役に立つ動物の病気の情報 | 獣医・獣医学・獣医内科学など

消化器系の疾患/口腔・咽頭・食道の疾患

Top / 消化器系の疾患 / 口腔・咽頭・食道の疾患

口腔・咽頭・食道の疾患

口腔咽頭部の腫瘤性病変・増殖性疾患・炎症

 唾液腺嚢腫

唾液腺導管の閉塞や破裂によって、唾液が口腔内に出てこれず、皮下組織内に漏出して貯留した状態です。外傷で起こる場合はほとんどです。

痛みはなくて、大きな腫脹が顎下や舌下にみられます。咽頭部にみられることもあり、吐き気や呼吸困難を引き起こすこともあります。嚢腫が傷つくと出血や食欲不振(不快感によるもの)がみられることがあります。

穿刺による吸引で、少量の好中球を含む濃厚な粘液状の液体が採取されます。腫瘤を切開して、貯留した液体を排液して、原因となっている唾液腺を除去すれば、予後も良好で治ります。

 唾液腺炎・唾液腺症・唾液腺壊死

唾液腺に起こる炎症で、腫脹がみられます。原因はよくわかってません。嘔吐や吐出によって二次的に起こる場合もあります。痛みはあまり伴わないのですが、炎症がひどいばあいには、疼痛があったり、嚥下障害がみられることもあります。

炎症が重度で痛みを伴うなら、外科手術で切除するのが最も効果的で予後も良好です。嘔吐が見られる場合には、基礎疾患をみつけて治療しましょう。

 口腔内腫瘤

犬の口腔内の軟部組織腫瘤は、ほぼ悪性腫瘍、と考えていいでしょう。悪性黒色腫(メラノーマ)、扁平上皮癌、線維肉腫がよくみられる腫瘍です。猫の場合、多くは扁平上皮癌で、舌下にみられることが多く、好酸球性肉芽腫も比較的よく認められます。猫の場合、悪性腫瘍と好酸球性肉芽腫を鑑別するのは、予後に大きく影響しますので、非常に重要です。しっかりと深部の生検材料を採取して病理検査を行うことが必要です。

口腔内の腫瘤というのは、犬や猫があまり口の中をゆっくり見せてくれることが少なく、口臭、嚥下困難、出血、食欲不振などがみられて、病院で検査してみると腫瘤がみつかる場合や、相当大きくなってから気付く、ということが普通です。

しかしながら、口腔内腫瘤はほどんど悪性ですから、大きくなった状態で気付いて見つかると、転移の危険性も含めて、予後も一層悪くなる可能性が高くなります。
治療は、腫瘤とその周辺組織を広く、外科的に切除することが望ましく、その後、放射線治療を行う方がいいでしょう。手術後に、ピロキシカム(非ステロイド性抗炎症薬;バキソ)で痛みや炎症を抑えてやることで、状態を管理できる場合があります。再発にも注意しましょう。

線維腫性エリープスや乳頭腫は良性で、治療の必要はないですが、摂食障害などの症状を呈している場合には、切除した方がいいでしょう。
それ以外の口腔内腫瘤は、予後不良です。

 好酸球性肉芽腫(猫)

舌根部、硬口蓋など、口腔内に潰瘍化した腫瘤がみられたら好酸球性肉芽腫を疑います。原因はよくわかっていません。猫に起こる疾患で、腫瘍との鑑別をしっかり行います。口腔内の腫瘤は、口腔内の細菌の増殖によって潰瘍や壊死を起こしやすいので、表層ではなく深層の細胞で細胞診を行いましょう。

通常は痛みもなく進行しますが、重度に進行すると、嚥下困難、口臭、食欲不振がみられます。好酸球の浸潤により、皮膚病変が併発することがあります。
高用量のステロイド療法(プレドニゾロン、経口、2~4mg/kg)でコントロールできます。予後も良好ですが、再発することがあります。

 歯肉炎・歯周炎

歯石の蓄積によって起こる細菌の増殖、毒素の産生で、正常な歯肉が破壊されて、炎症が起こります。その結果、口臭、口腔内の不快感を示したり、摂食拒否、嚥下困難、流涎、歯が抜けるなどの症状が現れます。重症例では、根尖膿瘍が起こって鼻腔側に穴が開いたり、眼窩内に膿が溜まることもあります。
猫では、猫白血病ウイルス(FeLV)、猫エイズウイルス(FIV)の感染による免疫力の低下が原因になる場合もあります。

歯肉の内側・外側に付着している歯石を除去してもらいましょう。
治療としては、抗生剤の内服(アモキシシリン、クリンダマイシン)で炎症を抑えます。

予防は、口臭ケア用スプレーを使用するなど、普段からの口腔内の殺菌・洗浄が効果的です。歯石があっても細菌の増殖を抑えられれば炎症は起こりません。

 口内炎

考えられる口内炎の原因
腎不全
外傷
異物・腐食物の摂取・火傷
免疫介在性疾患 (天疱瘡・全身性紅斑性狼瘡)
上部気道ウイルス感染症 (猫ウイルス性鼻気管炎・猫カリシウリルス)
免疫抑制 (猫白血病ウイルス・猫エイズウイルス)
歯根部膿瘍・重度の歯周炎
骨髄炎
タリウム中毒

口内炎の原因は色々とあります。猫白血病ウイルス、猫エイズウイルス、糖尿病、副腎皮質機能亢進症が原因で免疫抑制状態となり、二次的な変化として起こることもあります。

口内炎が生じると唾液がネバネバします。口臭もひどくなり、口腔内の痛みで食欲不振がみられます。発熱もみられることがあります。

口腔内を詳しく検査するには麻酔が必要なことがあります。肉眼的にみて口内炎の診断は可能ですが、基礎疾患を見極めて治療にあたることが必要です。
基礎疾患の治療と、対症療法で症状を軽減させることも必要です。歯石除去、殺菌・洗浄と抗菌薬で炎症を抑えることが効果的です。場合によっては抜歯も必要となります。猫の難治性の口内炎には、ラクトフェリンが効果があることがあります。

基礎疾患によって予後は様々ですが、歯肉炎・歯周炎と同様に、普段からの口臭ケアを行って予防をしておきましょう。

 リンパ球形質細胞性歯肉炎・咽頭炎(猫)

猫のリンパ球形質細胞性歯肉炎というのは、カリシウイルスの感染や慢性的な刺激で炎症を起こす特発性の疾患です。著しい歯肉の増殖を起こすこともあります。

症状は、食欲不振や口臭が一般的です。他の歯肉炎、口内炎との鑑別が難しいですが、歯肉の著しい増殖と、出血が顕著です。生検によってリンパ球や形質細胞の浸潤を認めることで確定診断ができます。

確実な治療法がないのですが、高用量のステロイド療法(プレドニゾロン、2mg/kg)が有効です。デポ・メドロールの皮下投与もいいでしょう。歯石除去、歯の清掃・洗浄を行って抗生剤投与することで効果を認めることがあります。重度の場合は抜歯をすると症状を軽減できます。

予後には要注意です。重症例は治療に反応しにくいでしょう。

嚥下障害

 咀嚼筋炎・萎縮性筋炎(犬)

犬の咀嚼筋に異常を起こす特発性の免疫介在性疾患です。
筋肉が重度に萎縮して、口が開けられなくなって来院します。麻酔下でも開口しないこともあります。食事ができるようになるまで、胃瘻チューブを使用することもあります。

高用量プレドニゾロン(2mg/kg/日)の投与で治癒することがあります。反応が悪い場合にはアザチオプリンとの併用で治癒できることが多い疾患です。症状がコントロールできたら、投与間隔を隔日にして、徐々にプレドニゾロンの投与量を減らしていきましょう。急に投薬を中止すると再発の恐れがあるので、漸減はゆっくり行いましょう。
予後は良好です。

 輪状咽頭アカラシア・輪状咽頭機能不全

先天性の疾患で、原因不明です。ゴールデンレトリバーでは遺伝性で起こります。
輪状咽頭筋と、その他の嚥下反射の協調失調が認められて、そのため、嚥下時に輪状咽頭括約筋の閉塞が起こります。括約筋が適切なタイミングで開かないという症状が起きます。

先天的なものなので、若齢犬で症状がでます。みられる主な症状は、嚥下時や嚥下直後の吐出です。咽頭機能不全との鑑別が非常に難しいのですが、前出の症状が若齢犬でみられたら疑いましょう。

輪状咽頭筋の切除で治癒することがあります。術部が瘢痕化しないように気をつけないと予後が悪くなります。手術の前には、食道の機能評価をしっかりしておきましょう。

 咽頭嚥下障害

輪状咽頭アカラシアに対して、咽頭の嚥下障害は後天的な疾患です。神経障害、筋障害、神経筋接合部の異常が原因です。
咽頭嚥下障害は、高齢の動物でみられる疾患です。症状が輪状咽頭アカラシアに酷似しているので鑑別が非常に難しいのですが、高齢で発症すること、固形物よりも液体の嚥下の方が困難な場合が多いこと、が鑑別の指標でしょう。咽頭嚥下障害では、食道近位部が弛緩して食物が停滞することが多いので、咽頭部に食物が逆流して誤嚥がよくみられるのも特徴です。

咽頭嚥下障害では、食べ物を食道に進める力が足りないのですが、輪状咽頭アカラシアでは、力はあるものの嚥下時に輪状咽頭括約筋が閉じたままであったり、違ったタイミングで開いたりする、という相違があります。それを検査で見極めて診断しなくてはなりません。

治療は、咽頭部にバイパスを作ってやる、というのが最も効果的です。重症筋無力症が原因となる場合は、重症筋無力症を治療するといいのですが、原因疾患を見つけて治療するのは難しいでしょう。
体重減少や誤嚥性肺炎の再発を起こしやすいので、予後は要注意です。

食道脆弱症・巨大食道症

 食道脆弱性(アトニー)

先天的な食道脆弱性・巨大食道症は原因不明の疾患です。後天的なものは、神経障害、筋障害、神経筋接合部の異常(重症筋無力症など)で起こります。飼い主は嘔吐を主訴で来院することが多いのですが、実際には『吐出』のはずです。発咳や誤嚥性肺炎がみられることもあります。

先ずは、『吐出』であることをはっきりさせましょう。その後、単純X線検査もしくは造影X線検査で、閉塞のない食道全体の拡張がみられることで確認できます。後天性食道アトニーでは、基礎疾患を見つけましょう。重症筋無力症、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能低下症、まれに自律神経失調症と共に食道アトニーの見られることがあります。

先天性の食道アトニーの根本的な治療法はありません。食道の拡張の進行や誤嚥を防止するためには食事方法を工夫します。犬や猫を後肢で立たせて、流動食を与えます。頸部・胸部の食道を垂直にして、食べた物が胃まで到達することを補助する原始的な方法が最も効果的です。飲食の後、5~10分程度はその姿勢を維持しましょう。1日の食事を数回に分けて、少量ずつ与えると、食道内での停滞を防ぐことができます。

胃瘻チューブで食道をバイパスすることで、吐出や誤嚥を軽減することが可能です。食道炎がある場合には、治療の助けにもなります。長期に亘る胃瘻チューブの使用が有効な症例もあります。それでも食道に停滞した唾液をと出することもありますが、質のいい生活を送ることができます。

先天性の食道アトニーでは、ときおり機能が回復する症例がありますが、後天的な食道アトニーで特発的に生じた症例では、回復することがほとんどありません。後発的で特発性の食道アトニーには、先天性食道アトニー同様に、摂食管理が唯一の治療方法です。

後天的な食道アトニーで、重症筋無力症や甲状腺機能低下症が原因の場合は、それらの疾患の適切な治療で改善します。胃の内容物の逆流が認められれば、消化管運動調節薬と制酸薬で治療しましょう。胃の酸性度を下げるには、オメプラゾール(1~1.5mg/kg)が推奨されます。

予後は、基礎疾患の治療が可能でアトニーが改善できる場合、食事の管理ができる場合には悪くないですが、一般的には、良くないと考えておきましょう。先天性食道アトニーでは、機能を回復する例もありますが、後天性特発性食道アトニーが回復することは稀です。主な死因は誤嚥性肺炎です。急死することもありますので、注意して管理してください。

 食道炎

胃の内容物が食道に逆流する場合、胃酸の嘔吐が続く場合、食道内に異物がある場合や薬剤(消毒液や錠剤の食道内停留)の刺激によって、食道に炎症が起こることがあります。

症状は、吐出が一般的です。嚥下時に疼痛を伴うと食欲不振や流涎がみられます。薬剤の影響で食道炎が生じると、口腔や舌の充血・潰瘍がみられて食欲不振が主徴候になります。嘔吐に続いて、嘔吐と吐出の両方がみられるようになったという場合は、胃酸の過度な暴露による二次的な食道炎を示唆します。麻酔処置の後から吐出や食欲不振がみられると、食物の逆流による食道炎が疑われます。

治療は、胃の酸性度を下げて、胃の内容物が食道に逆流するのを抑えて、粘膜が剥離した食道を保護するような内服が中心です。H2受容体拮抗薬(シメジチン・ファモチジン)でもいいですけど、胃酸を抑えるならプロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール)がいいかも知れません。胃の内容物の排出を早めるために、メトクロプラミドを投与してもよい。嘔吐も抑制できます。

二次的な感染を防ぐための抗生剤は投与してもいいかも知れませんが、食道炎に対する効果は明確ではありません。何でもかんでも抗生剤は考え物ですので注意して処方しましょう。粘膜が修復されるまで、胃瘻チューブを設置するのも悪くありません。

炎症がひどくなって瘢痕になるとよくないですので、早期治療が重要です。予後にも影響します。基礎疾患を速やかに特定してコントロールしてあげましょう。そうすれば、予後は良好です。

 裂孔ヘルニア

裂孔ヘルニアは、横隔膜の先天的な異常によって胃の噴門部が胸腔内に突出する疾患です。重症例で胃食道逆流が認められます。吐出が主な症状です。

単純X線検査・X線造影検査で見つかることが通常です。
若齢から症状がみられたら、整復手術が必要です。高齢で症状が出始めたら、制酸薬や制吐薬による内服で管理可能なことが多いのですが、内科治療に反応しなければ、外科手術を考えましょう。予後は悪くありません。

 自律神経失調症

自律神経の機能不全が起こると、食道・胃・小腸など消化管の複数個所に拡張がみられます。これは腹部X線検査で確認可能です。吐出をきっかけに見つかることがあります。排尿障害、粘膜の乾燥、対光反射の消失がみられたら、自律神経失調症を疑いましょう。
その他、膀胱が拡張、散瞳、便秘、嘔吐、肛門弛緩、食欲不振、体重減少が認められることがあり、自律神経失調症の場合には、縮瞳する点眼薬(サンピロなど)を片眼に滴下して、点眼した眼は縮瞳・していない方は変化なし、ということであれば自律神経失調と考えていいでしょう。アトロピンに反応しない徐脈も指標になります。

治療は対症療法になりますが、膀胱を圧迫して尿を排出してやらないといけません。嘔吐を減らすための投薬を行い、巨大食道症の併発による二次的な誤嚥性肺炎に対しての抗生剤を投与することもあります。
出来る限り内服でコントロールしますが、予後は不良です。


食道閉塞

 血管輪異常

胎子期にある大動脈弓が遺残して、輪状の組織になって食道を狭窄する先天的な欠陥です。心臓より頭側の食道が拡張します。奇形の血管の外科的な切除が必要になります。食事管理だけでは改善せず、食道の拡張は進行します。

主訴は、吐出です。
先天的な疾患なので、始めて固形物を摂取した直後から始まることが多いのが特徴です。手術で症状は劇的に改善します。術前に、拡張が重度であればあるほど、術後にも吐出が続く確率は高くなります。食道虚脱を併発していることもありますから、予後には十分注意しましょう。

 食道内異物

食道には、特に、先の尖っている骨や釣り針などの異物滞留が多い。
食道の疼痛で、二次的な吐出や食欲不振がみられます。急な吐出がみられると食道内の異物が疑われます。閉塞部位、完全な閉塞か部分的な閉塞か、食道穿孔の有無で症状が変わってきます。

異物が気道を圧迫すると急性の呼吸困難が起こりますし、完全な閉塞なら吐出物は固形物と液体、部分的な閉塞では液体は胃に流れていくので固形物、穿孔があれば、発熱や食欲不振がみられます。食道穿孔の場合は、胸水の貯留や気胸に注意しましょう。呼吸困難も生じます。

穿孔がない食道内異物の除去後の予後は良好ですが、穿孔があると胸腔内への影響によっては要注意です。二次的な感染を防止するとともに、重度の粘膜障害があれば瘢痕形成による閉塞の危険性を考えておきましょう。
治療は、内視鏡を用いて異物を取り除くのが最も有効です。内視鏡では不可能であったり、穿孔がある症例では開胸術が必要になります。

異物除去後は、抗生剤、制酸薬、消化管運動調節薬、胃瘻チューブ、消炎剤(プレドニゾロン、1mg/kg/日)を、動物の状態に応じて使用しましょう。

 食道の瘢痕

食道炎が悪化して起こるのが一般的です。
症状は、吐出です。瘢痕が形成されて食道が狭窄してしまうことが原因です。

治療は、食道炎(基礎疾患)の治療とともに、バルーンによる狭窄部分の拡張を行います。狭窄部の外科的切除は、吻合部で狭窄を起こす可能性が高いので止めておきましょう。拡張後は、感染や再狭窄を防ぐため、抗生剤とステロイド(プレドニゾロン、1mg/kg/日)を投与するのが一般的です。

狭窄を起こす可能性の高い症例を、早期に判別して治療することで、狭窄形成の可能性を低く抑えられ、良好な予後が望めます。
広範囲の狭窄の進行や持続的な食道炎を呈する重症例では、食道の拡張を何度も行う必要があり、長期的な胃瘻チューブが必要となることもあります。

 食道の腫瘍

犬では、食道原発性の肉腫や癌、下部食道括約筋の平滑筋腫や平滑筋肉腫が認められます。甲状腺癌や肺胞腺癌が食道に浸潤する場合もあります。
猫は扁平上皮癌が多いようです。

原発性の食道腫瘍は無症状で進行することが多く、他の疾患で撮影した胸部X線検査で偶然診断されます。大きくなった腫瘍による食道の機能不全で、吐出、食欲不振、口臭が症状としてみられます。
胸部X線検査では、肺の病変との区別が難しく、食道造影や内視鏡で確認する方がいいでしょう。

無症状で進行していることが多いために、手術で治癒することは稀です。症状の緩和を期待する程度です。予後も不良です、