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消化器系の疾患/腸の疾患/小腸疾患

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小腸疾患

蛋白喪失性腸症

原因は明確ではないですが、ステロイドに反応するので、免疫機構が関与しているのかも知れません。嘔吐や下痢、体重の減少、腹水などがみられます。痩せます。血液検査でアルブミンとコレステロールの低値がみられます。

治療には、プレドニゾロン(1~2mg/kg/日)を投与します。状態が悪い場合には、シクロスポリン(3~5mg/kg、SIDもしくはBID)を投与します。低脂肪の食事に反応するなら、それを続けてあげましょう。

 腸リンパ管拡張症

小腸性の下痢と漏出性の腹水が、初期症状です。
リンパ管を拡張する原因はいくつかありますが、腸リンパ管拡張症は特発的な疾患です。下痢をしていて、血液検査で低アルブミン血症、低コレステロール血症が認められたら、この疾患を疑っておきます。

リンパ管が閉塞すると、腸の乳び管の拡張や破綻が生じて、二次的に蛋白質やリンパ球が粘膜下組織、粘膜固有層、管腔へ漏出します。蛋白質は、通常、消化、再吸収されるのですが、喪失量が腸の再吸収能を超えてしまうと、低アルブミン血症になります。リンパ管内の脂肪が腸管壁に漏出してしまうと、肉芽腫が形成されて、リンパ管の閉塞を悪化させてしまいます。

基礎疾患が特定できることが難しいので、治療は対症療法を行います。低脂肪食は乳び管の拡張や二次的な蛋白喪失を防止します。効果があるのは、プレドニゾロン(1~2mg/kg/日)やシクロスポリン(3~5mg/kg)です。脂肪肉芽腫周囲の炎症が減少して、リンパ管の流動性が改善します。

治療のときは、血中アルブミン濃度をモニタリングしておきます。
低脂肪食に比較的よく反応するので、予後は悪くないですが、食事やプレドニゾロンに反応しない犬は、死亡します。ソフトコーテッド・ウィートン・テリアは、蛋白喪失性腸症(腎症も)や腸リンパ管拡張症に罹患し易い犬種なので、特に注意しましょう。


腸閉塞(イレウス)

 単純腸閉塞

単に腸が閉塞している状態を、単純腸閉塞、と定義しています。腸管の閉塞はあるけれども、内容物が腹腔内へ漏出したり、静脈閉塞、腸組織の損傷が認められない場合が、単純腸閉塞です。異物によって起こることが一般的です。浸潤性疾患(腫瘍など)や重積も一因となります。

嘔吐が主症状で、食欲不振、嗜眠、たまに下痢になることもあります。腹痛はありません。閉塞部が口腔に近いほど、嘔吐の回数が増えて、重度になります。腸組織が破壊されて、化膿性腹膜炎を併発すると、瀕死状態に陥ったり、敗血症性ショックを起こすことがあります。
くれぐれも、異物の飲み込みには注意をして下さい。

問診、触診、単純X線検査、エコー検査で、異物、腫瘤、閉塞性イレウスが確認できれば幸運です。胃の流出路の閉塞を示唆する代謝性の変化(低クロール血症、低カリウム血症、代謝性アルカローシスなど)が起こるので、検査で確認しましょう。

異物を確認したら、即、手術を実施します。
化膿性腹膜炎がなく、腸を広く切除することがない病変なら、予後は良好です。

 嵌頓(かんとん)腸閉塞

嵌頓腸閉塞というのは、腸管が、腹壁や腸間膜の隙間、その他の裂け目に入り込んで、元に戻らなくなった状態(これが嵌頓)になり、そこで締め付けられて(医学用語では、絞扼[こうやく]と呼ぶ)、閉塞してしまう疾患です。

絞扼した腸管のループは、すぐに膨満します。腸内細菌が増殖して、エンドトキシンを放出する液体が溜まります。全身性の炎症反応が短時間のうちに発生して、緊急手術が必要です。絞扼が解消されないと、死亡します。

嵌頓腸閉塞になると、急性の嘔吐、腹部の疼痛、進行性の抑うつ状態になります。絞扼した腸が触診できると、触ったときに激痛を感じるようです。粘膜の血色が悪く、頻脈が認められれば、エンドトキシンショックに陥っていると判断していいでしょう。

膨満部が認められて、圧痛のある腸ループが確認できれば、この疾患を疑って、腹部X線検査を行います。腹腔外に、膨満した腸がみられるでしょう。

繰り返しますが、緊急手術です。エンドトキシンショックに対する治療も積極的に行いましょう。腸の内容物を腹腔内にこぼさないよう、注意して切除することが必要です。すばやく処置をしないと、予後は悪くなります。

 腸間膜捻転・腸捻転

腸間膜根部付近で、腸が捻れて、重度の血管障害起こる疾患です。手術を行うときには、腸の大部分は壊死しています。

大型犬で起こることが多いですが、発生頻度は非常に低いです。吐き気、嘔吐、腹痛、沈うつ状態が急激に起こります。血様の下痢がみられることもあります。胃拡張・胃捻転ほど、腹部の膨満は目立ちません。すぐに、腹部X線検査を行いましょう。広範囲の閉塞が認められます。

緊急手術です。腸を整復して、壊死した腸は切除します。予後はきわめて悪く、ほとんどの場合、死亡します。運よく助かっても、短腸症候群になるので、予後に注意しましょう。

 線状異物

犬や猫が、ひも、糸、ストッキング、布など、線状の異物を飲み込んだ場合、全体が丸まって消化管に詰まったり、幸いにも消化管を通過することもありますが、一端が舌根部や胃の幽門に引っ掛かり、残りが腸内に入っていくことで、線状形状を呈することがあります。

紐のような細いものは、消化管に詰まらないように思えますが、小腸は蠕動運動によって、入ってきたものを肛門へ肛門へと押し進めていきます。一端が幽門部などに引っ掛かっていると、紐は進まず、逆に腸が上行してきます。そのため、小腸が異物も周りに集まって、襞状になります。腹部の触診で、房状で圧痛のある腸が触れることもあります。
さらに、小腸が異物を押し進めようとすればするほど、線状の異物は腸に切れ込んでしまい、腸間膜の反対側に何箇所も穿孔を作ることがあります。そのため、致死的な腹膜炎が起こり得ます。

異物の飲み込みがあったなら、触診、画像診断は必須です。腹部X線検査で異物が見えることは稀ですが、腸が膨張していたり、紐の周囲に腸が襞状にまとわりついて、腸管の襞が見えることもあります。バリウム造影も積極的に行います。

少数派ですが、異物を飲み込んだまま、数日から数週間、無症状の場合もあります。一般的には、食物、胆汁などの嘔吐があります。食欲や元気もなくなります。

治療には、開腹して、外科的に除去するのが安全な方法です。飲み込んだものにもよりますが、犬や猫が元気であれば、1日~2日、様子を見て、異物が通り抜ければ、それはそれでいいです。状態が悪化する、改善しない、という場合は、手術を考慮します。

重度の腹膜炎がなく、広範囲の腸の切除がなければ、予後は良好です。あまり長く腸内に滞留すると、腸粘膜内に埋没してしまうため、腸の切除が必要になります。対処は早く行いましょう。短腸症候群になると、予後は悪くなります。

 重積

重積というのは、腸の分節が隣接する分節にはまり込むことです。腸のどこでも起こり得るのですが、回腸が結腸に陥入する(回腸結腸重積)が最も頻度が高い重積です。

腸炎に関連して、特に若い動物に生じやすい疾患です。腸炎で、腸の蠕動運動が亢進して、細い回腸が、それより太い結腸に陥入するパターンが多いようです。その他、急性腎不全やレプトスピラ、腸の手術歴がある動物でも、みられることがあります。

  • 症状

急性の腸重積になると、腸管腔の閉塞が起こって、陥入部の粘膜がうっ血してしまいます。少量の血液が混じった下痢、嘔吐、腹部の疼痛が症状として現れてきます。触診では、腹部に腫瘤が認められることがよくあります。
慢性の腸重積では、難治性の下痢や、うっ血した粘膜からの蛋白喪失による低アルブミン血症が認められます。嘔吐、腹部の疼痛、血便はみられません。蛋白喪失性腸症で鉤虫が検出されない若齢犬、パルボウイルス性腸炎からの回復に時間が掛かっている子犬に対しては、慢性腸重積を疑った診断が必要です。
空腸同士の重積では、血便は少ないのですが、腸粘膜のうっ血は、回腸結腸重積より重度で、消化管運動が低下して、細菌やエンドトキシンが腹腔内に漏出してしまいます。

  • 診断

診断には、触診で腸のループが触知できればいいのですが、それでも腹部X腺検査はしておきましょう。回腸結腸重積では、単純X線検査での診断が難しく、直腸バリウム造影でみつけられると思います。腹部エコー検査は、重積の検出と診断に有効です。空腸空腸重積は、触診しやすく、単純X線検査でも、ガスで拡張したループ所見がみえるので、見つけやすい病変です。

重積の原因を、特定するようにしましょう。寄生虫なのか、腫瘤なのか、腸炎なのか・・・糞便検査を行い、重積整復手術の際には、全層腸生検を行うべきです。特に、陥入した腸の先端は、腫瘤の有無を確認しておかないといけません。

  • 治療と予後

治療は、外科手術です。急性なら、整復だけでもいい症例と切除をする症例を判断する必要が在ります。慢性なら、病変部を切除します。通常、手術がうまくいけば、予後良好です。再発や化膿性腹膜炎が起こると、予後は悪くなります。


短腸症候群

小腸を75~90%、切除した場合に起きる異常です。消化管が適応するまで、残った腸で適切に栄養を消化して、吸収できないために起こる症状がでます。多くは体重が減少して、食後すぐに起こる難治性の下痢が続きます。未消化のフードが糞便中に出てくることもありますが、粘液や血液は含まれないことが通常です。

特に、回結腸弁が切除された場合には、小腸上部まで細菌が到達してしまいますが、かと言って、広範囲に小腸を切除した動物が全て、この疾患を呈する訳でもなく、予後のよい犬や猫もいます。

術後に予防措置をしっかりしておきましょう。経口栄養摂取だけで体重の維持が難しいようであれば、非経口的な栄養補給も行いましょう。

腸が適応するまで、高消化性の食事を少量ずつ、1日3~4回、与えてあげて、止瀉薬、H2受容体拮抗薬を投与しておきます。下痢や胃酸の過剰分泌の軽減に効果があります。細菌が小腸上部まで大量に存在するようになった場合は、抗生剤でうまく調節しましょう。

腸が順応すれば、普通の食事が可能になります。
通常食に戻せない動物や、十分な治療や管理にも関わらず、死亡してしまう犬や猫もいますので、飼い主さんへの説明はしっかりと。


 腫瘍

 消化器型リンパ腫

リンパ球の腫瘍性増殖です。犬よりも猫でよく見られる疾患で、猫の白血病ウイルスとの関連性もあります。リンパ球形質細胞性腸疾患との関連も示唆されていますが、悪性形質転換を証明するデータはありません。犬での発生原因は不明ですが、犬の場合、消化管以外に、リンパ節、肝臓、脾臓で発生するリンパ腫の方が多くみられます。

慢性で、進行性の体重減少、食欲不振、小腸性下痢、嘔吐が認められます。腸管に対しては、結節、腫瘤、腫瘍細胞が浸潤することによるび慢性の肥厚、部部的な拡張や局所的な狭窄などを引き起こします。
蛋白喪失性腸症の併発や、腸間膜リンパ節の腫大もみられることがあります。炎症性腸疾患でも腸間膜リンパ節の腫大はみられますので、鑑別診断は必要です。疑いがあれば、生検を行って、腫瘍化したリンパ球を検出しましょう。それでもリンパ球形質細胞性腸炎との鑑別が難しいこともあります。慎重な検査、診断が必要です。

長期的な予後は非常に悪いのですが、プレドニゾロンが効果を発揮することがあります(特に、猫)。高分化型の小細胞リンパ腫の猫では、数年、過ごせることがあります。癌化学療法は、行いません。むしろ状態は悪くなります(特に、犬)。

 消化管腺癌

び慢性の腸管肥厚、局所的な環状の腫瘤性病変を引き起こします。初期の症状は、腸閉塞による嘔吐、体重減少です。治療は、外科手術になります。完全に切除できれば予後は良好ですが、リンパ節への転移があると、化学療法も効果がありません。

 消化管平滑筋腫・平滑筋肉腫

主に高齢犬の小腸や胃に認められる、結合組織の腫瘍です。境界明瞭な腫瘤を形成します。初期症状は、消化管の出血、鉄欠乏性貧血と腸閉塞です。低血糖が見られることもあります。転移がなければ、外科手術による切除で治癒することがあります。転移があると、予後が悪いですが、この腫瘍は化学療法で緩和できる場合があります。