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循環器系の疾患/不整脈

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不整脈

不整脈には、動物の体に何ら影響を及ぼさない不整脈もあれば、突然死を招く重篤なものもあります。原因と心電図波形の解析による不整脈の特徴を正確に把握し、抗不整脈薬を用いて内科的な治療をします。

不整脈が生じる原因は様々です。心臓に器質的な変化があるのか、遺伝的なものなのか、環境ストレスによるもの、その他色々な要因で伝導障害が生じる可能性があります。明らかな心疾患があれば治療することで改善する場合もありますが、何の徴候もなく特発的に不整脈が起こることもあります。

しかしながら、誘発された不整脈が持続するには、外的要因がある程度必要です。恐怖や攻撃性が増すことが虚血性不整脈や突然死の発生に関わっていますし、心筋肥大、心筋の繊維化、自律神経系の活性化などが長期的に進行すると、心臓に対して強いストレスとなってしまいます。潜在的な催不整脈因子を治療することでも不整脈を軽減できます。

不整脈の治療法

抗不整脈薬による不整脈の治療の目標は、血行動態の安定性を回復させることです。調律を安定させること、基礎疾患の治療、さらなる不整脈や突然死の予防を目標にすることが重要です。100%の異常波形・異常拍動の抑制は非現実的ですので、不整脈を80&以上の抑制を目標にして、臨床徴候を消失させるということを目指しましょう。

治療方針

  1.  心電図の記録と解析
    •  不整脈の検出と種類を判断する
    •  可能な限り、長時間記録を行うべき(24時間ホルター心電図など)
  2.  病歴確認、診察、臨床検査結果を評価して全身状態を把握
    •  血行動態の障害を疑う所見(衰弱、失神、うっ血性心不全徴候)の有無をチェックする
    •  他の心疾患をチェック(心雑音、心肥大)
    •  発熱、血液検査の異常値、呼吸器疾患、外傷など
    •  投薬の有無
  3.  抗不整脈薬を用いた治療の可否を判断
    •  主訴、病歴、臨床徴候、基礎疾患などを考慮すること
  4.  症例の治療目標を設定
  5.  治療を開始して効果を評価
    •  必要に応じて用量の調整や薬剤の変更を行う
  6.  症例の状態管理
    •  ホルター心電図を用いたりして、改善状況を把握しておくこと。
    •  基礎疾患の治療、抗不整脈薬の副作用やその他合併症にも注意を払う。

心電図の解析手順を簡単に記載しておきますが、専門医に解析依頼をすることもよい方法だと思います。専門医でなくても、データを送ってくれたら私でもやりますけど(笑)

  1.  心拍数の確認
    1.  速すぎるのか、遅すぎるのか?
  2.  調律の確認
    1.  規則的か、不規則か?
  3.  洞調律(P波)が認められるか?
  4.  P波とQRS群の関連性は?
    1.  全てのP波にQRS群が続いているか、全てのQRS群にP波が先行しているか?
  5.  期外収縮の起源は心房性か、心室性か?
    1.  期外収縮の波形は?
    2.  通常のQRSと同じ波形なら、心房性もしくは上室性期外収縮であろう。異常なP波が認められるはず。
    3.  通常のQRSと異なる幅広の異形波なら、心室性もしくは心室伝導異常であろう
  6.  基線の揺れと不規則なQRS(心房細動)か?
    1.  P波が見られない。
    2.  波状の基線か?
    3.  速く不規則なQRS群は?
  7.  休止期は?
    1.  異常なQRS群の前に長い休止期が存在するか?
  8.  房室内伝導障害は?
    1.  PR間隔は正常か?
    2.  P波とQRS群の関連性がなく、遅く規則的なQRS群が見られるか?
  9.  電気軸は?
  10.  心電図波形の計測値は正常範囲か?

よく認められる不整脈と診断

不整脈は特発的に認められるものであり、正確な心電図評価をしたいのであれば、長時間の心電図の記録が有用です。異常波形と計測値を見ながら、不整脈の起源(上室性なのか、心室性なのか)や発生する時期(早期拍動なのか、補充調律なのか)を判断しましょう。

心拍数と調律異常の鑑別診断

 不規則な調律規則的な調律
速い
心拍
上室性期外収縮
発作性上室頻拍
心房粗動・心房細動
心室性期外収縮
発作性心室頻拍
洞性頻脈
持続性上室頻拍
持続性心室頻拍

 
遅い
心拍
洞性徐脈(不整脈)
洞停止
洞不全症候群
第2度房室ブロック
洞性徐脈
心室補充収縮を伴う完全房室ブロック
心室補充収縮を伴う心房静止
 

よく認められる不整脈と診断を簡単に解説

抗不整脈薬について

抗不整脈薬には、①頻脈に対して心拍数を減少させる効果②リエントリー性不整脈を停止させる効果③異常な興奮生成や伝導を抑制する効果、の3つの作用があります。

抗不整脈薬はその作用機序・効果によって分類(Vaughan-Willaimsの分類)されていますが、複数の作用を持つ薬剤などもあり、その都度、診断結果に基づいて選択していかなければなりません。分類の基準が活動電位に及ぼす作用を基にしているので仕分けに無理があるのですが、便宜的に現在でも用いられています。

分類薬剤作用機序と効果
クラスⅠ ナトリウムチャネル遮断薬
活動電位の最大立ち上がり速度を減少させる薬剤
膜安定化作用を持つ
 クラスⅠAキニジン
プロカインアミド
ジソピラミド
Ⅰ群の中で、活動電位持続時間を延長させる薬剤
 クラスⅠBリドカイン
メキシレチン
フェニトイン
Ⅰ群の中で、活動電位持続時間を短縮させる薬剤
 クラスⅠCフレカイニド
プロパフェノン
Ⅰ群の中で、活動電位持続時間を変化させない薬剤
クラスⅡプロプラノロール
アテノロール
β受容体遮断薬
クラスⅢソタロール
アミオダロン
活動電位持続時間を延長させる薬剤
クラスⅣベラパミル
ジルチアゼム
カルシウム拮抗薬
その他  
 アトロピン抗コリン作動薬
 イソプロテレノール交感神経作動薬
 ジゴキシンナトリウム・カリウムポンプを阻害・迷走神経刺激による


個々の抗不整脈薬について、順に見ていきましょう。

  •  Ⅰ群抗不整脈薬
  •  Ⅱ群抗不整脈薬:β受容体遮断薬
  •  Ⅲ群抗不整脈薬
  •  Ⅳ群抗不整脈薬:カルシウム拮抗薬
  •  その他 抗コリン作動薬・交感神経作動薬・ジゴキシン  ...続きを読む