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呼吸器系の疾患/胸膜・縦隔・胸腔の疾患

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胸膜・縦隔・胸腔の疾患

臨床症状

胸腔内の滲出液は、胸部X線検査もしくは胸腔穿刺で確定されます。超音波(エコー)検査も胸水の確認には有用な検査ですので、積極的に行いましょう。
そして、呼吸困難を呈して胸水の貯留がみられる動物には、速やかに胸腔穿刺を行いましょう。胸腔穿刺による治療効果は目立ったものがあります。得られた胸水は細胞診に供しましょう。蛋白濃度、総有核細胞数に基づいて、漏出液、変性漏出液、滲出液に分類します。細胞診の結果で治療の方向付けも可能になりますので重要です。
胸水抜去後は、改めて胸部X線検査を行うなどして、心臓や肺の再評価を行いましょう。

 胸水

胸水の種類に基づく診断アプローチ

胸水の種類一般的な疾患検査
単純漏出液
変性漏出液




右心不全
心膜疾患
低アルブミン血症
(単純漏出液)
腫瘍
横隔膜ヘルニア
脈拍、聴診、心電図、X線、エコーを評価
  (同上)
血清アルブミン濃度測定

X線、エコー、CT、開胸手術
X線、エコー
非化膿性滲出液




猫伝染性腹膜炎

腫瘍
横隔膜ヘルニア
肺葉捻転
胸水の細胞診で診断可能
血清の蛋白分画とウイルス抗体価を測定
X線、エコー、CT、開胸手術
X線、エコー
X線、エコー、気管支鏡検査、開胸手術
化膿性滲出液膿胸細菌培養試験
乳び様胸水



乳び胸



血液検査・尿検査・胸水の細胞診
X線、エコー
フィラリア抗原検査
リンパ管造影
出血性胸水




外傷
止血異常

腫瘍
肺葉捻転
病歴確認
血小板数測定
血液凝固系検査(凝固時間、PT、PTT)
X線、エコー、CT、開胸手術
X線、エコー、気管支鏡検査、開胸手術
  •  漏出液と変性漏出液
    漏出液は、蛋白濃度が低く(2.5~3g/dL)、有核細胞数が少ない(500~1000個/μL)液体です。単核球(マクロファージ、リンパ球、中皮細胞)が主です。うっ血性右心不全や心膜疾患によって水圧が上昇して漏れてくる液体であったり、低アルブミン血症が原因で浸透圧が下がるために漏れ出てくる液体、腫瘍や横隔膜ヘルニアに起因するリンパ管の閉塞が原因になります。
  •  化膿性滲出液と非化膿性滲出液
    •  滲出液は漏出液に比べ、高い蛋白濃度(3g/dL以上)を示し、有核細胞数も多い(5000個/μL以上)。
    •  非化膿性の滲出液には、好中球、マクロファージ、好酸球、リンパ球が含まれます。好中球は、非変性性で、細菌類はみられないでしょう。非化膿性滲出液の場合、猫伝染性腹膜炎(FIP)腫瘍、横隔膜ヘルニア、肺葉捻転と、化膿性滲出液が回復していることが想定されます。
    •  FIPの猫では、発熱や脈絡網膜炎もみられるでしょう。胸水も血清も、蛋白濃度が異常に高値になります。フィブリン線維や血餅が液体中にみられるのも特徴的な所見です。
    •  自然発生性の肺葉捻転は、深くて狭い胸腔を持つ犬に起こりやすい疾患です。また、胸水貯留の原因にもなりますが、胸水の貯留が原因で肺葉捻転が起こることもあります。急な状態悪化の際には肺葉捻転を疑いましょう。乳び様胸水や血様胸水がみられることもあります。
    •  化膿性滲出液では、有核細胞数が極めて多く、変性好中球が多数みられることでしょう。細菌も容易に観察されます。化膿性滲出液があれば、膿胸と診断されます。自然発症、外傷・異物、細菌性肺炎の長期化で発生しうる病変です。抗菌薬感受性試験を行い、的確は抗生剤の投与処置をしましょう。
  •  乳糜[び]様胸水
    胸管という、脂質を多く含んだリンパ液を運搬している管があるんですが、そこからの漏出で起こるのが乳び様胸水です。特発的に生じることもが多いですが、外傷、腫瘍、心疾患、心臓周囲の疾患、フィラリア症、肺葉捻転、横隔膜ヘルニアが原因になることもあります。胸水と血清中のトリグリセリド濃度を測定してみると高値です。基礎疾患があって、直接的な治療か可能であれば予後がよくなります。
  •  出血性胸水
    •  大量の赤血球が混じっているので肉眼的に赤色を示しています。細胞診で赤血球の貪食と炎症反応が認められます。血液量の減少と貧血により症状が引き起こされます。貯留液は凝固しません。外傷、全身性止血異常、腫瘍、肺葉捻転の結果生じます。
    •  止血異常による血胸では、呼吸困難が唯一の症状であることがあります。すぐに活性化凝固時間や血小板数を測定し、凝固系検査(PT、PTT)を測定しましょう。
    •  心臓や肺の血管肉腫も出血性胸水の原因となりますが、胸水内に腫瘍細胞が混じっていることは少ないので、胸部X線検査や超音波(エコー)検査を行って腫瘍の有無を確認しましょう。
  •  腫瘍性胸水
    胸腔内の腫瘤は、ほぼ全てのタイプの胸水の貯留が起こり得ます。悪性リンパ腫の場合は胸水の細胞診で診断を下すことが可能ですが、通常、腫瘍細胞は胸水内に存在しない。
    超音波(エコー)検査は胸水貯留と軟部組織腫瘤の鑑別に重宝されます。胸膜にび慢性に腫瘍が浸潤している場合は、CT検査なども考慮していきましょう。

 気胸

胸腔内に空気が貯留するのが気胸です。胸部X線検査で判断可能です。
胸腔内ってのは陰圧になっています。そのため、胸腔が外気と疎通してしまったり、肺と胸腔が疎通すると、空気は胸腔内に流れ込んでしまいます。原因は、外傷や肺の病変によるものです。嚢胞などの肺病変の破裂が多いのですが、腫瘍、血栓塞栓部位、膿瘍、肉芽腫の中心部が壊死を起こし、病変部の破裂による気胸もあります。気胸の犬や猫は、胸腔穿刺や胸腔チューブを留置して貯留した空気を除去しましょう。

 縦隔腫瘤

縦隔ってのは、胸郭中央部の肺に挟まれた周辺のことを指します。このあたりに腫瘤ができると、肺組織の変位や胸水の貯留が起こって呼吸困難を引き起こします。リンパ腫が一般的です。

 縦隔気腫

気管、気管支、肺胞の破裂や裂傷に由来する空気の漏れです。外傷・咬傷、発咳、気道閉塞による過度な呼吸努力負荷の結果として起こります。
ケージ内で安静にし、裂傷部が自然に治癒・閉鎖するまで待ちましょう。空気が貯留し続け、呼吸障害が続くなら外科的な処置が必要になります。

検査

胸腔・縦隔のX線検査を行い、必要に応じて超音波(エコー)検査、CT検査を行いましょう。胸腔内に50~100mL程度貯留すれば、X線検査像上で確認できます。胸腔穿刺は動物の状態を安定化させるに効果的であり、得られる胸水からも診断を助ける情報を得ることができます。積極的に行いましょう。

疾患

 膿胸

胸腔内に、化膿性滲出液が存在すると、膿胸と診断されます。特に、猫で特発的に発生します。異物・食道裂傷、刺創、肺の感染症の拡大で起こります。

  •  症状
    胸水貯留による症状がみられましょう。頻呼吸、肺音の減弱、腹式呼吸の増加などです。加えて、化膿性疾患ですから、発熱、嗜眠、食欲不振、体重減少もみられます。敗血症性のショックや全身性の炎症反応を呈して来院することもあります。
  •  治療
    •  診断は胸部X線検査と胸水の細胞診で行いますが、細菌培養と抗菌剤の感受性試験は行っておきましょう。
    •  内科治療は、まず、抗菌薬の静脈内投与です。アンピシリンでいいでしょう。効き目が悪いなら、別の抗菌薬を追加して投与していきましょう。改善してきたら、経口投与に切り替えます。抗菌薬を投与するときは、中途半端に止めず、十分な薬効量で十分な期間、投与します。膿胸なら3~4週間継続しましょう。
    •  ドレナージも必須です。膿胸は症状の再発、線維症や膿瘍などの合併症が起こりやすい疾患なので、胸腔に留置チューブを設置して、可能であれば継続的な吸引を行いましょう。最低でも、治療の初日は2時間に1回は吸引をします。
      胸腔チューブは、第10肋間からアプローチして第7肋間に、肋骨の湾曲が最大になっている位置に設置します。手技・手法は、経験者からしっかり実地で学びましょう。机上であれこれ言っても無駄です。
      胸腔内洗浄は1日2回行い、ドレナージを継続する目安は、回収できる液量と細胞診で判断します。細菌が細胞内外にみられないこと、好中球が変性していないこと、が判断基準です。胸部X線検査も、2~3日毎に実施しておきましょう。胸腔チューブ抜去後は1週間後に、抗菌薬治療終了1週間後と1ヶ月後にも胸部X線検査を実施しておきましょう。
    •  血清電解質濃度もモニタリングしておきます。膿胸の犬や猫は、来院時に脱水状態で食欲がない状態が多く、輸液療法を必要とします。カリウムの補充が必要になることがあります。
    •  抗菌薬とドレナージによる治療に対して1週間以上反応がない場合、すわなちドレナージが1週間経っても必要な場合は、胸腔切開が必要になります。他の基礎疾患の疑いを持ちつつ、手術を実施してください。

 乳び胸

乳糜(にゅうび)というのは、小腸で吸収される脂肪酸・脂質(トリグリセリド;中性脂肪)がリンパ球と混ざった液体で、その状態で循環器系に運ばれます。胸管という管を通って運ばれます。その乳びが胸腔内で貯留した状態が乳び胸です。原因は、胸管が詰って漏れるから、なんですけど、素因としては、先天性、外傷性、非外傷性のものに分けられます。
外傷性の乳び胸は、手術や交通事故が原因になります。非外傷性の乳び胸の原因は、腫瘍(縦隔型リンパ腫など)、心筋症、フィラリア症、心外膜炎、その他右心不全を起こす疾患、肺葉捻転、横隔膜ヘルニア、全身性リンパ管拡張症が挙げられます。胸管の炎症や閉塞の結果、引き起こされます。
しかしながら、乳びは特発的に確認され、基礎疾患を確認できないことが多いので、胸部X線検査、血液検査・尿検査、胸腔穿刺で採取した胸水の細胞診などを行って、潜在的な基礎疾患を同定していきましょう。

乳び胸において基礎疾患を同定するための検査

血液検査
尿検査
全身状態の評価

胸水の細胞診

感染因子
腫瘍細胞(特にリンパ腫)
胸部X線検査
(胸水除去後)

前縦隔腫瘤 他
心疾患・心膜疾患
フィラリア症
超音波検査
(胸水貯留時に実施)

前縦隔腫瘤
心エコー
体壁に隣接するたの液体陰影
フィラリア抗原検査フィラリア症
リンパ管造影術前・術後の胸管の評価
  •  症状
    •  発咳がみられるだけの場合もありますが、胸水貯留特有の呼吸困難が初期症状です。
    •  嗜眠、食欲不振、体重減少、運動不耐性が一般的な症状になります。
  •  治療と予後
    •  来院時は、胸腔穿刺と輸液点滴で状態を完全させてやりましょう。電解質の異常が認められることもありますので、カリウムを補正することもあります。
    •  基礎疾患を同定して治療できれば、乳び胸は改善しますが、予後はあまりよくありません。外傷性の乳びは、傷が癒えれば1~2週間程度で回復するでしょう。
    •  内科治療には数週間~数ヶ月を要することが多く、やることは間欠的な胸腔穿刺と低脂肪食が主体です。ルチンが胸膜からの乳びの吸収を促進するようで、効果がみられることがあります。ただ、投薬量が多く、50~100mg/kgで1日3回の投薬になってしまいます。
    •  外科的な治療は、内科治療で効果がない場合に行いますが、胸管結紮や心膜切開を行います。


 気胸(自然気胸)

自然気胸は、肺の空洞性病変の破裂で起こる胸腔内への空気の漏れ、です。肺の空洞性病変は自然気胸の発症前に存在しており、自然気胸には通常、基礎疾患が存在していることを示しております。

空洞性病変は、先天性・特発性のこともありますが、外傷、慢性気道疾患、肺吸虫感染の結果として形成されることもあります。腫瘍、血栓塞栓、膿瘍、肉芽腫では壊死中心を生じることがあり、これらの病変が破裂すると胸腔内に空気が漏れ出ることになります。

胸腔穿刺で、まずは状態を安定させます。頻回に胸腔穿刺が必要なときには、胸腔チューブを留置しましょう。安定したら、CT検査で原疾患を評価することが推奨されます。肺吸虫卵とフィラリア原虫の感染有無の確認を行っておきましょう。肺吸虫が原因なら、内科治療が奏功します。

肺吸虫以外の原因のときは、外科手術を行った方が、予後はいいいようです。手術ができないときは保存療法を行いますが、ケージレスト・胸腔チューブの設置・持続的吸引を繰り返すこと、が治療になります。

 腫瘍性胸水

縦隔リンパ腫による腫瘍性の胸水に対しては、放射線療法や化学療法を用います。シスプラチンの胸腔内投与で緩和されることがあります。
他の胸水と同様に、胸腔穿刺での胸水抜去で、呼吸困難を改善し、QOLが向上することがありますので、必ず実施しましょう。