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呼吸器系の疾患/肺の疾患

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肺の疾患

胸部X線検査でみられる肺の異常所見から考えられる鑑別診断を、異常所見別にまとめておきます。血管、気管支、肺胞、間質の異常を観察することが必要です。しかしながら、X線画像から確定診断を下すことは不可能であり、その他の追加検査が欠かせません。

肺血管に異常所見が認められる場合

拡張した動脈拡張した静脈拡張した動脈と静脈
(肺循環過剰)
細い動脈と静脈
フィラリア症
肺血栓塞栓症
肺高血圧症







左心不全









左右シャント
 動脈管開存
心室中隔欠損
心房中隔欠損






肺低循環
 心原性ショック
 循環血液量減少
  重度脱水
  失血
  副腎皮質機能低下症
 肺動脈弁狭窄
肺の過剰拡張
 猫の(特発性)気管支炎
 アレルギー性気管支炎

肺胞に異常所見が認められる場合

肺水腫重篤な炎症性疾患出血
 細菌性肺炎
誤嚥性肺炎



肺挫傷
肺血栓塞栓症
腫瘍
真菌性肺炎
全身性凝固障害

肺の間質に結節が認められる場合

腫瘍 
真菌感染


ブラストミセス症
ヒストプラズマ症
コクシジオイデス症
肺寄生虫

猫肺虫症
肺吸中症
膿瘍

細菌性肺炎
異物
好酸球性肺疾患 
特発性間質性肺炎 
非活動性病変 

肺の間質が網状もしくは無構造性の陰影が認められる場合

軽度な肺水腫 
感染




ウイルス性肺炎
細菌性肺炎
トキソプラズマ症
真菌性肺炎
寄生虫感染
腫瘍 
好酸球性肺疾患 
特発性間質性肺炎特発性肺線維症
軽度な出血 


下部気道(気管支や肺)に寄生する寄生虫は、直接観察、血液検査、細胞診、糞便検査で確認できます。
内部寄生虫に関しては、犬や猫が咳をした際に虫卵や子虫が肺から排出され、それを飲み込み、糞便中に排出され、次の宿主や中間宿主に感染する、という生活環(ライフサイクル)を持っています。但し、産卵は間欠的で、必ずしも糞便中に虫卵が排出されることはないので、疑いのある動物にはその他の検査(糞便浮遊法、糞便沈殿法、ベールマン法など)も併用しましょう。気道洗浄などで採材することも必要な場合があります。
トキソプラズマの場合は、猫は糞便中に排出されます。但し、感染の診断には、肺からの採材試料の中でタキゾイトを検出するか、血清学的検査で間接的に確認する方法が必要です。
フィラリア症に関しては、フィラリア症の項目を参照してください。

ウイルス性肺炎

 犬インフルエンザウイルス

馬インフルエンザウイルスが犬に伝播したようです。接触感染で拡大します。多頭飼育されていると広がり易い疾患です。症状としては、伝染性気管気管支炎の症状と同じです。重篤な場合に、肺炎に進行します。発熱、頻呼吸、呼吸困難、聴診で捻髪音が聞き取れます。
症状を呈してから、10日間程度、ウイルスを排泄しますが、臨床症状を示さず不顕性感染する犬も多い(20%程度)ようです。感染力は強いのですが、人のインフルエンザのように強い症状が出ることは少ないので、それほど怖がらなくて大丈夫です。確定診断には、抗原の検出やPCR法による診断が必要なため、実際問題として犬インフルエンザと診断されることは少ないでしょう。

細菌の二次感染による粘液膿性鼻汁が認められるので、抗菌剤で治療します。軽症例は、完全に治癒しますが、咳は1ヶ月程度持続します。
まだワクチンはありません。接触感染する疾患ですので、消毒を徹底することでしょう。動物の使うボウルやケージとともに、人間の手洗い消毒もしっかりと。ウイルスは通常の消毒で簡単に死滅します。

 その他のウイルス性肺炎

犬ジステンパーウイルス、カリシウイルス感染症(猫)などが肺炎に進行することもありますが、主要な症状となるのは稀です。ほとんどが二次性の細菌性肺炎です。 
非滲出型の猫伝染性腹膜炎(FIP)が肺炎を引き起こすことがありますが、FIPの場合、肺炎以外の症状で来院することが普通です。
これらの感染症は、感染症の項目も参照してください。

細菌性肺炎

さまざまな菌が肺に感染します。マイコプラズマが分離されることもありますが、臨床的に症状を呈しているのかどうかは定かではありません。検出される細菌類は、ボルデテラ(←子犬やストレス環境下の子猫で多い)、連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、パスツレラ属、クレブシエラ属、プロテウス属、シュードモナス類あたりです。肺炎のほとんどが口腔内や咽頭にいる細菌による炎症です。

細菌性肺炎は、菌の感染から起こる肺の炎症ですが、ほとんどの場合、肺炎を起こしやすい素因があると考えた方がいいでしょう。誤嚥や異物の排出能の低下、低栄養・ストレス・内分泌障害による免疫抑制状態、ウイルス感染の併発、腫瘍、真菌、寄生虫の感染も要因になりうるものです。

  •  症状
    •  下部気道疾患に特徴的な呼吸器症状がみられます。発咳、粘液膿性鼻汁、運動不耐性、呼吸困難などですね。伝染性気管気管支炎をこじらせた犬では、騒々しい咳を発します。全身症状や発熱がみられることも多いでしょう。肺音の変化にも注意です。
    •  血液検査や気管洗浄液の細胞診や細菌培養、胸部X線検査での炎症像を確認しましょう。二次的な感染であることが多いので、基礎疾患を特定するために詳細な検査が必要になることが普通です。
  • 細菌性肺炎で考慮するべき治療
    抗菌薬

    感染細菌の培養と感受性試験の結果に基づいて
    効き目のある抗生剤を選択する
    気道の水分補給

    全身の水分量を保つ
    生理食塩水のネブライジング
    理学療法


    横臥位の動物は1~2時間毎に体位を変えてやる
    状態が安定したら軽度の運動をさせる
    手で胸を叩く
    気管支拡張薬必要に応じて処方。特に猫
    酸素吸入必要に応じて実施
    禁忌事項利尿薬・鎮咳剤・ステロイド剤
  •  抗菌薬
    •  細菌性肺炎の治療は当然ながら、抗菌薬が中心になります。
    •  口腔内の菌が下行してくるケースが多いので、グラム陰性菌の感染が多く、耐性菌の出現に注意しましょう。培養試験・感受性試験の結果が出るまでは、アモキシシリン(20~25mg/kg)やセファレキシン(20~40mg/kg)を用いておくことが無難です。フルオロキノロンは、薬剤耐性グラム陰性菌の出現の恐れを想定して取っておきましょう。どんな場合でもそうですが、フルオロキノロン系の抗生剤は若齢の動物にはあまり使わない方がいいです。
    •  症状が重篤であったり、敗血症の可能性がある症例には、積極的に抗生剤の静脈内投与を試みましょう。
    •  症状が改善した後、最低でも1週間は抗菌薬を継続服用させましょう。
  •  気道の水分補給
    •  気道内の分泌物が乾燥すると粘稠性が増して、線毛の機能を低下させます。肺の排出機能が妨げられます。気道内の水分量の維持は必須で、肺炎の症例に対しては水分の補給が必要であり、脱水している動物には輸液を行いましょう。なので、利尿剤は禁忌です。
    • 気道への水分補給法には、加湿療法とネブラインジングがあります。加湿は、バスルームでしばらく過ごすとか、加湿器の置いた部屋で過ごす、という簡単なもので大丈夫です。ネブライジングは、ネブライザーが安価で入手可能ですので、それを使って生理食塩水を噴霧してあげれば十分です。加湿では鼻腔~上部気道、ネブライザーを使えば、下部気道まで加湿が可能です。
    •  加湿によって、喀痰が増加します。自分で排出できない場合には、理学療法を施してあげて排出を助けてあげましょう。ネブライザーを使用するときは、余計な感染を防ぐためにチューブやフェイスマスクは清潔に保ちましょう。
  •  理学療法
    •  気道の排出機能を助けてやるために行います。咳の誘発と、肺からの滲出液の排出を促進するために、ネブライザーを使用した後には必要です。
    •  状態が悪く、同じ体位で横臥している動物などでは、長期にわたると肺硬化症が起こることがあります。横臥位の動物は、少なくとも2時間に1度は体位を変えてあげましょう。動物が、体が動かすことができて状態が安定しているなら軽度の運動が必要です。運動によって、気道の排出作用を促進する深呼吸や咳が起こることを期待してのことです。
    •  胸を叩いてやると意外と効果的です。バシバシ叩くのではなく、手を少しカップ状にして叩いてやるのがコツです。ある程度強く叩いてやる必要もあります。
  •  気管支拡張薬
    猫では時折、炎症に続いて気管支痙攣の生じることがあります。特に呼吸努力が増大した症例や呼気性喘鳴音が聴取される症例に使用を考えます。
  •  その他、注意点
    咳を無理に抑制しないようにしましょう。細菌性肺炎に対しては、ステロイドの使用は禁忌です。

細菌性肺炎の犬や猫では、肺機能の悪化を示す症状を見逃さないようにしましょう。呼吸数、努力呼吸の有無、可視粘膜の色調はまめに観察しましょう。3日以内には血液検査と胸部X線検査を実施して、改善経過を確認するべきで、3日で改善がない場合は治療方法の変更を考えます。改善がみられたら、自宅での療養に入っても大丈夫です。但し、毎週、来院してもらって経過を慎重にみていくことは必要です。
胸部X線検査において、感染による炎症像が腫瘍や異物の局所性病変を隠してしまうことがあります。したがって、抗菌薬治療の終了1週間後には胸部X線検査の再評価をしておく方がいいでしょう。

  •  予後
    •  抗菌薬には速やかに反応するはずで、予後は良好です。しかしながら、基礎疾患をもつ動物に対しては慎重に予後を判断していきましょう。
    •  病態が進行して、肺膿瘍を併発している場合もあります。長期の内科療法で膿瘍の改善が見られない場合や治療後に再発する場合には、肺葉の外科切除が適用されます。

トキソプラズマ症

猫トキソプラズマ症では、肺が罹患臓器として一般的ではありますが、トキソプラズマ症は多臓器性の全身性疾患なので肺だけではありません。詳細は感染症の項目に記載してありますので、そちらをご参照を。

真菌性肺炎

肺炎を引き起こす真菌は、ブラストミセス、ヒストプラズマ、コクシジオイデスです。クリプトコックスは猫で肺炎を引き起こすことがあります。
下部気道疾患の進行性の症状、すなわち体重減少、発熱、リンパ節腫大、脈絡網膜炎やその他の全身症状を呈しているようなら、真菌の感染も疑ってみましょう。
胸部X線検査で、肺の播種性結節性間質性パターンがみられます。結節は、粟粒大です。気管や肺から菌体が検出されない場合も多く、常に感染の可能性を考慮しておきましょう。
全身性の症状も示しますので、これも感染症の項目に記載しています。

寄生虫

肺の疾患を引き起こす寄生虫がいます。一部の消化管内寄生虫(犬回虫)の子虫が肺に移行することがあり、一時的に肺炎を生じることがあります。フィラリア原虫(犬糸状虫)の寄生は、炎症と血栓で重度の肺疾患を引き起こします。オスラー肺虫ってのがいるんですけど、気管支に寄生します。イベルメクチン(400μg/kg)で駆虫可能です。その他、まとめておきます。

肺に寄生する寄生虫の虫卵・子虫の特徴

寄生虫宿主発育段階検査材料特徴
肺毛細線虫
Capillaria aerophila
犬・猫虫卵糞便浮遊法
気道材料
樽状、黄色
両端の突出した透明で非対称の栓
鞭虫の卵よりやや小さい
(60~80μm×30~40μm)
肺吸虫
Paragonimus kellicotti
犬・猫虫卵高比重浮遊法
沈殿法
気道材料
卵形、金褐色、単一の弁蓋
弁蓋は肩が突出し扁平
(75~118μm×42~67μm)
猫肺虫
Aelurostrongylus abstrusus
子虫ベールマン法
気道材料
尾部がS字状の子虫
背側に棘をもつ
気道材料中に虫卵が観察されることも
(350~400μm×17μm)
オスラー肺虫
Oslerus osleri
子虫・虫卵気管洗浄液
硫酸亜鉛浮遊法
S字状尾部
子虫は背側の棘を持たない
壁が薄く無色の幼虫を含む虫卵
(80×50μm)
肺線虫
Crenosoma vulpis
子虫ベールマン法
気道材料
子虫は先細った尾を持つ
するどい鉤や棘を持たない
気道からの材料より子虫を含む虫卵が検出される
(250~300μm)

寄生は、感染型の寄生虫(中間宿主や待機宿主内のものが多い)を経口摂取することで起こり、肺に移動します。好酸球性の炎症反応が肺の中で生じます。一部の感染動物で症状を引き起こします。
気道や糞便中の感染子虫を検出して確定診断しましょう。

  •  肺毛細線虫(Capillaria aerophila)
    成虫が気道の上皮表面に寄生する小型の線虫です。臨床症状はほとんどありません。ときおりアレルギー性気管支炎がみられます。
  •  肺吸虫(Paragonimus kellicotti)
    ケリコット肺吸虫と呼ばれる小型の吸虫です。カタツムリとザリガニをともに中間宿主として必要とします。成虫は肺後葉に寄生します。寄生部位付近では肉芽種性反応が起こることもあります。胸部X線検査では充実性もしくは空洞を有する塊状病変の所見が確認できます。
    症状を示さないことも多いですが、アレルギー性気管支炎と同様の症状を示す犬や猫もいます。嚢胞が破裂して、自然気胸の徴候がみられる場合があります。その場合は、胸腔穿刺を実施して状態を安定させましょう。治療で予後は良好です。
  •  猫肺虫(Aelurostrongylus abstrusus)
    猫の気道や肺実質に寄生する小型の線虫です。カタツムリもしくはナメクジが中間宿主です。ほとんど症状を示すことはありませんが、あれば若齢猫であり、アレルギー性気管支炎様の症状です。駆虫後の予後良好です。
  •  肺線虫(Crenosoma vulpis)
    キツネの肺線虫で、犬にも寄生します。キツネの生息地は気をつけましょう。気道に寄生します。カタツムリやナメクジが中間宿主です。アレルギー性気管支炎や慢性気管支炎と同じ症状を呈します。ミルベマイシンに感受性があるようです。

誤嚥性肺炎

肺にある程度の量の固体もしくは液体を吸い込んでしまった結果起こる炎症性の肺疾患を誤嚥性肺炎と言います。健康な動物でも、少量の液体や細菌は口腔や咽頭部から気道に吸引されるのですが、正常な気道の排出機能によって防がれます。
吸い込まれる物質は、ほとんどの場合が胃内容物か食物です。ですので、吐出のある動物の合併症としてよくある疾患です。

誤嚥性肺炎の基礎疾患

疾患原因
食道疾患




巨大食道症
逆流性食道炎
食道閉塞
重症筋無力症
気管支食道瘻
局所性口腔咽頭疾患



口蓋裂
輪状咽頭アカラシア
咽頭形成術
短頭種気道症候群
全身性神経筋疾患


重症筋無力症
多発性神経症
多発性筋症
意識低下



全身麻酔・鎮静
発作後
頭部外傷
重度の代謝性疾患
医原性

食物の強制給餌
胃瘻チューブ
嘔吐他の誘因に関連

巨大食道症は最もよくある基礎疾患です。その他の疾患では誤嚥性肺炎の原因としてはあまり一般的ではありませんが、逆流性食道炎や食道閉塞、重度の長期にわたる嘔吐も基礎疾患は考えておくべきでしょう。咽頭や喉頭の嚥下反射の低下が原因となることもあります。局所性もしくは全身性の神経系または筋肉の疾患、麻酔下の犬や猫も要注意です。手術の前はきっちりと絶食・絶水をしましょう。強制給餌の際にも注意しましょう。胃瘻チューブが気管内に入ってしまうと肺炎を起こすことがあります。

誤嚥による肺の損傷は、化学的障害、気道閉塞、感染による炎症反応によるものです。化学的障害は胃酸によるものです。組織壊死、出血、浮腫、気管支収縮が続発して、著しい急性炎症が惹起され、肺胞の機能低下による低酸素症は致死的な要因になり得ます。
誤嚥した物により気道の閉塞が起こり、それに引き続く反射性の気管支収縮と炎症が、より気道の閉塞を悪化させます。吸引された固形物は、マクロファージなどによる炎症反応を惹起します。これらの反応は器質化を起こして、最終的には肉芽腫を形成します。

胃の内容物は酸性なので無菌性ですが、動物は口腔内に歯周病疾患を持つことが多く、そこに存在する細菌による二次的な細菌感染が起こりやすくなります。

  •  症状
    •  急性で、重度な呼吸器症状がみられます。診察時にショック状態にあることもあり、食欲不振や抑うつなどの全身症状が伺えます。慢性・間欠性の発咳、進行性の発咳、呼吸努力の増大、発熱がみられる動物もいますが、抑うつ状態しか示さない動物もいます。病歴の問診、誤嚥の可能性のある行為が無かったか、しっかり確認しましょう。症状を発現する前に嘔吐、吐出、摂食があったことが確認できることがあります。
    •  誤嚥性肺炎を引き起こす基礎疾患を訴えて来院する場合もあります。注意深い診察を心掛けましょう。胸部X線検査での間質の不透過亢進像は、誤飲後1~2日経過しないと明瞭に認められないので注意しましょう。さらに、動物の状態が安定したら、神経筋系の検査を実施しておきましょう。同時に、飲食動作の確認も行います。
  •  治療と予後
    •  気管に物が詰まっている場合は、麻酔下にあるか、意識がない状態なら動物病院で除去可能です。重度の呼吸困難を呈してる症例には、レスピレーターを使用するなどして、酸素吸入を即座に行います。
    •  静脈を確保して輸液点滴を開始し、気管支拡張薬とステロイドの投与を行いましょう。ショックを治療するために、点滴の開始時は急速投与が必要になります(犬:~90mL/kgまで、猫:~50mL/kgまで)。落ち着いたら低用量にします。目安は点滴開始から1時間程度です。
    •  気管支拡張薬の投与する目的は、気管支痙攣の改善と呼吸筋の疲労を軽減させるためです。特に、猫において有効です。但し、気管支拡張薬は換気を悪化させることがありますから、状態をよく観察して、改善が見られない、低酸素状態になった、という場合は中止しましょう。
    •  即効性のステロイド剤(デキサメタゾンなど)をショックの治療に用います。抗炎症作用については期待しないようにしましょう。抗菌薬を使用する方がいいです。重篤な呼吸困難を示していて、明らかに全身性の敗血症を呈している症例では、直ちに抗菌薬を使用します。もちろんと言いますか、まずは広域スペクトルの抗菌薬を使いましょう。状態が悪い場合には、静脈内投与です。
    •  誤嚥性肺炎は、嚥下困難な場合がありますから、気管洗浄を行うのは状態が安定してからです。誤嚥性肺炎では、長期の治療が必要なことが多いですので、細菌培養・感受性試験を実施しておきましょう。
    •  二次性の細菌感染が起こったら細菌性肺炎の治療です。基礎疾患があれば基礎疾患の治療です。再発を防ぎましょう。基礎疾患が重篤であったり治療不可能な場合、予後は悪くなります。

好酸球性肺疾患

好酸球性肺疾患というのは、主要な浸潤細胞が好酸球である炎症性肺疾患のことです。最も特徴的な疾患として、アレルギー性気管支炎、猫の特発性気管支炎が挙げられます。肺の間質への細胞浸潤が見受けられることもあり、「好酸球性肺浸潤」と表現します。好酸球性肺浸潤の症状が進行して重篤化し、結節やリンパ節腫大を伴うこともあり、「好酸球性肉芽腫症」と呼ばれる病型になります。
真菌感染症や腫瘍との鑑別診断が必要で、肺における過敏症反応を包括したものです。過敏症反応なので、『抗原』となるものをしっかり考えましょう。フィラリア原虫、肺の寄生虫、薬物、アレルゲンの吸入が考えられます。好酸球性肉芽腫症は、フィラリア症との関連の強い疾患です。

  •  症状
    •  犬でよくみられる疾患で、進行性の遅い呼吸器症状を示します。発咳、努力呼吸、運動不耐性がみられます。食欲不振や体重減少は軽度です。
    •  肺組織から得られる検体を検査することで診断可能です。侵襲性の高い手技が必要です。感染因子と悪性所見の存在を注意深く検査する必要があります。抗原が何であるか、を特定しなければなりません。フィラリア検査、肺の寄生虫の糞便検査はやっておきましょう。
  •  治療と予後
    •  基礎疾患があれは、それを治療。過剰な免疫反応を起こす可能性がある抗原を排除すれば治癒することがあります。
    •  ステロイド(プレドニゾロン:1~2mg/kg)による抗炎症療法が一般的です。好酸球性肉芽腫症では、強い免疫抑制療法が必要になります。症状が改善したら、ステロイドを漸減していきましょう。3ヶ月再発がなければ治療終了です。
    •  治療の効果が得られない場合、特に好酸球性肉芽腫で大きな結節(塊状)病変が認められるときは、ステロイドに併用して細胞障害性薬(シクロホスファミド)を投与することがあります。シクロホスファミドは抗癌剤なので、副作用が心配です。投与する場合には、毎週、胸部X線検査を行い、十分に注意して投与しましょう。

特発性間質性肺炎

特発性間質性肺炎というのは、肺胞中隔を傷害する肺の炎症性細胞や線維組織の浸潤をいいます。症状としては、好酸球性肉芽腫症と同じような症状を示します。
しかしながら、間質性肺炎ってのは、色んな原因でもって発症することがあり、この特発性間質性肺炎を確定診断するのはかなり難しい。特発性間質性肺炎の場合、多くは特発性肺線維症です。確定診断には、肺生検が必要です。そこまでするか、というところです。他の疾患を除外して、最終的にこの疾患に辿りつくということもありうると思いますが、特発性肺線維症の犬や猫の予後は不良です。侵襲性の高い肺生検に体力的に耐えられるのか、見合う治療が期待できるのか、を考えていくと、支持療法でQOLを保つことが先決かも知れません。

治療はステロイドと気管支拡張薬の服用です。
予後はよくないので、症状の悪化を遅らせることが目的になります。

腫瘍

肺の腫瘍の予後は悪いと思っておきましょう。
原発性、転移性とも悪性であることがほとんどです。転移や厄介です。肺以外の全身のあらゆる部位の悪性腫瘍が転移してきます。血行に入ると静脈に乗って右心室・右心房を経由して肺動脈へ運ばれます。肺では流速が遅くなって毛細血管網に捕捉されるが故に転移します。リンパからの侵入や浸潤も起こり得ます。

リンパ腫、悪性組織球腫、肥満細胞腫など(多中心性腫瘍)もみられます。リンパ球増殖性腫瘍で肺に限局するものは「リンパ腫様肉芽腫症」といい、多形成のリンパ細網細胞と形質細胞様細胞が好酸球、好中球、リンパ球、形質細胞を伴って血管内・血管周囲に浸潤するのが特徴です。

  •  症状
    •  腫瘍が肺に浸潤するに従って、努力性呼吸や運動不耐性を引き起こします。症状として現れるのは気道への波及によるもので、腫瘍の塊が気道を圧迫して発咳と呼吸不全(気道閉塞)を起こします。食欲不振、体重減少、抑うつ、発熱があります。嘔吐や吐出が初期症状としてみられることもあります。
    •  慢性的に疾患の進行が遅いこともありますが、気胸や出血など、甚急性症状がみられることもあります。ときには、臨床症状が全く無く、胸部X線検査で偶然、見つかることもあります。真菌や寄生虫などのその他の結節性の病変などと間違えないように診断することが必要です。CT検査やMRI検査がより感度が高い検査ですので、必要に応じて実施しましょう。
  •  治療
    •  良性、孤立性の腫瘍は外科的に切除すれば予後も良好です。それ以外は予後不良と考えておいていいでしょう。
    •  手術ができない場合は、化学療法を行います。しかしながら、原発性肺腫瘍に対しては治療プロトコールはありません。転移性腫瘍は、原発腫瘍の感受性によって決めますが、原発部と同様の薬剤反応性を示すとは限りません。多中心性腫瘍は、標準の化学療法プロトコールを用いるのが一般的です。(→腫瘍のページ参照を

肺高血圧症

肺動脈圧が上昇している状態を、肺高血圧症、と呼びます。ドプラー心エコー検査が普及して、血圧を推定できるようになったので、症例が増えています。
一般的には心疾患・うっ血性心不全・肺血管抵抗の増加などの基礎疾患によるものが多いのですが、原発性(特発性)の肺高血圧もみられます。肺の血管抵抗は、肺血栓塞栓症、フィラリア症、慢性気管支炎、特発性肺線維症といった疾患で上昇します。

  • 症状
    運動不耐性、虚脱・失神、呼吸困難などです。聴診で、大きく分裂したS2心音が聴取されるでしょう。重症例では、胸部X線検査で肺動脈や右心拡大が見つかります。
  • 治療
    基礎疾患を見つけることができれば、その疾患の治療を積極的に行います。原発性の場合、明確な治療法がありません。なので、対症療法で対処します。
    一説には、バイアグラが効くらしいですけど・・・(笑)

肺血栓塞栓症

肺は、右心室を出て最初に血栓が通過する血管網であり、さらに血圧が低く、血管系が広範囲に広がっているので、血栓塞栓の好発部位になっています。血栓・塞栓による呼吸器症状は致死的で、血栓・塞栓で起こる血流の低下に加えて、出血、水腫、気管支収縮が呼吸障害を悪化させます。血栓による血管閉塞や血管収縮に付随して血管抵抗の上昇が肺高血圧症を引き起こし、最終的には右心不全に陥ります。

通常、血栓塞栓は、肺以外の臓器の疾患が原因で生じます。なので、凝塊形成の元を特定することが必須です。静脈うっ帯、血流の乱れ、血管内皮の損傷、凝固亢進で血栓の原因となる栓子ができますが、細菌、寄生虫、腫瘍、脂肪によって栓子のできることもあります。

肺血栓塞栓症を起こしうる原因
外科手術
重度の外傷
副腎皮質機能亢進症
免疫介在性溶血性貧血
高脂血症
糸球体腎症
フィラリア症・成虫駆除
心筋症・心内膜症
膵炎
播種性血管内凝固
過粘稠度症候群
腫瘍

肺血栓塞栓症は、見過ごされることの多い疾患ですが、CT検査の普及で診断が容易になりつつあります。見逃し易いので、肺血栓塞栓症を起こしうる原因による疾患がある場合には、常に疑って診察しましょう。

  •  症状
    •  甚急性の呼吸困難が一般的です。多くの場合、重度な下部気道症状を呈していても、胸部X線検査による肺の所見は正常です。
    •  聴診では、心音で、第2音が強かったり、分裂音が聴取されたりします。
  •  治療と予後
    •  呼吸困難を示す重篤な症例には、ショックに対する治療の目的で、高用量・即効性のステロイド投与を行います。デキサメタゾンやコハク酸プレドニゾロン(~10mg/kg、iv)などです。
    •  酸素吸入も直ぐに行いましょう。
    •  凝固亢進を疑う動物には、抗凝固剤で治療効果が得られます。抗凝固剤を用いる治療は、重篤な出血を引き起こす可能性があるので、十分にモニターしつつ慎重に行いましょう。
      •  最初に、ヘパリン(200~300U/kg、sc、BID)を投与します。PTTを正常値の1.5~2.5倍に維持します。出血が副作用で起こることがありますので、出血があれば中止しましょう。
      •  長期の治療には、ワルファリンの経口投与で維持します。初期投与量は、犬:0.1~0.2mg/kg、SID;猫:0.5mg/head、SID、で行います。ワルファリンで副作用が生じて過剰な出血がみられたら、ビタミンK(2~5mg/kg/日)を投与します。ビタミンKを投与する場合は、ワルファリンによる治療を数週間中止しましょう。
    •  呼吸器症状の重症度や基礎疾患の改善度で予後は左右されますが、一般的に肺血栓塞栓症の予後はよくありません。

肺水腫

他の部位に生じる機序と同様の機序で、水腫が起きます。
その原因は、浸透圧の低下、循環系の過負荷、リンパ管閉塞、血管透過性の亢進などがあります。

浸透圧の低下循環系の過負荷リンパ管閉塞血管透過性の亢進その他
低アルブミン血症






心原性
過水和






腫瘍







毒物・薬物
感電
外傷
敗血症
膵炎
尿毒症
播種性血管内凝固
炎症
血栓塞栓症
上部気道閉塞
溺水
神経原性浮腫




初めは、肺の間質に液体が貯留します。間質の容量は小さいので、すぐに肺胞へ浸潤します。ひどくなれば、気管支・気道まで液体で満たされます。
急性呼吸窮迫症候群とよばれる危険な状態から、低アルブミン血症による慢性的な疾患までありますが、詳細な問診と諸検査の実施で絞込みができます。

  •  症状
    •  発咳、頻呼吸、呼吸困難を示して、聴診で捻髪音が聴取されます。
    •  血液の混じった泡沫が気管、咽頭、外鼻孔にみられると要注意です。すぐに死亡する可能性が高い状態です。
  •  治療と予後
    •  肺に貯留する液体を除去するより、生成されない処置を行う方が、効果的な治療になります。肺水腫が改善すれば、自身の代償性機序が働いて、自然に快方に向かっていきます。酸素補給のような支持療法で改善します。
    •  肺水腫がみられる動物は、ケージ内で安静に、ストレスを最小限にする必要があります。低酸素症を呈していたら、酸素吸入も行いましょう。重症ならベンチレーターを用いて管理を行い、必要に応じて気管支拡張薬を投与します。
    •  フロセミドはほとんどの肺水腫に適用します。但し、循環血液量が減少している症例では逆に補液の必要なことがあります。
    •  原疾患を特定して治療にあたっていく必要がありますが、原因としては心疾患や血管透過性の亢進が多い。血管透過性の亢進や心原性以外の要因による肺水腫では、自然に治癒するものから、急性呼吸窮迫症候群のような劇症のものまであります。急性呼吸窮迫症候群は治療に対する反応が悪く、予後も悪いです。支持療法が主体になり、これといった治療法が確立していません。
    •  血管透過性亢進による浮腫がみられる場合も治療は非常に困難になります。