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消化器系の疾患/腹水・急性腹症・腹部疼痛・腹部膨満・腹囲膨満

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臨床症状-腹水・急性腹症・腹部疼痛・腹部膨満・腹囲膨満

腹水

消化器系の疾患に起因する腹水の原因は、蛋白喪失性腸炎と消化管破裂(化膿性腹膜炎)です。

蛋白喪失性腸炎では、便は正常です。
悪性腫瘍によって、リンパ液の流れが閉塞されたり、血管透過性を亢進したりして、変性漏出液が貯留します。悪性腫瘍の他、肝疾患や心疾患でも変性漏出液が認められます。

急性腹症

ショック、敗血症、激しい疼痛を引き起こす腹部のさまざまな疾患を総称して急性腹症です。原因としては、消化管閉塞・穿孔、うっ血・捻転・虚血、炎症、腫瘍、敗血症が挙げられます

急性腹症の原因

化膿性炎症(腹膜炎)






胃潰瘍の穿孔: NSAIDs、腫瘍
腸管穿孔: 腫瘍、術後の裂開、異物、重度の炎症
腸管壊死: 腸重積、血栓/梗塞
胆嚢炎
胆嚢粘液嚢腫による胆嚢破裂
膿瘍/感染: 脾臓・肝臓・胆嚢・前立腺・腎臓
子宮蓄膿症の破裂
非化膿性炎症


膵炎
膀胱破裂
脂肪織炎
臓器の拡張・閉塞




胃拡張、胃捻転
腸閉塞
腸重積
異常分娩
腸間膜捻転
虚血

脾臓、肝葉、精巣の捻転
腹腔内臓器の血栓塞栓症
腹腔内出血


腹腔内腫瘍: 血管肉腫、肝細胞癌
外傷
凝固障害
腹腔内腫瘍 

ショックや胃拡張・胃捻転がみられたら、直ちに治療です。その可能性が除外できれば、試験開腹を行うか、内科治療を開始するか、を判断しなければなりません。腹部腫瘤、異物、硬くなって疼痛を伴う小腸ループ、特発性化膿性腹膜炎と判断できれば、動物の状態を安定させた後、すぐに手術を行います。診断には、腹部X線検査と血液検査を行い、必要に応じて腹部エコー検査を実施しましょう。
膵炎、パルボウイルス性腸炎、腎盂腎炎、前立腺炎などでは内科治療で改善させる方が効果的です。

適切な内科治療の後でも症状が悪化したり、3日以上の治療で改善がなかったり、激しい疼痛が持続する場合には、試験開腹を検討すべきです。但し、開腹手術をしても異常がみつからなかったり、膵炎など、外科的には対処不可能な疾患もありますので、インフォームドコンセントはしっかりと行いましょう。

腹部疼痛

動物が腹部に痛みを感じていると判断できたなら、その痛みが腹腔内から生じているものか、腹腔外で起こっているものか、を特定しましょう。胸部や腰部の痛みが腹部の痛みと見誤ることがあるので、診察時には注意しましょう。上記、急性腹症では、腹部の疼痛がみられるのが一般的です。
腹部の疼痛では、歩き回ったり、繰り返し異なる姿勢をとったり、何度も腹部を舐めたり気にしたりします。腹部の触診を嫌がることもあります。

腹部疼痛の原因

筋骨格


骨折
椎間板ヘルニア・椎間板脊椎炎
膿瘍
腹膜

腹膜炎
癒着
胃・腸管




潰瘍
異物
腫瘍
癒着
腸の虚血・痙縮
肝胆

肝炎
胆石症・胆嚢炎
膵臓膵炎
脾臓捻転・破裂・腫瘍・感染
泌尿器・生殖器







腎盂腎炎
下部尿路感染症
前立腺炎
膀胱炎
膀胱・尿管の閉塞もしくは破裂
尿道炎もしくは尿道閉塞
子宮炎・子宮捻転
精巣捻転
その他

術後の疼痛
薬剤性・中毒性

腹部の疼痛がみられたら、急性腹症と同様の手順で、痛みの元を特定していきましょう。

腹部膨満

腹部が膨れているときには、急性腹症を起こしている可能性があるので、まず、それを疑って、急性腹症が除外されたら、腹部膨満の原因を特定していきましょう。

腹部膨満の原因

組織変化


妊娠
肝腫大・脾臓腫大・腎腫大
腫瘍・肉芽腫
液体貯留





脾臓捻転・肝臓捻転
右心不全によるうっ血性肝腫大
嚢胞: 傍前立腺嚢胞・腎周囲嚢胞・肝嚢胞
水腎症
子宮蓄膿症
胃や腸の閉塞・イレウスによるもの
ガス貯留

胃拡張・胃捻転、腸閉塞によるもの
消化管や雌性生殖器の破裂
脂肪蓄積肥満、脂肪腫
腹筋の虚脱副腎皮質機能亢進症
糞便 

肥満と妊娠は、すぐに区別しましょう。
腹水が採取できれば分析しましょう。腫瘤や腫大した臓器があれば、生検を行うことが必要です。
ガスの貯留は、消化管の破裂や閉塞・イレウスが起こっている可能性があるので、その場合は緊急手術が必要になるのが通常です。腹膜炎によって化膿性疾患が進行しても、細菌の代謝によるガスの貯留が認められます。
腹部がポテッとしていると、副腎皮質機能亢進症の検査をやっておきましょう。フィラリア症が進行した症例でもボテッとした腹部の膨満がみられます。

腹囲膨満

腹囲の膨満は、肝胆系の疾患の主訴の場合もあれば、その他の疾患で見つかることもあります。臓器腫大、腹水貯留、腹部筋の緊張低下が原因です。

 臓器腫大

多いのは、肝臓の腫大と脾臓の腫大です。腎臓の腫大が見られることもあります。
肝臓は、触診で触れることもありますが、全く触診できなくても肝臓が矮小化しているということもありません。肋骨に守られて触れないことは普通です。胸水の貯留で横隔膜が押し下げられて、肝臓が腫大しているようにみえることがあるので注意しましょう。肝疾患による肝臓の腫大は犬よりも猫で一般的で、犬では線維化を伴う慢性肝炎で肝臓が小さくなることがあります。

肝臓の大きさの変化が認めれる疾患

肝腫大(全体的)肝腫大(部分的、非対称)小肝症
細胞浸潤によるもの
  腫瘍
  胆管炎
  髄外造血
  単球・マクロファージ系
    細胞の過形成
  アミロイド症
うっ血
  右心不全
  心膜疾患
  後大静脈閉塞
  後大静脈症候群
  Budd-Chiari症候群
  リピドーシス
  ステロイド性肝障害
急性肝外胆管閉塞
急性中毒性肝症
腫瘍
結節性過形成
肝線維症
結節性再生を伴う慢性肝疾患
膿瘍
嚢胞











進行性の肝細胞数の減少
    を伴う慢性肝疾患
門脈血流量の減少
  先天性門脈シャント
  肝内門脈低形成
  慢性の門脈血栓
アジソン病
 (循環血液量減少)









肝腫大は、全体的な腫大と部分的な腫大に分けられます。
浸潤性の疾患、うっ血性疾患、肝細胞の腫大や、単球やマクロファージのような単核食細胞系細胞の過形成などでは全体的に大きくなります。この場合、肝臓の表面は滑らかか、少しでこぼこがある程度であり、硬くて全体的な肝臓の腫大が認められます。部分的に腫瘤が増殖もしくは膨張していると、部分的な肝臓の腫大がみられます。

肝臓や脾臓が全体的に滑らかに腫大していると、うっ血性心不全や心膜疾患による二次的な血管内静脈圧の亢進が疑われます。黄疸を呈する肝脾腫は、免疫介在性溶血性貧血において二次的に生じる単球・マクロファージ系細胞の過形成、髄外造血のほか、リンパ腫、肥満細胞腫、骨髄性白血病の浸潤で観察されます。

その他の原因としては、持続的な肝内門脈圧亢進を伴う原発性肝実質性疾患が考えられます。この疾患の肝臓は、触診で触ることができれば、硬くて、表面がぼこぼこしてて、肝臓は線維化の結果として小さくなります。一方で、脾臓は門脈圧亢進によってうっ血して、腫大します。

 腹水貯留

肝疾患による腹水の貯留は、猫よりも犬で一般的です。猫でみられるのは猫伝染性腹膜炎による肝疾患ぐらいです。腹水が貯留していれば、腹水を採取して分析・細胞診を行いましょう。
胸水と同じように、細胞数と蛋白量を基準に、

  •  漏出液、変性漏出液: 中程度から軽度の細胞数と、中程度から低値の蛋白濃度
  •  滲出液: 細胞数が多く、蛋白濃度が高い
  •  乳び性
  •  出血性

に分類します。
普通に、『腹水』と言うと、漏出液や変性漏出液のことを指していて、肝臓や心臓原発の疾患、重度の蛋白喪失性腸炎、蛋白喪失性腎炎によるものです。大量の腹水は、外観からも明らかなことが多くて、腹部の臓器が触診できないことが不可能になります。

肝胆疾患の犬では、肝臓内門脈圧の亢進が最も腹水が貯留する原因です。腹水の生成量は、静脈の血流障害部位、割合、程度に左右され、腸管側のリンパ管から腹腔への体液漏出が認められるようになります。この腹水は、蛋白量も細胞数も少ない漏出液です。腹腔内に滞留すると、蛋白含有量が増加して、変性漏出液になります。但し、低アルブミン血症を呈している状態では、低蛋白のままの漏出液です。肝臓への炎症細胞や腫瘍細胞の浸潤、肝線維症で起こりやすい腹水です。
再生性の結節やコラーゲン沈着などによって起こる類洞の閉塞では、肝臓や腸管のリンパ管からのリンパ液の漏出が起こります。

肝前性の門脈閉塞や、大きな動静脈瘻の存在により門脈容量の過負荷が生じる場合や、門脈血流が増加して肝内血管抵抗が上昇した場合には、中程度の蛋白量で、細胞数の少ない腹水が生成されます。門脈閉塞の原因には、管腔内の閉塞性腫瘤・血栓、管腔外からの圧迫性腫瘤、門脈の低形成などが考えられます。

肝静脈や後大静脈、心臓(肝後性の静脈うっ血)の疾患による肝臓静脈うっ血では、肝リンパ液の生成を増加させて、肝臓表層の肝リンパ管から腹水の漏出を来たします。類洞には内皮細胞が多くて透過性が高いので、肝リンパ液の蛋白含量は多くなります。

これらの原因に加えて、肝疾患によるうっ血が起こると、レニン・アンジオテンシン系が活性化され、その影響を受けて、アルドステロンの放出も活性化されます。アルドステロンは、ナトリウムの再吸収を促して水分保持の役割を果たしています。なので、肝疾患による腹水の治療には、抗アルドステロン薬は重要です。

肝実質不全の犬に起こる低アルブミン血症(<1.5g/dL)の併発では、更に腹腔内への腹水貯留を増加させます。
悪性腫瘍は、炎症反応を惹起して、リンパ液と線維素を腹腔内に滲出させます。この場合の腹水は、漿液血液性、出血性、乳び性です。上皮性悪性腫瘍、中皮腫、リンパ腫なら腹水中に腫瘍細胞が認められる場合があります。
胆管が破裂して胆汁が流出すると、強い炎症反応が起こって、漿膜表面からリンパ液の漏出を起こします。胆汁酸が刺激物質です。他の肝胆疾患と異なり、胆汁性の腹膜炎・腹水貯留には疼痛を伴います。腹水は、ビリルビンが混じるので暗橙色、黄色、緑色になります。胆汁は無菌なので、胆汁性腹膜炎の初期は無菌性ですが、すぐに治療をしないと二次感染を起こして命に関わる事態になります。気をつけましょう。

 腹部筋緊張の低下

腹部は膨満しているものの、臓器の腫大がなければ、腹水の貯留も認められない場合は、腹部の筋緊張低下が示唆されます。重度の栄養障害であったり、内因性・外因性コルチコステロイドの過剰(副腎皮質機能亢進症[クッシング病])によって、筋力が低下して、腹囲膨満がみられることがあります。>副腎皮質機能亢進症では、肝腫、腹腔内の脂肪蓄積、筋の脆弱化が起こって腹囲膨満が起きます。