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泌尿器系の疾患/排尿障害

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排尿障害

排尿は、自律神経と体性神経に支配されています。膀胱への副交感神経支配は、仙髄のS1-S3分節(L5椎体)から出た骨盤神経の知覚枝と運動枝です。知覚枝は、排尿筋の伸張受容器活性化された場合に、膀胱の膨満感を伝達します。運動枝は、主に排尿の流出期に働いて、骨盤神経の刺激に伴って、排尿筋全体にペースメーカー線維の脱分極を引き起こします。脱分極による興奮が、平滑筋細胞の閉鎖堤を通して、隣接筋線維に広がって、排尿筋の収縮を引き起こします。

仙髄分節S1-S3は、外陰部神経を介して、外尿道括約筋に分布する体性神経が出る部位でもあります。外陰部神経の運動枝は、随意調節で外尿道括約筋の骨格筋を収縮させます。外尿道括約筋は、雌では主に尿道の中央部、雄では膜性尿道部に存在しています。外陰部神経は、肛門括約筋、外陰部、包皮などの会陰部における知覚機能と運動機能を備えています。

膀胱への交感神経支配は、下腹神経によるもので、犬はL1-L4、猫はL2-L5の脊髄分節から出て、後腸間膜神経節にシナプスを形成する節前線維からなっています。排尿筋には、βアドレナリン作動性線維が終末して、刺激によって排尿筋が弛緩します。尿の貯蔵を促進します。αアドレナリン作動性線維は、膀胱三角と尿道の平滑筋線維に分布して、刺激で機能的な内尿道括約筋の収縮と形成を引き起こします。αアドレナリン受容体は、外尿道括約筋の調節作用もあります。

正常ですと、貯尿期には、自律神経系の交感神経が優位に働いて、βアドレナリン刺激による排尿筋の弛緩と、αアドレナリン刺激による内尿道括約筋の収縮が起こります。排尿は、膀胱より遠位の尿道横紋筋の収縮によって意識的に抑制されており、腹腔内圧が急激に上昇した場合は、外尿道括約筋を締める脊髄反射によって不随意に抑制されます。腹腔内圧を急激に上昇させるのは、腹部の触診、発咳、くしゃみ、吐き気を催しているときなどです。それでも膀胱内圧が尿道括約筋から生じる圧を上回ってしまうと、尿失禁が起こります。

膀胱の伸張受容器は、膀胱が充満して、膀胱内圧が閾値を超えると、骨盤神経と脊髄路を介して、刺激を視床と大脳皮質に伝えます。排尿の随意調節は、大脳皮質と脳橋、小脳、仙骨核への網様体脊髄路を介して行われます。排尿流出期には、副交感神経の活性化が起こります。流出期には、骨盤神経の運動枝へのコリン作動刺激によって、排尿筋が収縮します。このコリン作動性刺激による排尿筋の収縮時には、内および外尿道括約筋に対するα、βアドレナリン作動性刺激が、脳橋で反射的に抑制されています。
うまくできてますねぇ~

膀胱が空になると、再び交感神経支配が優位となって、排尿筋は弛緩して、膀胱は尿を充満できるようになります。完全に排尿した後の残尿量は、犬でも猫でも、約0.2~0.4mL/kg程度です。

症状

排尿障害は、二つに分類して考えていきます。膀胱が拡張する場合と、そうでない場合です。膨満した膀胱を伴う尿貯留には、神経学的障害と解剖学的な閉鎖性障害があります。神経学的な障害は、脊髄と骨盤神経に圧迫、損傷、変性などを引き起こす疾患で起こりうるものです。上位運動ニューロン障害、下位運動ニューロン障害、反射性失調、機能的尿道閉塞があります。膀胱が長時間過度に拡張すると、膀胱排尿筋の興奮が低下して、神経学的失禁が起こります。自律神経障害でも、下位運動ニューロン障害性の失禁が起こって、排尿筋の衰弱と不全を伴います。

尿漏れや失禁は、収縮性の亢進や尿道流出抵抗の低下によるもので、一般的には、膀胱の拡張はみられません。異所性尿管や膣狭窄などの先天異常でも、膀胱の拡張を伴わない尿失禁が起こりえます。

尿失禁は、尿貯留があっても、膀胱内圧が流出抵抗を上回ると起こります。尿道が閉塞気味でありながら、尿が漏れるという、一見、矛盾した所見となります。矛盾性失禁と言うらしいです。尿が溢れる状態であることから、溢流性失禁とも言うようです。

 拡張した膀胱

膀胱が拡張していると、触診で簡単に触れます。そんでもって、圧迫排尿が容易に可能かどうか、が重要です。簡単に圧迫排尿ができるのであれば、排尿筋の収縮力が低下していると考えられます。圧迫排尿が困難であれば、流出路の抵抗増加が疑われます。機能的な問題として、交感神経の緊張亢進、尿道痙攣から起きた尿道の興奮増加など、と解剖学的な問題として、尿道結石や膀胱三角の腫瘍などを考えます。尿道カテーテルの挿入や尿道造影で、流出路の抵抗を増加させる機能的、解剖学的原因を鑑別できます。

神経学的検査で、神経学的病変や障害が認められたら、膀胱の状態から病変の位置を特定して分類します。障害が、第5腰椎より上位なら、上位運動ニューロン障害、第5腰椎より下なら、下位運動ニューロン障害と判断します。下位運動ニューロン障害の特徴的な症状は、簡単に圧迫排尿できる膨満した膀胱です。膀胱の括約筋と排尿筋の両方に反射低下が起こって、障害が仙髄S1-S3の脊髄分節に及ぶと、外陰部神経の会陰および球海綿体筋反射が消失します。

上位運動ニューロン障害でも、膀胱は拡張しますが、その場合は、圧迫排尿は難しいのが通常です。カテーテル挿入は容易です。胸腰椎の脊髄病変による不全麻痺・麻痺では、一般的に上位運動ニューロン障害性の膀胱疾患が起こります。上位運動ニューロン障害では、排尿を随意的に調整できません。尿道括約筋は、反射性に過度の興奮を示しますが、それは外陰部神経の体性遠心枝が抑制されないことで起こる圧迫排尿ができないことが原因です。

反射性失調は、排尿筋と尿道の運動障害です。大型犬の雄によく認められます。原因はよくわかりません。脊髄や自律神経節の神経学的障害のためと考察されています。反射性失調は、内・外尿道括約筋の弛緩を伴わない排尿筋の能動的収縮から起こります。症状では、排尿開始時の尿流は正常で、だんだんと細くなるおしっこをするのが特徴です。排尿を始めると尿量の抵抗が増加すします。最初に、尿が噴出してしまうこともありますが、だんだんと出なくなって、尿流が完全に遮断されると、尿を出そうと、いきみます。残尿がありますので、しばらくして、犬は後肢を落として歩きながら、尿をぽとぽとと少量ずつ滴下してしまいます。膀胱からの圧迫排尿は困難ですが、カテーテルの挿入は容易です。

物理的な尿流出路の閉塞になると、膀胱が大きく拡張して、通常は、圧迫排尿もカテーテルの挿入もできません。

原発性の尿貯留障害時の尿失禁は、矛盾性失禁とか溢流性失禁と言う(らしい)ですけど、この場合の尿漏れは、膀胱内圧が流出抵抗を上回って起こります。症状は、尿の滴下、排尿を伴わないいきみ、不安、腹部疼痛です。物理的な尿道閉塞の主な原因は、犬では結石と尿道の腫瘍、猫はストラバイトとその粘液栓子ですが、膀胱三角部の腫瘤、尿道狭窄、肉芽腫性尿道炎でも尿道閉塞は起こります。犬の前立腺疾患も、流出路の閉塞を起こします。特に、高齢犬は、良性の前立腺過形成で排尿困難やしぶりを示すことが多いのですが、閉塞原因には細菌性前立腺炎、前立腺腫瘍、前立腺膿瘍も多いので、注意しましょう。排尿筋の収縮性が低下している症例は、流出路の障害を伴う症例よりも早い時期・低い膀胱内圧で、矛盾性失禁が起こります。

 拡張していない膀胱

膀胱が拡張していない場合の排尿障害は、尿失禁です。尿失禁の原因は、排尿筋の収縮力増加と、流出抵抗の低下が考えられます。一般的には、排尿筋の収縮力の増加は、膀胱や尿道の刺激や炎症から起こって、仕方なく、いつもと違う場所で排尿をしてしまいます。症状として、頻尿や排尿困難を示すことが多く、尿沈渣では、炎症や出血所見が認められます。

尿流出抵抗が低下した症例では、動物が寝ているときや、寛いでいるときに、顕著に尿漏れが起こります。上行性尿路感染が併発していなければ、おしっこをする時間帯は正常であることが通常です。

排尿筋の過剰収縮が存在する場合、排尿への衝動が強くなるので、排尿のタイミングを調節できなくなります。膀胱や尿道に炎症があると、膀胱が充満した感覚があるようで、排尿反射が誘発されてしまいます。切迫性失禁、炎症性失禁という診断になります。犬では、細菌性尿路感染、猫では下部尿路の無菌性炎症が原因となることが多い疾患で、このような尿失禁による症状は、頻尿、排尿困難、頻繁な血尿などです。尿検査で、尿路の感染、細菌尿、膿尿、血尿などが認められたら、切迫性・炎症性失禁を疑いましょう。尿路の炎症に対して、適切な治療を行っても症状が続くなら、X線造影、エコー検査など、詳細な検査を行いましょう。原発性・特発性の疾患、慢性膀胱炎、腫瘍、ポリープ、尿石、尿膜管遺残などでも頻尿や排尿障害は生じます。

尿道の流出抵抗の低下の診断名は、尿道括約筋機能不全症、です。避妊した雌犬に認められることが多くて、加齢やエストロジェン濃度の低下によるコラーゲン性支持構造の減少が主な原因と考えられています。その他の原因として、膀胱や尿道の位置が異常である場合、尿道のαアドレナリン受容体の反応性低下、肥満などが考えられます。

エストロジェンやテストステロンは、αアドレナリン作動性神経に対する反応性を強めて、健全な尿道筋の緊張に寄与していると考えられています。そのため、避妊した雌犬では、エストロジェン濃度が低下しているので、失禁が起こりやすいのでしょう。エストロジェンの補充や、αアドレナリン作動薬の投与に反応します。高齢の雄犬にも、起こることがありますが、治療方法は同様です。

若齢の動物で見られる、拡張のない膀胱からの尿失禁は、先天的な欠陥を強く疑います。異所性尿管と膣狭窄が一般的ですが、尿膜管開存、尿道直腸瘻、尿道膣瘻などが原因となることがあります。異所性尿管は、雌犬に多く、後発犬種もあります。症状は、持続的な尿の滴下です。尿管は、膣に開口するので、見えることもあります。CTでうまく確認できるようですね。膣狭窄の失禁は、体位を変えたときに起こることが多いのが特徴です。

失禁は、認知障害、膀胱容積の減少、高齢動物の運動能力の低下によっても起こります。慢性腎不全のような多飲・多尿を起こす疾患も、失禁を悪化させる要因になります。失禁の動物には、利尿薬やステロイドの投与は避けましょう。尿濃縮能を低下させて、感染リスクなどを増やしてしまいます。


診断

排尿障害の症状は、基礎疾患の推測に役立ちます。
尿失禁が出生直後から持続的にあれば、先天的な奇形ですし、失禁に血尿、頻尿、排尿困難が伴えば、膀胱や尿道の炎症を示しています。睡眠中や寛いでいる状態での尿の滴下は、尿道括約筋機能不全であろうし、雌犬が姿勢の変化で尿漏れするようならば、狭窄した膣の後方に尿が貯留していることを示唆しています。

尿流の異常や欠如を伴う排尿困難は、閉塞性尿路障害の典型的な症状です。尿道閉塞は、解剖学的疾患(尿石や腫瘍など)や機能的疾患(反射性筋失調など)で起こります。外傷や骨盤の手術による尿失禁は、下部運動ニューロン障害が原因となります。麻痺が存在するなら、障害は通常、第5腰椎より上位に存在して、上位運動ニューロン障害です。閉塞性尿路障害、上位運動ニューロン障害、下部運動ニューロン障害では、大きく拡張した膀胱が認められます。

高齢の犬や猫の尿失禁は、認知障害、膀胱容積の減少や、調節能の低下からも起こります。高齢なら、多尿性疾患や運動能を阻害する身体障害などを見つけて治療するべきです。多飲・多尿は、膀胱壁や尿道括約筋を連続的に刺激して、切迫性失禁を起こすことがあります。尿量は大量です。いつもは外で尿をする犬でも、室内で排尿してしまうことも度々あります。多飲・多尿の場合は、糖尿病、子宮蓄膿症、慢性腎臓病、副腎皮質機能亢進症、高カルシウム血症などを鑑別して、同定するための検査を行いましょう。

尿失禁と間違えやすいのですが、若い犬が服従を示す際の排尿や、マーキング、問題行動(ストレスなど)による不適切な排尿、があります。問診から判断できることもありますが、泌尿器系の主訴には、必ず身体検査と尿検査を行って、尿路疾患を鑑別しておくべきです。

 初期評価

排尿障害が少しでも認められる症例には、年齢、繁殖の有無、不妊手術の時期、現在の投薬の有無、外傷、尿路疾患の既往歴、を問診で確認しましょう。会陰部の尿焼けも、チェックしておくべき項目です。

その後、膀胱を触診して、大きさ、壁の厚さを評価します。直腸検診も行って、肛門の緊張性、前立腺、骨盤部の尿道、膀胱三角部を調べます。膣の触診も必要です。大型犬なら、膣鏡で、膣狭窄や異所性尿管などを検出できることもあります。

神経学的検査では、会陰と球海綿体反射を調べます。会陰部の皮膚を掴むと、会陰反射が起こって、肛門括約筋が収縮して、尾が腹側に曲がります。尿道球や外陰部を軽く圧迫すると、球海綿体反射が起こって、肛門括約筋が収縮します。このような反射は、外陰部神経の知覚枝と運動枝、脊髄神経分節S1-S3が正常に働いている証拠となります。

犬の排尿姿勢や、尿流の太さと特徴を観察しましょう。排尿直後には、膀胱を触診して残存尿量を調べます。排尿後に大きな膀胱が触知できたら、カテーテルを挿入して残尿量を調べておきます。

尿失禁がみられてれば、必ず尿検査を行います。採尿方法は、可能な限り、膀胱穿刺で行いましょう。穿刺採尿後も、膀胱が膨満しているならば、導尿カテーテルを挿入して膀胱を空にしましょう。穿刺部位からの尿漏れを未然に防ぐためです。

 薬理学的検査

排尿障害では、試験的に薬物投与や治療に対する反応を見て、診断を下すことがよくあります。排尿筋の収縮性低下は、副交感神経作動薬(ベサネコールなど)に反応して改善するはずですし、尿道の緊張性低下は、αアドレナリン作動薬(フェニルプロパノールアミン、エフェドリンなど)やホルモン補充療法に反応するはずです。尿道の緊張性増加は、α交感神経遮断薬(フェノキシベンザミンなど)と筋弛緩薬(ジアゼパムなど)で治療します。

排尿筋の過剰収縮は、細菌性膀胱炎や尿石症の抗炎症治療に反応しますが、炎症が重度な場合は、抗痙攣薬(オキシブチニンなど)や副交感神経遮断薬も役に立ちます。


治療

 下位運動ニューロン障害

仙髄病変や自律神経の障害から生じた下位運動ニューロン疾患を持つ動物は、1日3回程度、圧迫排尿やカテーテルの挿入が必要となります。尿検査や尿沈渣を調べて、尿路感染が少しでも疑われたら、尿の細菌培養をしておきましょう。尿漏れによる、尿焼けを起こさないよう、外陰部や包皮周囲と腹部の皮膚に、ワセリンを塗ってやると予防できます。

膀胱圧迫で、尿道の開通していることが確認できたら、ベサネコール(犬:5~15mg/kg、猫:1.25~5mg/kg、経口、1日2回)を投与して、排尿筋の収縮性を増加させます。ベサネコールの副作用で、流涎、嘔吐、下痢、腸痙攣を示す疝痛様症状がみられます。副作用は投与後1時間以内に認められるので、症状がみられたら、投与量を減らしましょう。

排尿筋アトニーの治療は、数日~数週間の期間、定期的に膀胱の圧迫排尿を行うか、カテーテルを挿入して、膀胱を空の状態に保っておくことが必要になります。カテーテルを留置したら、尿を集めて尿量などをチェックしておきます。3~4日毎に、尿検査を行って、尿路感染の炎症所見などが少しでも認められたら、尿の培養と感受性試験を実施します。尿道の開存性を確認して、ベサネコールを投与し、排尿筋の収縮性を増加させます。

 上位運動ニューロン障害

上位運動ニューロン疾患を有する動物の治療は、自律神経障害の有無で変わってきます。脊髄損傷後5~10日ほどすると、神経反射・自律神経障害が生じることがよくあります。膀胱壁の伸張によって、局所反射弓が刺激されて、排尿筋が収縮することで起こります。随意的な調節はできず、排尿は不完全で、多量の尿が膀胱内に残存します。発症する前に、カテーテルにて1日3回程度、尿を取り除くことで、予防的に治療しておきたいところです。

神経学的な疾患があると、治療にステロイドを用います。ステロイドを使用すると、多尿が起こりますので、それまで以上に頻繁にカテーテルを挿入して、膀胱の過剰な膨満を防がなくてはなりません。同時に、ステロイドは免疫機能を低下させますので、尿路感染症も引き起こしやすく、治療の初期段階から、尿検査や尿沈渣の確認を3~4日毎に行って、尿路感染の炎症所見が疑われたら、尿の細菌培養と抗菌薬感受性試験を行いましょう。ステロイドは、抗炎症薬としての作用もありますから、炎症像がわかりにくくなります。

神経学的な疾患を伴う動物は、痛みのためじっとしていることが多いので、尿焼けを防いでやることは重要です。ケージ内は、清潔に保って、ワセリンを会陰部や包皮に塗布しておきましょう。

自律神経障害が発症したら、採尿後に膀胱を触診して、残尿量を確かめます。尿の貯留を防ぐために、膀胱へのカテーテル挿入が1日に2~3回、必要となることがあります。尿検査は、毎月、ステロイドを投与してるなら毎週、行って、自宅でも、尿の色調や臭いの変化が確認されたら、尿サンプルを持参するよう、飼い主に伝えておきましょう。

 反射性筋失調

反射性筋失調は、薬で治療することが多い疾患です。α交感神経遮断薬(プラゾシン[1mg/15kg、経口、BID]やフェノキシベンザミン[0.2~0.5mg/kg、経口、SID]など)と筋弛緩薬(ジアゼパム[2~5mg/kg、経口、BID])が一般的に使用されます。ベサネコールも使われることがあります。必要に応じて、導尿カテーテルを挿入して、膀胱を小さく維持します。過度な膀胱の拡張による排尿陰アトニーを防ぐためです。

フェノキシベンザミンは、作用の発現が遅いので、尿流を調べて、薬剤効果を判定した後、3~4日間隔での用量変更を行ういます。尿量が弱くても、排尿時の尿の出方が一定で連続しているなら、ベサネコールを用いて排尿筋の収縮筋を増加させて、相乗効果が期待できます。但し、機能的な尿道閉塞が完全に除去されていることを確認してから投与しましょう。

尿流が間欠的で、尿の出方が細い場合は、フェノキシベンザミンやジアゼパムの用量を増やします。ジアゼパムは、作用時間が短いので、散歩の直前(30分前)に投与すると、効果的な場合があります。どの薬を併用すると効果的か、を判断するには、時間が掛かりますし、投与量を時間によって変更する場合もあります。尿量、尿排出の状態を評価しつつ、決定していきましょう。

α遮断薬は、血管拡張作用があるので、低血圧が副作用で認められることがあります。嗜眠、衰弱、意識が朦朧としている状態などが少しでもみられたら、すぐに投与量を減らします。フェノキシベンザミンは作用の発現が遅いので、投薬による反応が悪くても、急激で早急な投与量の増量は避けましょう。悪心も副作用でみられることがありますが、食事とともに投与すると抑制できます。

 機能的尿道閉塞

非神経系の機能的な尿道閉塞は、安静時や排尿時の尿道圧が、以上に高くなる疾患です。前立腺疾患、尿路感染症、尿道筋痙攣、尿道の炎症・出血・浮腫などで認められます。

症状は、反射性筋失調と同じです。両者を鑑別するには、安静時の尿道圧の差を確認するしかありません。基礎疾患を治療した後でも、上昇した流出抵抗が低下しない場合は、α遮断薬(プラゾシンやフェノキシベンザミンなど)や筋弛緩薬(ジアゼパムなど)を投与します。

 尿道括約筋不全症

括約筋の緊張低下を伴う尿失禁の治療は、αアドレナリン作動薬の投与を行います。ホルモンの補充は、有害事象が多いので、推奨しません。フェニルプロノールアミンを、1.5~2.0mg/kg、経口で、1日2回投与が適切です。副作用として、異常興奮、喘ぎ呼吸、食欲不振がみられることがあります。その場合、投与量を減らします。全身性高血圧、僧帽弁逆流、不安障害が認められる症例には、禁忌です。投薬に反応しない症例は、手術で尿道を拡張するなどの処置が必要になります。

 排尿筋の過剰収縮

薬物投与で治療しますが、先ずは、基礎疾患となる原因を取り除くことを優先します。炎症性の原発疾患があって、抗菌薬に反応しない場合には、検討して構いません。抗痙攣薬(オキシブチニン[0.2~0.5mg/kg、経口、BID]など)や抗コリン作動薬で、排尿筋の不随意収縮を抑制します。

排尿筋の過剰収縮が、原発性・特発性である場合には、抗コリン作動薬が役立ちます。

 先天性疾患

尿膜管遺残、尿膜管憩室、異所性尿管などは、外科的に是正可能です。異所性尿管に、尿道括約筋不全症が併発すると、尿管を移植しても、随意排尿が起こらないことがあります。術後に、αアドレナリン作動薬を使用すると、手術の成功率が上がります。

 解剖学的尿道閉塞

解剖学的な尿道の閉塞は、尿石による閉塞や前立腺の疾患による物理的な閉塞疾患です。ともかく原因を取り除いて、腎臓への傷害の防止と、過剰な膀胱の膨満から生じる排尿筋アトニーの防止をします。

尿道結石により閉塞が起きているのであれば、水圧で尿石を膀胱へ戻すと解除できます。解除できないなら、会陰尿道造瘻手術が必要になります。
良性前立腺過形成で尿道閉塞が起きているなら、去勢手術を行いましょう。縮小します。前立腺膿瘍や嚢胞では、外科的な処置が必要になるでしょう。前立腺腫瘍では、摘出手術や放射線治療が有効な症例もありますが、難手術であり、神経学的傷害と尿道括約筋不全症が頻繁に起こります。


予後

神経性の尿失禁の予後は、不良です。
脊髄病変で、椎間板ヘルニアを上手く減圧して管理できたり、硬膜外腫瘤が除去できたり、化学療法や放射線療法で治療できれば、経過は悪くないのですが、一般的には、予後不良です。うまく管理できた症例でも、正常な排尿が戻ることは期待しない方がいいでしょう。

外陰部神経、骨盤神経、仙骨神経根などの傷害に対する予後は、良好です。末梢神経の再生能は高いですから。

反射性筋失調は、薬物療法に反応しますが、基礎疾患が悪化して、投薬が無効になると、予後は悪くなります。長期的なカテーテルの挿入が必要になります。

排尿障害では、定期的に尿検査をして、尿路感染をしっかりとコントロールしましょう。飼い主は、尿の性状をよく観察しておくべきです。疑いがあれば、すぐに尿を採取して、尿検査をしましょう。炎症性の疾患は、細菌培養と感受性試験を行って、適切な治療を行えば、予後良好です。尿道括約筋不全症の予後も良好です。尿石症は、食事管理で再発を防止できます。

膀胱三角や尿道の腫瘍の予後は、ほぼ不良と考えていいでしょう。尿道の腫瘍は、手術をすることも不可能です。腫瘍が体内に広がるまで、症状が認められません。雌犬の肉芽腫性尿道炎は、ステロイド療法や抗菌薬に反応して、予後良好です。