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血液・造血器系の疾患/白血球減少・増加

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白血球減少症/白血球増加症

最近は、院内に血球計算機を備えている病院が普通だと思います。簡単に総白血球数と分画計数を得ることができます。今なら、5分画(好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球)の白血球計数が測定できるのが通常です。

検査値で、基準範囲外の異常値がみられたら、注意深く血液塗抹を観察しましょう。総白血球数が正常値を越えていたら白血球増加症で、基準値を下回っていたら白血球減少症です。但し、犬種によって基準値が異なる(グレイハウンドなど)ことがあるので、注意が必要です。

白血球の分画計数は、絶対値(細胞数/μL)と相対値(%)で表示されますが、評価するのは絶対値です。総白血球数が3,000/μLで、リンパ球が90%、好中球が10%の場合、相対値だけで評価してしまうと、リンパ球増加症と好中球減少症と考えられます。しかしながら、絶対値から判断すると、リンパ球数は正常であり、重度の好中球減少症を呈している、というのが正しい判断であり、適切な治療を行うことができます。

白血球の形態と生理

白血球は、多形核球と単核球に分類されます。多形核球には、好中球・好酸球・好塩基球が含まれて、単核球はリンパ球と単球です。

形態学的変化
好中球は、傷害反応して、中毒性変化を示す場合があります。中毒性好中球は、好塩基性細胞質、顆粒形成、空胞形成、デーレ小体などの特徴的な細胞質の変化を示します。デーレ小体は、細胞質の封入体で、敗血症などの重度な細菌感染症で観察されます。巨大な好中球、桿状核球、後骨髄球は、大型の倍数体の細胞で、細胞分裂が行われなかった結果として生じます。このような細胞も中毒性変化を示す徴候で、猫で多く認められます。

塗末で見られる形態異常として、ペルゲル-フェット核異常とチェディアック-東症候群があります。ペルゲル-フェット核異常というのは、多形核白血球の核が分裂しない状態でクロマチンと細胞質の成熟が完了する異常です。核は、桿状様形態で、成熟して凝集したクロマチン状態を呈します。症状を伴わない著明な左方移動を示すことになります。塗抹を観察すると、左方移動した細胞は、核の分葉が少ない成熟細胞で、未成熟好中球ではないことがわかります。この異常は臨床的に問題になることはないのですが、塗抹を観察する際に認識しておく必要があります。

チェディアック-東症候群は、致死性の常染色体劣性遺伝による異常で、くすんだ色の体毛と黄色い眼をしたペルシャ猫で認められる疾患です。好中性と好酸性の大型顆粒で、羞明、易感染性、出血傾向、メラニン細胞の異常などを伴います。

核の過分葉(4つ以上の分葉)は、好中球の生存や移動期間が延長した結果として生じる老化状態です。この異常は、副腎皮質機能亢進症やステロイドの投与を受けている動物、慢性炎症疾患に罹患している場合に認められます。

生理学的変化
骨髄には、3つの好中球系分画(増殖・成熟・貯蔵)が存在します。増殖の分画は、分裂している細胞(骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球)で構成されています。骨髄芽球が、後骨髄球に成熟するまでには、約48~60時間を要します。成熟分画は、後骨髄球と桿状核好中球からなっています。このステージは、50~70時間程度です。貯蔵分画は、成熟好中球からなっていて、ここには50時間程度留まっていて、ここに5日分の好中球が貯蔵されていると概算できます。細胞変形能や接着能の変化など、適切な過程を経て、成熟好中球は骨髄から末梢血流へ流れていきます。

血管内にも好中球の貯蔵分画があって、辺縁プールと循環プールがあります。好中球辺縁プールというのは、血管内皮に接着した好中球からなっていて、この好中球は血液検査で算定されません。好中球循環プールでは、血液中を流れている好中球です。これが血液検査で算定される細胞です。これら2つのプールされている好中球の量は、犬はほぼ同じ程度で、猫は辺縁に2~3倍存在しています。

好中球が血液中に存在する平均時間は、犬で6~8時間、猫が10~12時間で、2日程度で血液中の全好中球が入れ替わります。好中球は、一度血管外遊出によって血管から流出すると、血流に戻ってくることはなく、肺、腸管、その他の組織、尿、唾液などで代謝されて、なくなります。

疾患による白血球の変化

好塩基球と単球の基準範囲の最低値は0ですので、これらの減少症はありません。

 好中球減少症

循環好中球の、絶対数の減少です。骨髄における産生の減少・障害、循環好中球の辺縁化や破壊で生じます。好中球の減少は、よく観察される所見ですが、猫では、1,800~2,000/μLの健常猫がいることや、グレイハウンドでも低値は基準範囲内であることは覚えておきましょう。

最も多い原因は、感染症疾患であり、好中球減少症による症状は、非特異的です。食欲不振、嗜眠、発熱、軽度の消化器症状がみられます。無症状のことも多くて、偶発的にみつかることがよくあります。敗血症のような末梢での好中球の消費が激しい疾患や、パルボウイルス腸炎では、重度な症状がみられます。これらの疾患に対しては、積極的な治療が必要です。

好中球減少症の原因

増殖分画における
造血低下・無効造血
辺縁プールにおける
好中球隔離
突発的な
過剰需要・消費・破壊
骨髄癆
 リンパ増殖性疾患
 骨髄増殖性疾患
 全身性肥満細胞腫
 悪性組織球腫
 骨髄線維症
薬剤誘発性
 抗癌剤・免疫抑制剤
 クロラムフェニコール(猫)
 サルファ合剤
 エストロジェン(犬)
 フェノバルビタール(犬)
  他
毒物性
感染症
 パルボウイルス感染症
 FeLV・FIV
 ヒストプラズマ症
 エールリヒア症
 アナプラズマ症
 トキソプラズマ症
 犬ジステンパー感染初期
 犬伝染性肝炎感染初期
エンドトキシンショック
アナフィラキシーショック




















感染症
 腹膜炎
 誤嚥性肺炎
 サルモネラ症
 子宮内膜炎
 膿胸
 犬ジステンパー感染初期
 犬伝染性肝炎感染初期
薬剤誘発性
 抗癌剤・免疫抑制剤
 クロラムフェニコール(猫)
 サルファ合剤
 エストロジェン(犬)
 フェノバルビタール(犬)
  他
免疫介在性
腫瘍随伴性






好中球減少を認める症例に対しては、投薬歴を確認して、ワクチン接種歴、敗血症を起こす原因の精査、感染症(FeLV・FIV、エールリヒアやパルボウイルス性腸炎)に対する検査、必要に応じて行う骨髄の細胞診や病理組織学的検査が必要です。血液塗抹の変化を評価することは、好中球減少の病因を特定する上で、重要です。検査機器では、成熟好中球と桿状核球とを区別することができないので、塗抹を評価して計測することが必要になります。

好中球減少症では、貧血や血小板減少症を併発している場合が多くて、特に、貧血が非再生性であるなら、原発性の骨髄疾患が強く疑われます。再生性貧血や球状赤血球が認められたら、免疫介在性疾患を疑います。

好中球の中毒性変化や左方移動の存在は、感染を疑わせる所見です。ステロイド反応性好中球減少症や原発性骨髄疾患では、通常、中毒性変化や左方移動は認められません。ステロイド反応性好中球減少症は、意外と報告があって、無症状の好中球減少症の動物で感染症や腫瘍が除外されたら、免疫抑制量のプレドニゾロン(犬;2~4mg/kg/日、猫;4~8mg//kg/日、経口)を試してみるといいでしょう。治療法は、免疫介在性溶血性貧血や他の免疫介在疾患と同じです。

無症状で、無熱性の好中球減少症が認められたら、敗血症に移行する危険が高いので、広域殺菌性抗生物質で治療します。エンロフロキサシン(5mg/kg、経口、SID)あたりでいいのではないでしょうか。嫌気性菌に対する薬効範囲を持つ抗菌薬は、防御的細菌叢である消化管内嫌気性菌も殺してしまうので、使うべきではありません。

発熱、症状がある場合は、救急状態に陥る可能性があるので、早期に、積極的に抗菌薬を静脈内投与で治療します。アンピシリン(20mg/kg、BID)やエンロフロキサシン(5mg/kg、SID)の組み合わせを使うといいと思います。

一過性の好中球の減少と周期性に好中球が減少する疾患は、経時的に白血球数を測定することで除外できます。

 好中球増加症

好中球数の絶対的な増加が、好中球増加症です。白血球増加症のほとんどは、好中球の増加によるものです。

成熟好中球増加症、というのは、桿状核好中球などの未成熟好中球は増加していないのに、分葉核(成熟)好中球数が増加している状態です。

左方移動を伴う好中球増加症、というのは、成熟好中球と未成熟好中球の両方が増加した場合、に用いられます。桿状核好中球が300/μL以上です。

再生性左方移動、というのは、未成熟好中球数の増加を伴った好中球増加ですけど、未成熟好中球は、成熟好中球数を上回ることはありません。

変性性左方移動、というのは、未成熟好中球数が成熟好中球数を上回った場合を言います。成熟好中球数の絶対値は、減少することもあれば増加することもあります。変性性左方移動を伴う疾患は、通常、劇症です。膿胸、化膿性腹膜炎、細菌性肺炎、子宮蓄膿症、前立腺炎、急性腎盂腎炎などが挙げられます。中毒性好中球変化は、変性性左方移動を呈する症例でよくみられます。

好中球数が、50,000/μLを超えると、顕著な好中球増加症、と判断します。左方移動や成熟好中球の増加を伴います。顕著な好中球増加を引き起こす典型的な疾患では、子宮蓄膿症、免疫介在性疾患、ヘパトゾーン症、マイコバクテリア症、慢性骨髄性白血病が考えられます。

類白血病反応、というのは、著しい左方移動を伴った著明な好中球の増加を示して、後骨髄球や骨髄球が出現します。これは、重度の炎症性疾患の存在を意味していて、慢性顆粒球性(骨髄性)白血病との鑑別が困難になる場合もあります。

好中球増加症の原因

生理的
エピネフリン誘発性
ストレス性
ステロイド誘発性
炎症
組織での需要増加
興奮・運動・恐怖など





外傷・腫瘍
副腎皮質機能亢進症
慢性疾患



感染症
組織の外傷や壊死
免疫介在性
腫瘍
尿毒症・糖尿病性ケトアシドーシス
火傷  など

好中球が増加している犬や猫は、高率に感染性疾患に罹患していますが、絶対的なものではありません。しばしば、内因性エピネフリンの放出によって引き起こされることがあります。血管辺縁にプールされている好中球の移動によるもので、一過性です。通常は、赤血球の増加やリンパ球の増加も伴います。

ストレスや、ステロイドの内因性放出や外因性の投与によっても、好中球は増加します。血管系からの好中球遊走の減少と、骨髄貯蔵分画からの好中球放出による増加が関与しています。好中球の増加と、リンパ球減少、好酸球減少、単球の増加がみられます。

症状
潜在する疾患によって、二次的に現れてくるものです。発熱が認められることがありますし、ないこともあります。好中球の増加が持続している場合、好中球が中毒性変化を起こしている場合、変性性左方移動を示している場合は、敗血症の病巣や感染性因子を必ず特定しましょう。

治療
原発疾患を治療します。徹底的な検査を行っても原因が特定できない場合、症状がほとんど発現していない場合、初期治療として、広域性殺菌性抗菌薬(エンロフロキサシン、セファロスポリン、アモキシシリン)を用いて、経験的な抗菌薬療法を行うことがあります。

 好酸球減少症

循環好酸球数の減少は、ストレス性白血球像、外因性ステロイド投与による所見です。臨床的な意義は、ありません。

 好酸球増加症

循環好酸球の増加は、寄生虫性疾患でよくみられるので、先ずは、寄生虫による原因を考慮しましょう。猫では、ノミの寄生で好酸球数の著しい増加が認められることがあります。犬では、回虫、鉤虫、犬糸状虫(フィラリア)症でみられることがあります。猫では、好酸球性肉芽腫、気管支喘息、好酸球性胃腸炎でも、好酸球の増加が起こることがあります。

好酸球増加症の原因

寄生虫疾患過敏性疾患好酸球浸潤性疾患
 回虫・鉤虫・犬糸状虫
 ノミ寄生
 肺吸虫・猫肺虫

 アトピー
 ノミアレルギー性皮膚炎
 食物アレルギー

 好酸球性肉芽腫
 気管支喘息(猫)
 好酸球性胃腸炎・大腸炎
 好酸球性肺浸潤
感染症腫瘍その他
 猫汎白血球減少症
 猫伝染性腹膜炎
 トキソプラズマ症



 肥満細胞腫
 リンパ腫
 骨髄増殖性疾患



 軟部組織損傷
 猫泌尿器症候群
 甲状腺機能亢進症
 心筋症
 腎不全
 発情

症状は、原発疾患に関連したものです。寄生虫疾患を除外したら、他の可能性のある疾患を特定するよう、検査を行いましょう。

末梢血液中の好酸球数が多くて、組織への好酸球の浸潤が認められることがあります。これは、好酸球性の白血病との区別ができません。全身症状を示すこともありますが、主に、消化器症状が認められます。免疫抑制剤に対しても反応が乏しくて、多くは診断後、数週間以内に死亡します。

 好塩基球増加症

好塩基球の増加は、好酸球の増加に関連して認められます。好塩基球は、肥満細胞と同様の細胞なので、過剰なIgEの産生や結合が特徴的な疾患や、さまざまな非特異的炎症性疾患で増加します。

好塩基球増加症の原因

IgE産生と結合に
関連する疾患
炎症性疾患

腫瘍

高リポ蛋白血症
との関連
 犬糸上虫症
 吸入性皮膚炎

 胃腸疾患
 呼吸器疾患

 肥満細胞腫
 リンパ腫様肉芽腫
 抗塩基球性白血病
 甲状腺機能低下症


 単球増加症

単球の増加は、炎症性、腫瘍性、変性性の刺激に反応して起こります。単球増加症は、慢性炎症疾患で主に認められますが、急性疾患でも認められます。ストレス性白血球像の一部です。

単球増加症の原因
炎症
  感染性疾患(子宮蓄膿症・膿瘍・腹膜炎・膿胸・骨髄炎・前立腺炎)
  細菌(ノカルジア・アクチノミセス・マイコバクテリア)
  細胞内寄生虫(エールリヒア・マイコプラズマ)
  真菌
  (プラストミセス・ヒストプラズマ・クリプトコックス・コクシジオイデス)
  寄生虫(フィラリア)
免疫介在性疾患
  溶血性貧血・皮膚炎・多発性関節炎
重度の挫滅性外傷
組織や体腔への出血
ストレス性・ステロイド誘発性
腫瘍
  リンパ腫・骨髄異形成
  白血病(骨髄単球性、単球性、骨髄性)

種々の細菌性、真菌性、原虫性疾患の結果として起こることもあります。単球は、組織マクロファージの前駆細胞であり、肉芽腫性の反応で増加します。細胞破壊を引き起こす免疫介在性の障害やリンパ腫などの腫瘍によっても増加することがあります。原発疾患を特定して、治療することが原則です。

 リンパ球減少症

リンパ球の減少は、内因性コルチコステロイドの作用で起こることが最も一般的です。入院時などにも、ストレス性の白血球像として認められることがあります。乳び胸や腸リンパ管拡張のような慢性的なリンパ球喪失を呈する疾患でも、よく見られます。

リンパ球減少症の原因
コルチコステロイド性疾患
ストレス誘発性疾患
リンパ液の喪失
  乳び胸・リンパ管拡張症
リンパ球産生障害
  化学療法によるもの・長期間のステロイドの使用
ウイルス性疾患
  パルボウイルス・犬ジステンパー・犬伝染性肝炎
  FIP・FeVL・FIV

一般的に、リンパ球の減少を認める犬や猫は、臨床的に何らかの異常を来していますので、それを治療します。ステロイドの投与を受けていたり、疾患によるリンパ球の減少は、無視して構いません。疾患の異常を解決させて、ステロイド治療を中止した後での評価で構いません。リンパ球が減少するからといって、感染しやすくなる、という事実もありません。

 リンパ球増加症

恐怖や興奮、ワクチン接種、エールリヒア症、副腎皮質機能低下症、慢性リンパ性白血病などが原因で、リンパ球の増加がみられます。ワクチン接種後は、反応性のリンパ球が認められます。急性リンパ芽球性白血病では、形態学的に異常なリンパ系細胞(芽球)が多数認められます。

猫は、採血時に興奮して、内因性カテコラミンの放出によって、著しくリンパ球と好中球が増加してしまうことがあります。リンパ球や好中球の評価が必要な場合は、鎮静後に採血することも必要かも知れません。

リンパ球の増加があって、血液塗抹標本中に反応性リンパ球が認められたら、ワクチン接種歴を確認します。ワクチンによる影響が除外されて、リンパ球数が10,000個/μL以上であれば、多くは慢性リンパ性白血病か慢性エールリヒア症が疑われます。単球性エールリヒア症では、豊富な細胞質と粗大なアズール好性細胞質顆粒を有する大型のリンパ球である大顆粒リンパ球が増加しています。これは、慢性リンパ性白血病でもみられることがあります。リンパ球数が20,000個/μLを超えると、おそらく、慢性リンパ性白血病である、と思われます。エールリヒア症と白血病の病態はよく似ていますが、骨髄細胞診において、エールリヒア症では全般的な血球系統の低形成と形質細胞お増加がみられて、白血病ではリンパ球数の増加だけを伴う低形成がみられることが多いのが特徴です。

リンパ球増加症の原因
生理的またはエピネフリン誘発性疾患(猫)
長期にわたる抗原刺激
  慢性感染症
  (エールリヒア症・シャーガス症・
   バベシア症・リーシュマニア症)
  過敏症反応
  免疫介在性疾患
  ワクチン接種後反応
白血病