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消化器系の疾患/腸の疾患/消化・吸収不良性疾患

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消化不良性疾患・吸収不良性疾患

消化不良性疾患(膵外分泌不全症)

膵外分泌不全症は、主に犬にみられます。慢性的な小腸性下痢、異常な食欲、体重減少が典型的な所見です。暗青色を帯びた灰色の脂肪便がときおり見られて、下痢をしてなくても体重の減る犬がいます。

疑ったら血清トリプシン様免疫活性(TLI)を測定することです。異常な低値があれば、この疾患と考えていいかと思います。治療には、食事とともに消化酵素(パンクレアチン)を投与すること、低脂肪の食事に切り替えるなど、があります。

詳細は、膵外分泌疾患のページへどうぞ。

吸収不良性疾患

 抗生剤反応性腸症

十二指腸や空腸に、過剰な細菌が存在する疾患です。細菌増殖の原因は、食物が滞留してしまう解剖学的欠陥がある、腸粘膜疾患、胃酸量の低下、IgAの欠損、H2遮断薬投与による影響などです。増殖する菌は、食物由来であったり、口腔内の細菌です。

下痢や体重減少、嘔吐が症状に見られます。
診断は困難ですが、経験的に治療を行って反応性によって判断するしかありません。治療は、抗菌薬の投与と基礎疾患の排除です。腸管の閉塞や停滞を改善してやりましょう。

菌は何がいるかわからないので、広域スペクトルの抗菌剤を投与します。タイロシン(10~40mg/kg、BID)が効果的です。メトロニダゾール(15mg/kg、BID)とエンロフロキサシン(10mg/kg、SID)の併用も有効です。投与期間は2~3週間を目安にします。症状が繰り返して現れる症例に対しては、抗生剤の投与は長期間、もしくは無期限に必要となることもあります。おそらく遺伝的な要因でしょう。治癒ではなく、疾患のコントロールが目標になります。

同時に、高品質で消化吸収のいい食事を用いることで、薬の効果が増します。食事にお金を掛けるのは、いいことなので、体にいい食事を与えてあげましょう。医食同源、フードにお金を掛けると結局、医療費は安くつきます。

 食事反応性疾患

食物アレルギーや食物不耐性によって起こる疾患です。食事中に含まれる抗原に対する過剰反応や、食事中の物質に対する非免疫介在性反応が原因です。嘔吐や下痢(小腸性、大腸性とも)が主症状ですが、アレルギー性皮膚炎を併発していることが多いのが特徴です。

試験的にアレルゲン除去食に食事を変更してみて、反応を示せばこの疾患と考えていいかと。そのまま、その食事を与えたら治療にもなりますが、食事を変更して栄養バランスが崩れないように注意しましょう。

アレルゲン除去食に対して、新たなアレルギーを獲得してしまう症例があるので、毎月食事を変更する必要が出てくる場合もあります。

 小腸の炎症性腸疾患

炎症性腸疾患は、犬や猫の消化管のどの部分でも起こりうる疾患です。原因は明確ではないですが、細菌や食事に含まれる抗原に対する免疫反応が一つの原因であることは示唆されています。

炎症性疾患なので、他の疾患を除外して、診断します。リンパ球形質細胞性腸炎は、最もよく診断される炎症性腸炎の疾患ですが、消化管型のリンパ腫と似た所見でもあり、鑑別は非常に難しいのですよ。
好酸球性胃腸結腸炎は、特定の食事に対するアレルギー反応でみられる腸炎で、炎症性腸疾患とは異なるのですが、必ずしも食事の変更で改善がみられない疾患でもあるために、炎症性腸炎に分類しています。猫では好酸球増加症の一部として好酸球性腸炎がみられることがあります。これも診断が難しく、リンパ球形質細胞性腸炎と似た症状で、好酸球の増加が認められたら、疑いましょう。

リンパ球形質細胞性腸炎では、慢性の小腸性下痢がみられます。便が下痢でなくても、体重の減少することがあります。十二指腸に疾患があると、下痢ではなく、嘔吐が見られます。

犬のリンパ球形質細胞性腸炎の治療では、炎症性腸炎が食事不耐性や抗生剤反応性腸症であるかも知れない、と考えて、まず、アレルゲン除去食と抗菌薬の投与を始めます。症状が重く、その治療に反応が悪ければ、メトロニダゾールやプレドニゾロン(2mg/kg/日)を併用投与します。さらに、重篤な症例で低アルブミン血症がみられる場合には、免疫抑制剤(シクロスポリン)の投与が必要です。これらの治療の反応が悪い場合、リンパ球形質細胞性腸炎と思いきやリンパ腫であった、という可能性があります。

猫のリンパ球形質細胞性腸炎の治療は、犬の場合と同様に、まず、食事の変更を行い、プレドニゾロンを投与します。削痩している猫に対しては、強制給餌や栄養サプリメントの補給が必要です。

犬の好酸球性胃腸結腸炎の治療は、低アレルギー食もしくは高品質のフードを主体にした食事に変更し、改善がなければ、ステロイドの投与を始めます。猫も同様の治療を行いますが、ステロイドの投与量が高用量になります。プレドニゾロンを4~6mg/kg/日で投与を始めます。それでも、反応が悪いこともあります。

治療に良好な反応がみられても、2~4週間は治療を継続しましょう。その結果、確実に、投薬による治癒であると判断できれば、ステロイドを漸減して行きましょう。症例が重篤になると、内服が長期に亘るため、医原性のクッシング症候群を避けるために必要な処置です。
犬や猫が、錯綜する前に治療を開始できれば、予後は良好です。

 大腸の炎症性腸疾患

難治性の大腸性炎症性腸疾患は、クロストリジウム性大腸炎であったり、寄生虫、食事不耐性、繊維反応性の下痢であることがほとんどです。その他では、リンパ球形質細胞性大腸炎も大腸性の下痢を起こします。

犬の大腸性の下痢は、血液や粘液を含んだ下痢や軟便を示します。体重の減少はありません。基本的に便が緩いこと以外は健康です。猫では、血便が多いのが特徴です。大腸の炎症性腸疾患は、比較的、予後良好です。

治療は、ステロイド、メトロニダゾール、スルファサラジン(サルファ剤)を使います。ステロイドやメトロニダゾールの単独でも有効なことがありますし、サルファ剤を低用量で併用すると、より効果的なこともあります。低アレルギー食や高繊維食は、非常に有効です。但し、免疫抑制療法を行う前には、結腸の真菌感染を除外しておきましょう。

猫でも、食事を低アレルギー食や高繊維食にすると効果的です。猫のリンパ球形質細胞性大腸炎は、ほとんど食事に関連するものです。プレドニゾロンやメトロニダゾールによく反応します。

 肉芽腫性腸炎

犬ではあまり見られず、症例の報告もほとんどなく、治療法もありません。予後もよくありません。おそらく、下痢症状があって、検査をすると腸に肉芽腫があって、外科的に切除して、病理検査の結果、肉芽腫だった、ということでしょう。

猫は炎症性腸疾患の病型で、蛋白喪失性腸症、下痢、体重減少の原因になります。治療には、高用量のステロイドに反応しますが、ステロイドを減量すると症状が再発します。予後警戒です。

 その他、犬種特異的な疾患

  •  免疫増殖性腸症(バセンジー)
    •  小腸への多数のリンパ球、形質細胞の浸潤が認められて、絨毛の癒合、軽度の乳び管拡張、胃粘膜皺の肥厚、胃粘膜萎縮、リンパ急性胃炎などが認められます。
    •  リンパ球形質細胞性腸炎のような症状を示します。ストレスで悪化します。小腸性下痢や、嘔吐、食欲不振、体重減少があります。
    •  高消化性の除去食、抗生剤反応性腸症に対する抗菌薬やステロイドの投与に反応することがあります。反応がよければ数年生存するバセンジーもいますが、発病すると2~3年で死亡します。
  •  チャイニーズ・シャー・ペイの腸症
    •  シャー・ペイに独特の腸症があって、免疫系の異常で起こるようです。下痢や、小腸の機能不全による体重減少が症状で認められます。
    •  アレルゲン除去食と免疫抑制療法、抗生剤反応性腸症に対する治療を併用します。予後、警戒です。