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消化器系の疾患/腸の疾患/下痢

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下痢

急性下痢

 急性腸炎

突然に下痢が起こるものですが、ほとんどの場合、自然に治るので、結局のところ、今回の下痢の原因はなんだったの? という具合で、特定できません。考えられる原因としては、感染症、腐敗した食べ物、フードを急に変えた、体質に合わない食事だった、フードの添加物によるもの、寄生虫などでしょう。

但し、パルボウイルス感染症には気をつけましょう。命に関わります。また、軽症の場合でも、糞便検査を行って、寄生虫の有無は調べておきましょう。感染の拡大を防ぐためにも、汚染された物や場所は徹底的に消毒を!

原因不明の下痢は、とくに子犬や子猫に頻発します。下痢だけなら、環境変化や疲れ、ストレス性の下痢であることがほとんどですが、嘔吐や脱水、発熱、食欲不振、抑うつ、腹部の疼痛がみられたら注意しましょう。若齢動物は、低体温、低血糖を起こしやすく、昏迷に陥ることもあります。生後半年を過ぎて、体力もついてくると、下痢の時には絶食させることが多いですが、若齢時には絶食はしない方がいいです。

軽い腸炎なら、検査をすることもなく、対症療法を行って問題ありません。重症例でも、まず行うのは対症療法です。原因はほとんどの場合、不明であり、仮にウイルス感染であっても特異的な治療法はありませんので。

発熱、血便、衰弱しているようであれば、寄生虫のチェックとパルボウイルス抗原検査、猫なら白血病ウイルス(FeLV)とエイズウイルス(FIV)、血糖値、電解質検査をしておくといいかと。

対症療法の目的は、体液保持、電解質バランスを保つことです。重篤な脱水(8~10%以上の脱水;くぼんだ眼、沈うつ、水分摂取不可の状態など)を呈している犬や猫には、静脈内輸液を行いますが、軽い場合は、経口輸液や皮下輸液で十分です。

止瀉薬(下痢止め)の投与は、糞便中への体液、電解質の過剰な喪失が問題になる場合以外は、不要です。ただ、飼い主は下痢を止めて欲しいと思っているので、よく問診しながら判断しましょう。止瀉薬が5日以上必要な場合は、病状を見直して再評価しましょう。

下痢がひどい場合、消化管を休める目的で、絶食させることがよくあります。食事をすることで嘔吐や激しい下痢が起こり、体液が喪失される症例では、とくに一切の経口摂取は中止する方がいいでしょう。しかしながら、食事によって下痢や嘔吐が悪化しない症例に対しては、少量の消化のよい食事を与えた方がいいでしょう。少量の食事を腸内に入れることで、腸の回復を助け、細菌に対する腸の粘膜バリアーの崩壊を予防できます。臨床徴候が改善したら、5~10日以上かけて、徐々に元の食事に戻していきます。

発熱、好中球の減少、敗血症ショックを呈する動物には、広域スペクトル抗菌薬(βラクタム系・アミノグリコシドの併用)を行います。抗菌薬は下痢を助長する可能性があるので、動物の状態をよくみながら投与しましょう。

若齢の動物、下痢で痩せた症例、敗血症の併発、寄生虫の感染がある場合には、予後にも注意すべきです。特に、若齢動物での低血糖はすぐに対処しましょう。5%ブドウ糖液の静脈内輸液や、50%ブドウ糖液を静脈内bolus投与(2~5mL/kg)が必要です。

 エンテロトキシン(腸管毒)

エンテロトキシンというのは、細菌が産生するタンパク質毒素のうち、腸管に作用して生体に異常反応を引き起こす毒素の総称です。病因となる細菌が特定されることは、ほとんどありません。

重度で、粘膜の出血を伴った下痢を、急に発症します。嘔吐もよくみられます。重篤な症例は、腸の粘液が筒状に剥がれ落ちて、糞便中に大量に混じっていることがあります。急性腸炎に比べて状態は悪くなる傾向があって、発症の早い段階でショック症状を示すことがあります。

血液検査で、好中球を主体とした白血球の増加と左方移動が認められると、この疾患を疑ってみましょう。消化管寄生虫も検査しておきましょう。

治療は、積極的な静脈輸液を行って、広域スペクトルの抗菌薬を加えて投与します。

 食物誘発性下痢

食物が原因となる下痢は、低品質の食事の摂取、細菌性エンテロトキシンやマイコトキシン、食事性アレルギー、消化不良で生じます。若齢動物でよくみられます。若い動物は、小腸の吸収上皮細胞にある刷子縁が、新しい食べ物に適応するまで、特定の栄養分を消化・吸収できないために起こります。食事が変わると、中高齢の犬や猫でも同様のことがおこるために、消化不良が起こります。

食物誘発性の下痢は、小腸の機能異常であり、糞便中には血液も粘液も含まれません。下痢は、新しい食事に変えて1~3日程度で起こります。
消化管内寄生虫は、直接の原因でなくても影響を与えていることがあるので、常に検査を実施しておくべきです。

高消化性の食事を、少量ずつ、何回かに分けて与えてやると、2~3日もすれば改善します。その後、徐々に元の食事に戻して下さい。


感染症下痢

 パルボウイルス感染症

パルボウイルスの感染による腸炎が下痢を引き起こします。下痢だけではなく、嗜眠、食欲不振、嘔吐もみられます。下痢は重度で、独特の臭いがあります。疑いがあれば、糞便中に排出されたウイルスを検出する抗原キットがありますので、検査しておきましょう。初期には陰性となることもあり、気になる限りは何度か検査しましょう。10日~2週間程度でウイルスの排出がなくなります。

パルボウイルスには2つの型があって、2型が典型的なパルボウイルス性腸炎の原因ウイルスです。糞便からの経口感染で伝播します。感染後、5~12日で発症し、骨髄前駆細胞や消化管陰窩上皮に侵入して、組織を破壊します。

症状の重さは、感染ウイルス量、宿主の免疫力、年齢、寄生虫感染の有無や他の疾患の感染に左右されます。ウイルスが腸管の陰窩上皮を破壊して、絨毛の破壊、下痢、嘔吐、消化管出血、二次的な細菌感染が起こります。炎症によって、二次的に消化管からの蛋白喪失が起こって、低アルブミン血症が認められることもあります。
骨髄前駆細胞も傷害を受けますので、好中球の減少が起こって、体が細菌感染を生じやすい状態になります。消化管の障害で、細菌が全身に播種しやすい状態では、発熱や敗血症性ショックが見られることがありますので注意しましょう。

母子感染した子犬や、生後3週齢前後に感染した子犬は、心筋炎を起こす(パルボウイルス性心筋炎)こともあり、あっという間に死に至ります。
一方で、たまに、軽度の症状を示さない犬や、無症状の犬もいます。

パルボウイルス感染症の治療方針

輸液点滴



静脈の確保
30~40mEq/Lの塩化カリウムを含む電解質の投与。
60~80mL/kg/日の液量で点滴を行う。
低血糖や敗血症性ショックを呈していたら、5%ブドウ糖液にて点滴。
抗菌薬

発熱、好中球減少に対する処置。
予防的な処置として投与してもよい。
制吐薬

メトクロプラミド: 持続点滴が効果的。
H2受容体拮抗薬: 胃腸障害に対する効果を期待する。
二次性の食道炎

嘔吐に加えて吐出を起こしている場合に。
H2受容体拮抗薬を投与する。
栄養補給

嘔吐が止ったら経口的な栄養補給を行う。
食事ができないなら、経鼻カテーテルにて強制給餌を。
経過観察






1日2~3回は状態を観察すること
毎日、体重測定を行うこと
カリウム濃度測定(1~2日毎)
蛋白濃度測定(1~2日毎)
血糖値(1日2~3回)
ヘマトクリット値の測定(1~2日毎)
白血球数測定(1~2日毎)
特効薬



タミフル(2mg/kg、BID):
  機序は不明。
  少量の水に溶解して口腔内に塗布。
  できるだけ早い時期から投与を開始して5日間継続。
  •  治療
    •  基本的な治療は、急性腸炎と同じで、対症療法です。輸液や電解質治療が重要で、通常は抗菌薬治療も併用します。症状が出てから5日間が勝負です。そこまで維持できれば生存できます(放っておいたら死ぬ)。その後は、生涯、免疫を獲得します。後遺症で腸重積が起きることがあり、持続性の下痢の原因になります。
    •  不十分な輸液、過剰な輸液、低血糖への対処不足、不十分なカリウム補給、敗血症への対応、寄生虫感染や腸重積の併発を見過ごすと、予後が悪くなります。
    •  二次的な細菌感染による発熱や敗血症ショック、好中球の減少がみられていたら、抗菌薬を必ず投与しておきましょう。第一世代の抗菌薬(セファロスポリン)で構いません。エンロフロキサシンも併用する方が効果的ですが、若齢動物にエンロフロキサシンは副作用があるので、あまり用いたくないですね・・・
    •  嘔吐には、メトクロプラミドを点滴に加えて持続的に投与すると効果的です。
    •  過度の嘔吐で食道炎が起こっている場合は、H2受容体拮抗薬(シメチジンやファモチジン)を投与します。胃腸障害への効果も期待して、同時に嘔吐が治まるとラッキーです。
    •  可能なら、液状の食事を少量でも、経鼻チューブを介して投与してあげましょう。消化管の回復を助けてくれます。嘔吐が止まって、経口的に給餌可能なら、口当たりのよい食事をさせます。できなければ、非経口栄養補給を続けましょう。
    •  機序はわからないのですが、経験的に、どうやらタミフルが効果的なようです。可及的速やかに、2mg/kgで1日2回の投与を開始してみましょう。5日間継続投与して、維持できれば。以前は、猫インターフェロンを2.5×10e6 units/kgで静脈内投与してました。

回復後、2~4週間は、糞便の処理には細心の注意を払っておきましょう。他の犬への感染を防ぐには、ワクチンで予防することです。通常、5週齢以下の子犬は、母子免疫があって、パルボウイルスに対して耐性がありますが、以降はワクチン接種を行って、免疫獲得をしておくべきです。
仮に、多頭飼いの犬の中で、パルボウイルス性腸炎の発生がみられたら、その他の犬には、ブースターワクチン接種を行うのが合理的です。パルボウイルス単味ワクチンがありますので、接種しておきましょう。そういう意味でも、予防をしっかりと、年に1度の混合ワクチン接種はお忘れなく!

パルボウイルスは、環境中で長期間(数ヶ月)、生存可能です。ですので、ウイルスへの暴露を完全に防ぐのは困難です。症状がない犬でも、病原性の2型パルボウイルスを糞便中に排出している可能性もあります。
つまり、ワクチンの予防接種が大変重要、ということです。日本では、まだまだ1年に1回のワクチン接種が必要ですよ。

猫も、パルボウイルス性腸炎が起こりえます。犬とは別のタイプのウイルスが原因です。しかしながら、感染猫の多くは症状を示さないので、犬ほど、特別に警戒することがありません。発症すると、犬と同様の経過を辿るので、治療も犬の場合と同様です。対症療法で維持して、敗血症を防止すれば、予後も良好です。

 コロナウイルス感染症

犬のコロナウイルス性腸炎は、コロナウイルスが、小腸絨毛の成熟細胞に侵入して破壊することで、下痢を起こす疾患です。小腸の陰窩には影響を与えないので、絨毛は比較的速やかに再生します。骨髄細胞も影響を受けません。

従って、パルボウイルス性の腸炎に比べると、はるかに軽症の下痢で済みます。出血性の下痢や敗血症を起こすことも、ほぼありません。急性腸炎の場合と同様の対症療法で処置すれば、1週間程度で完治します。若齢犬では、脱水、電解質異常で死亡することがあるので、注意しましょう。他の疾患が併発すると、当然ながら危険度は増します。

輸液、消化管運動調節薬と日にち薬で回復します。
ワクチンで予防できる疾患(犬)ですので、これも混合ワクチンの接種をお忘れなく。

コロナウイルスの感染は、犬より猫で問題となることがあります。
通常、猫は無症状です。子猫では、軽度の下痢と発熱が一過性に起こる程度で、予後も問題ありません。

しかし・・・感染した猫は、コロナウイルスを糞便中に排出することがあり、コロナウイルスの感染力はそれほどでもないものの、他の猫に伝播する可能性があります。体内で、猫コロナウイルスが変異すると、猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症する可能性があります。発症してしまうと、不治の病ですので、覚悟をしてください。

 猫白血病ウイルス(FeLV)による下痢

FeLVに関連する汎白血球減少症様症候群(骨芽球減少症)は、FeLVと猫パルボウイルスの共感染で起こっている可能性があります。消化管病変の病理所見がパルボウイルスによる病変に類似してることから、そう考えられています。骨髄やリンパ節に病変はないようですが。

症状は、慢性的な下痢、嘔吐、体重減少が一般的です。大腸性下痢です。慢性的な下痢を示す猫で、FeLV陽性なら、この疾患が疑われます。好中球を同時に調べて、減少していると、この疾患と考えられます。貧血がみられることもあります。

治療は、対症療法を行いますが、FeLV関連疾患なので、他の病変が併発すると、予後は悪くなります。下痢に対しては、水分補給、電解質の補充、抗菌薬投与、制吐剤投与、高消化性食の給餌、寄生虫感染があればその治療を行うことにより、有効な場合が多いので、しっかり治療をしてやってください。

 猫免疫不全(エイズ)ウイルス(FIV)による下痢

FIVは重篤な細菌性結腸炎と関与することがあります。機序はわかりません。いろんなことが体内で起こっているんでしょうね。起こる大腸炎は重篤で、大腸が破裂することもあります。

治療は対症療法です。水分の補給、電解質の補充、制吐剤の投与、抗菌薬の投与、高消化性の食事の給餌が基本的な処置です。
FIVに関連する疾患ですので、長期的には予後不良ですが、数ヶ月間、維持できる猫もいます。