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感覚器系の疾患/耳の疾患

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耳の疾患

耳血腫

耳介は、皮膚と軟骨で形成されています。耳介内の血管が破れて、皮膚と軟骨の間に血様液が貯留して膨れ上がった状態が耳血腫です。血管の破壊は、頭を強く振ったり、耳を掻くことで起こります。耳血腫を起こす動物は、アトピーやアレルギーによる耳の疾患を持っていたり、ミミヒゼンダニの寄生がみられることが多いようです。

通常は、耳介の内側が膨隆します。軽度の場合、放置していても貯留液が吸収されて治癒します。耳介軟骨の変形や萎縮が残って、カリフラワー状の外観となることがあるので、適切な処置をしておいた方がいいと思います。

貯留液を針で吸引すると、腫脹は消失しますが、また貯留してしまうことがよくあります。同時に、デキサメタゾンによる耳介内の洗浄を行ったり、軟骨の炎症が起こっている可能性が高いので、非ステロイド性抗炎症薬を投与するといいかと思います。

持続的な排液を目的として、カニューレを設置することもありますし、切開して排液して、死腔をなくして縫合する方法もあります。大きな萎縮を伴うことなく治癒させることが可能です。

耳血腫を起こす原因となっている耳の痒みをなくすひとが肝要です。

外耳炎

外耳道の疾患で最も多いのが外耳炎です。耳からの悪臭、耳を痒がって頭を振ったり、後肢で耳を掻いたり、床に耳をこすりつける症状がみられます。時には、中耳炎や内耳炎、神経症状を起こすこともあるので、注意してください。

外耳道には、皮脂腺やアポクリン腺があって、皮脂腺からは中性脂肪が分泌されて、脱落上皮とともに耳垢の主成分になります。正常な耳垢は、脂質の含有量が多くて、上皮の正常な角化を促して、耳道内を低湿度に保つ働きをします。

アポクリン腺の分泌物は、水性で、外耳炎になりやすい犬種では、アポクリン腺が増加しています。アポクリン腺が活発に分泌を行うと、耳垢の中の脂質の割合が減少して、さらに耳道の湿度が上昇して、感染や外耳炎を起こしやすくなります。とくに、耳の垂れた犬種では、耳道内の通気性が悪いので、湿度が高くなりやすくなります。この耳道内の水分が増加して上皮が湿潤した状態になると、マラセチアやグラム陰性菌の感染・増殖が起こりやすくなります。

外耳炎では、耳道内のpHが上昇して、緑膿菌の感染が起こりやすくなります。先ずは、耳内洗浄を行って、耳道内のpHを酸性に保つようにします。必要に応じて、耳垢の検査を行って、点耳薬を滴下してやると、改善します。

アレルギー性外耳炎
アトピー性皮膚炎やアレルギー性接触性皮膚炎など、過敏症に併発する外耳炎で、何らかのアレルゲンが原因となって起こります。全身性の皮膚疾患に伴って発生することもありますし、ある種の点耳薬(ステロイド含有薬)を長期間使用すると、薬剤成分で起こることもあります。

アトピーなどの過敏症では、耳道の紅斑、浮腫、過形成がみられて、耳介内側にも病変が生じます。四肢端や趾間部にも、耳と同様の病変が現れることが多くて、二次的な表在性膿皮症やマラセチア感染症を起こすこともあります。

マラセチアや細菌の二次感染を予防するために、耳道内の洗浄を十分に行って、抗生剤や抗真菌剤を投与します。炎症を抑えるために、ステロイドの点耳も有効です。耳の疾患と考えるよりも、全身性疾患ですので、免疫抑制剤や抗ヒスタミン薬による、基礎疾患の治療も必要です。

脂漏性外耳炎
耳道内上皮の過度な角化や耳垢腺の分泌異状によって、大量の耳垢が蓄積して起こる外耳炎です。内分泌疾患やホルモン異常(セルトリー細胞腫など)でも起こることがあります。

症状は、大量の耳垢の蓄積と、耳介内側の被毛に脂性の耳垢の付着がみられます。耳垢が蓄積するだけで、痒みや痛みがないこともあります。このタイプの耳垢を検査しても、細菌や炎症性細胞はほとんど認められません。耳内は湿潤してます。

外耳道やその周囲を清潔に保って、細菌やマラセチアの二次感染を防ぎます。過剰な鱗屑の除去をするには、耳道のシャンプーが効果的です。その後、耳道内の洗浄を行って、耳道内pHを酸性に維持して、乾燥させましょう。感染があれば、必要に応じて、点耳薬を投与します。

耳道に対する適切な処置を行っても、多くはアレルギー疾患や先天的要因などの原疾患が残って、再発することも多い疾患です。

細菌性外耳炎
グラム陰性菌である緑膿菌が感染して起こる外耳炎です。外耳道の炎症や、耳道内の湿度、pH上昇が原因となります。アポクリン腺からの分泌が亢進して、耳道内が湿潤してしまうと感染を受ける可能性が高くなります。

痒みとともに、痛みを伴うこともあって、びらんや潰瘍も発生します。耳垢を採取して、細菌検査を行います。グラム陰性桿菌の感染が確認できると思います。中耳炎を併発すると、長期間の全身性抗生物質投与が必要になりますが、緑膿菌は抗生物質に対する耐性を示すことが多いので、感受性試験を実施して、抗生剤の選択をしましょう。

治療は、外耳の洗浄を行って、耳道内のpHを低く保つようにします。感受性試験の結果が出るまでは、グラム陰性菌に対して効果のある抗菌薬(エンロフロキサシンなど)を全身投与と、耳内局所にも塗布しましょう。

真菌性(マラセチア性)外耳炎
犬と猫の耳道内には、マラセチアという酵母菌が常在菌としています。普段は病原性を示さないのですが、動物の体が弱ったときなどに病原性が発揮されることがあります(日和見感染)。外耳炎などで、耳道内の湿度が上昇すると、マラセチアが増殖しやすくなります。

アトピー性皮膚炎や特発性角化異常症などで、二次的に発生しやすくなって、紅斑性皮膚炎の症状を示します。黄色がかった灰色の脂性鱗屑を伴う丘疹がみられます。激しい痒みがあります。

犬が耳を痒がる原因として、かなりの割合を占めますので、痒みがある犬の耳垢は必ず採取して、簡易染色後、鏡検を行って、マラセチアの有無を調べましょう。ボーリングのピンのような形やダルマ型をしたマラセチアが簡単に確認できます。

治療には、抗真菌薬(ミコナゾールやクロトリマゾールなど)の投与(点耳)を行います。ミコナゾール、クロルヘキシジンなどのシャンプーをしてやることも有効です。アトピー性皮膚炎や特発性角化異常症があれば、ケトコナゾールの全身投与も効果的です。

マラセチアは、健常動物にも存在する常在菌なので、完全に除去することは不可能です。治療によって外耳炎が治まっても、耳道内の環境がマラセチアの増殖に適した状態になれば、再発します。放っておくと、慢性化しますので、治療は積極的にしてあげましょう。

中耳炎

中耳の疾患では、中耳炎とコレステリン腫があって、斜頸や眼振などの症状がみられることがあります。多くは外耳炎が波及して中耳炎になります。そのために、中耳炎を見過ごすことがあるので注意しましょう。CT検査などで、正確な診断が可能になっています。

中耳炎の病変部から分離される細菌類は、外耳炎とほぼ同じです。片側性に中耳炎が起こった場合は、異物による鼓膜の貫通、炎症性ポリープ、線維腫、扁平上皮癌なども疑われます。

一般的な症状は、外耳炎や内耳炎とほぼ同じですが、激しい痛みを示すことがあります。通常は神経症状を示すことはありませんが、時折、斜頸、運動失調、眼振、ホルネル症候群、顔面神経麻痺を起こすことがあります。疑いがあれば、耳鏡検査やX線検査、必要ならCT検査・MRI検査を行うと有用です。

セファロスポリンなどの抗生物質を投与します(最低4週間)。消炎薬として、プレドニゾロンを投与します。内科的治療で改善が見られない場合は、外科処置を考慮する必要があります。早期診断と治療を行えば、予後良好ですが、斜頸や軽度の運動失調などの前庭障害が残ってしまうことがあります。治療が遅れたり、十分な治療を行わなかった場合、感染が内耳神経や顔面神経を通じて脳に達して、膿瘍や脳髄炎を引き起こすことがあります。そうなると死亡率が高くなります。

内耳炎

内耳炎は、外耳と中耳の疾患が波及して起こります。最近になって、CT検査やMRI検査が普及したので、内耳炎の診断が可能になってきたこともあって、これまでのところ、内耳炎の発生率は、詳しくわかっていません。内耳炎は、急性の末梢性前庭症状を示しますが、症状が不明瞭なことが多くて、同時に慢性外耳炎が起こっていることが多いために、内耳炎が目立たず、見逃されていることも理由の一つです。

内耳炎の症状は、罹患した側への斜頸、眼振、非対称性の四肢の運動失調です。急性期には、方向感覚を失って、罹患側に向かって旋回して倒れます。協調運動と平衡感覚も侵されて、動物は立ったり歩いたりできなくなることもあります。嘔吐や食欲不振もみられます。但し、これらの症状は、特発性前庭疾患、腫瘍、他の末梢性前庭疾患との鑑別が非常に困難なので、神経学的検査をしっかりと行って、CT検査・MRI検査で診断していくことが有効だと思います。

治療は、その原疾患を治療することです。中耳炎や外耳炎がみられたら、それらの治療が必要です。感染性なら、長期的な(6~8週間)抗生物質の投与が必要となります。早期診断・早期治療ができれば予後良好ですが、治療に対する反応は悪いので、神経症状が残る可能性が高いようです。

耳道腫瘍

ポリープや炎症性肉芽が発生することもありますが、扁平上皮癌や耳道腺腫などがしばしば見受けられます。

耳介や外耳道に発生した腫瘍は、悪臭を伴う慢性外耳炎症状を示します。耳垢や滲出液がみられて、痒みや痛みを伴って、ときには出血や神経症状も起こします。耳介に発生する腫瘍は、犬では良性であることが多いのですが、猫では悪性のものが多いようです。耳道の腫瘍は、有茎製であったり、隆起していたりしますが、耳道を閉塞してしまうこともあります。耳垢腺癌のような、周囲の組織に浸潤する悪性腫瘍もあります。

組織が採取できれば採取して、病理検査で診断をしてもらいましょう。腫瘍であれば、外科的に摘出することが最もいい治療法です。放射線治療を実施することもあって、単独で行うこともあれば、術後の補助として用いることもあります。

犬の多くは予後良好です。猫の扁平上皮癌や転移性の腫瘍は、予後はあまりよくありません。