ、他の疾患を考えましょう。

診断のために、あらゆる検査を試したのに、それでも内分泌性脱毛の原因がわからない場合は、メラトニン(3~6mg/kg)への反応性を試してみるのが、最も安全な方法です。機序はわかりませんが、メラトニンには、被毛成長促進作用があります。

現実的な治療過程の中では、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、副腎腫瘍、卵巣嚢胞、卵巣・精巣腫瘍ではない、でも原因がわからない、となると、飼い主は、それ以上の治療を望みません。あれこれ検査を重ねても、原因が特定できず、費用だけが嵩み、じゃぁ犬の状態はどうか?というと、無治療でも予後は良好であり、脱毛と色素沈着を除けば、健康を維持できるからです。


先端巨大症(猫)

猫の慢性かつ過剰な成長ホルモン(GH)の分泌は、結合組織、骨、臓器の肥大を特徴とする先端巨大症を引き起こします。下垂体前葉のソマトトロピン産生細胞の機能性腺腫によるGHの過剰分泌が原因です。猫では、下垂体の腫瘍は、ほとんど巨大腺腫になります。猫では、プロジェステロンがGHやIGF-Iの分泌を刺激しないようで、プロジェステロン誘発性の先端巨大症にはなりません。犬でも稀に起こることがあるのですが、犬の場合は、プロジェステロンによる反応で起こります。

慢性のGHの過剰分泌は、IGF-I濃度の上昇と直接的な抗インスリン作用によって、生体内に作用します。IGF-Iの上昇は、IGF-Iの成長促進作用による骨、軟骨、軟部組織の増殖、腎臓や心臓の肥大が生じます(同化作用)。これが、先端巨大症の症状として、主に認められるものです。抗インスリン作用では、糖不耐性、高血糖を引き起こして、最終的にはインスリン抵抗性の糖尿病が起こります(異化作用)。先端巨大症を示す猫は、糖尿病を併発していることが多いのは、この作用によるものです。最終的には外因性インスリンに対して、進行性に重度の抵抗性を示します。インスリンの投与量が、2~3単位/kg、1日2回投与もしくはそれを超えることもありますが、それでも血糖が降下しない場合があるぐらいです。

 症状

中年齢以上の雄の雑種猫に発症することが多い疾患です。最初は、糖尿病の併発による多飲・多尿、多食が認められます。かなり顕著な多食がみられることもあります。この症状が現れるのは、成長ホルモン(GH)の異化作用と血糖上昇作用、肝臓での慢性IGF-I分泌による同化作用、下垂体巨大腺腫の成長のためです。

糖尿病になると、通常は体重が減りますが、先端巨大症の猫では、体重減少は初期に見られるのみで、その後、体重は増加します。これはIGF-Iの同化作用が徐々に症状に現れてくるためです。同時に、この変化は、形態の変化と共に、先端巨大症の診断手掛かりになります。

過剰なGH分泌による同化作用に関連した症状は、糖尿病で明らかになります。しかし、糖尿病の診断があってから、数ヶ月経って、インスリンによる血糖コントロールが困難になることに気付いて初めて、GH分泌異常による先端巨大症の発症に気付くことがよくあります。症状の進行性が遅く、飼い主も、猫の外見の微妙な変化に気付かないことが多いのが、この疾患の特徴です。

同化作用による体型の増大、腹囲と頭囲の拡大、下顎前突、体重増加などが起こります。時間経過とともに、特に、心臓、腎臓、肝臓、副腎に臓器腫大が起こります。咽頭部の軟部組織がび慢性に肥厚して、気道閉塞や呼吸困難を引き起こすこともあります。

神経症状は、下垂体腫瘍の成長と、それに伴う視床下部や視床への侵襲や圧迫によって生じます。症状としては、昏迷、嗜眠、無渇症、食欲不振、旋回、発作、行動変化が認められます。視交叉が下垂体より前方にあるので、視力障害は起こりません。眼底検査で、視神経乳頭浮腫が明らかになることもあります。糖尿病では、末梢神経傷害も起こって、その結果、虚脱、運動失調などが認められることがあります。

検査では、高血糖、尿糖、高コレステロール血症、ALT・ALP活性の軽度な上昇など、糖尿病に付随する所見が認められます。ケトン尿は、みられません。その他、軽度な赤血球の増加、軽度の高リン血症、TPの高値が認められることもあります。腎不全が、臓器の腫大に続発して起こる可能性があって、そうなると高窒素血症、等張尿、蛋白尿がみられます。

先端巨大症と副腎皮質機能亢進症の比較
猫の副腎皮質機能亢進症は、高齢の猫に対して、糖尿病と関連して起こる疾患で、重度の糖不耐性を起こして、機能性下垂体巨大腺腫によって生じる疾患です。コントロールできない糖尿病が共通する疾病です。血液検査や尿検査でも糖尿病に付随した所見が同じように観察され、副腎が両側性に腫大する所見も双方にみられます。

しかしながら、猫の副腎皮質機能亢進症は、消耗性の疾患で、進行性の体重減少によって悪液質を呈して、皮膚や表皮が萎縮して脆弱化して、薄く裂けやすい状態となって、潰瘍性の皮膚になってしまいます。先端巨大症では、IGF-I分泌による同化作用で、形態変化が優勢で、体型の増大、下顎前突、体重増加が主症状です。皮膚の脆弱化は起こりません。

 治療と予後

有効な治療は、放射線照射です。下垂体の腺腫を縮小させると、ソマトトロピン過剰症の消失、インスリン抵抗性の消失、糖尿病の回復が見込めこともあります。全く変化がみられない症例もありますし、効果があっても、6ヶ月以上の経過を要する場合もあります。

有効な内科治療は、残念ながらありません。

予後は、長期的にはよくありません。GH分泌性の下垂体腫瘍は、増殖が遅くて、腫瘍の進行による神経症状は、末期になるまで起こりませんが、神経症状、重度のうっ血性心不全、腎不全、呼吸困難などが生じると、予後不良です。

インスリン投与に反応しない糖尿病が続いて、突然、致命的な低血糖が起こることがあって、低血糖による昏睡で死に至ることもあります。重度の低血糖を防ぐために、インスリン投与量は、12~15単位/回を超えないようにすべきです。それ以上、投与しても、反応しませんし。


下垂体性矮小症

先天的な成長ホルモン(GH)の不足で起こる疾患です。細胞の分化過程において、細胞形成異常が発生するようです。下垂体性矮小症の症例では、下垂体嚢胞が認められることが多いようですが、これは、二次的な変化であると考えられています。

遺伝的下垂体性矮小症は、GH単独の不足か、複数の下垂体ホルモンの不足でも起こります。甲状腺刺激ホルモン、プロラクチンが不足している場合が多いのですが、ACTHは正常に分泌されます。好発する犬種(ジャーマン・シェパードなど)がありますが、性差はありません。

  •  症状
    •  成長不良、内分泌性脱毛、皮膚の色素沈着が通常みられる症状です。生後2~4ヶ月までは、普通なんですが、生後5~6ヶ月になると、同腹子の中で明らかに小型で、成犬の大きさまで成長することはありません。
    •  GH単独の矮小症では、体型や体格は均整が取れたまま小さいのですが、複数の下垂体ホルモン、特にTSH、が不足すると、先天性甲状腺機能低下症の併発と関連して、ずんぐりした体型になります。
    •  皮膚症状では、産毛や二次毛が遺残してしまい、一次毛が生えてきません。産毛は抜け易く、そのため、徐々に両側対称性の脱毛が起こります。初期は、首輪や座位で擦れる部分が抜けますが、最終的には、体幹、頸部、四肢付近が全体的に脱毛します。
    •  皮膚表面は、初めは正常ですが、次第に色素沈着が起きます。皮膚は薄く、皺が多く、鱗屑が多い皮膚状態になります。
    •  成体には、面疱、丘疹、二次性の膿皮症が認められて、慢性的な感染が併発します。

性腺機能低下症が併発することもあります。雄は、潜在精巣、精巣萎縮、無精子症、包皮下垂が、雌では性腺刺激ホルモン分泌障害による持続性発情休止が多くみられます。

GH単独分泌不足の症例は、血液検査や尿検査で異常はみられません。THSの不足を伴うと、高コレステロール血症や貧血など、甲状腺機能低下症に関連した異常所見が認められます。GH、TSH、IGF-Iが不足すると、腎臓の形成や機能障害が引き起こされて、高窒素血症になることがあります。

  •  治療
    •  GHを投与すればいいんでしょうが、犬に有効なGH製剤はありません。残念・・・
    •  プロジェステロンの投与で、体型の増高と被毛の再生がみられた例があるようです。プロジェステロンは、犬の乳腺のGH遺伝子発現を誘発するので、過形成を起こした乳管上皮細胞からGHが分泌されて、血漿中GHとIGF-I濃度が増加します。

プロジェステロンの副作用には、瘙痒性膿皮症、骨格の発育異常、乳腺腫瘍、糖尿病、先端巨大症、子宮内の嚢胞状膜過形成など、です。雌犬は、プロジェステロンの治療の前に、卵巣子宮切除を行います。

長期的な予後は、不良です。多くは5歳齢までに死亡してしまいます。死因は、感染症、神経学的な異常、腎不全などです。