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血液・造血器系の疾患/その他

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その他の疾患

高蛋白血症

高蛋白血症が確定したら、相対的な上昇なのか、絶対的な上昇か、を判断しなければなりません。相対的高蛋白血症は、通常、赤血球増加を伴っていて、脱水による血液濃縮によって引き起こされます。高蛋白血症を評価する際に、アルブミンとグロブリンの比率をチェックしておきましょう。相対的高蛋白血症では、アルブミンやグロブリン濃度は基準値を上回りますが、絶対的高蛋白血症ではグロブリン濃度だけが上昇して、アルブミン濃度は減少します。肝臓での合成能は、すでに最大になっているので、高アルブミン血症は起こりません。高アルブミン・高グロブリン状態といのは、脱水か、検査不備のどちらかです。

画像の説明

蛋白は、電気泳動をさせると形状、電荷、分子量に従って移動します。移動後に、泳動ゲルを染色すると、6本のバンドが検出されます。陰極に近いほうから、アルブミン・α1グロブリン・α2グロブリン・β1グロブリン・β2グロブリン・γグロブリンとなります。急性相反応物質はα2分画に移動して、免疫グロブリン(Ig)や補体はβやγ分画に移動します。Igの移動は、IgA、IgM、IgGの順序で起こります。α2分画から始まって、陽極側に移動していきます。

グロブリンの産生増加はさまざまな病態で起こりますが、炎症性・感染性疾患と腫瘍が主な原因です。炎症や感染では、肝細胞が急性相反応物質と呼ばれる様々なグロブリンを産生して、α2やα1分画の上昇がみられます。肝細胞は、急性相反応物質を産生する状態になっているので、アルブミンの産生ができなくなっています。そのため、低アルブミン血症が起こります。さらには、免疫系が様々な免疫グロブリンを産生しますから、α2、β、γ分画やそれらの複合的な上昇が引き起こされるわけです。

免疫系は、細菌に対して、細菌それぞれの体細胞抗原に対する抗体を産生することで反応します。なので、リンパ球/形質細胞のいくつかのクローンは、同時に特定の抗体分子を産生するように教育されています。それぞれのクローンは、1つの特定抗原に対して1種類の抗体しか産生しないように、遺伝子に組み込まれています。その結果、免疫刺激は、βおよびγ分画に多クローン性の帯として現れます。この他クローン性の帯は、幅広くて不整形です。免疫細胞によって産生されるほとんどの免疫グロブリンや補体がここに含まれます。なので、典型的な炎症性・感染性疾患の電気泳動では、軽度に減少したアルブミン濃度と、α2とβ・γ分画の上昇が特徴的です。

免疫細胞の一つのクローンが同じ型の免疫グロブリン分子を産生すると、単クローン性高γグロブリン血症になります。分子が全く同一なので、βもしくはγ分画で、狭い帯として泳動されます。多発性骨髄腫やリンパ性白血病、リンパ腫に特徴的な所見です。猫では、FIPでこの特徴的な単クローン性高ガンマグロブリン血症を認めることが一般的です。

高ガンマグロブリン血症に対しては、原疾患を対象にした治療が必要です。

不明熱

診断ができない、明らかにならない発熱を、不明熱、と定義しますが、非常にあいまいな表現です。わかりません、って言ってるようなもんですから(笑)。目安としては、抗菌薬治療に反応せず、一般的な検査(血液検査と尿検査)を行っても診断がつかない発熱を、不明熱と考えていいのではないでしょうか。

通常は、発熱があると、何らかの感染があると考えます。多くは、非特異的な抗菌薬治療に反応します。ところが、どんなに頑張っても原因を特定できないことがあります。もうこれは、どうしようもないのですが、疫学的データからは、最も一般的な原因は感染症で、次いで免疫介在性・腫瘍性、その他では代謝性の疾患などが考えられます。

 診断アプローチ

しっかりとした問診と検査の後、試験的な治療を行って様子を見ていくことが、基本手順です。ダニやリケッチア、住血寄生虫の確認、テトラサイクリン系の抗生剤の投与歴、全身性の真菌症のチェックを行います。発熱を引き起こす感染性、腫瘍性の疾患は、リンパ網内系臓器が侵されることが多いので、検査では特に注意して評価することが重要です。

口腔咽頭部についても、十分な指針と触診を行って、咽頭炎、口内炎、歯根部膿瘍の有無を調べましょう。若い犬は、肥大性骨異栄養症のような代謝性疾患でも、骨痛とともに発熱の認められることがありますので、骨の注意深い触診を行います。多発性の関節炎の可能性もあるので、すべての関節の触診と可動性を調べておきましょう。髄膜炎や他の中枢神経系疾患を確認するための神経学的検査も泌世です。高齢の猫では、甲状腺の腫大や結節の有無を確かめることも忘れずに行いましょう。

心雑音の有無を調べたり、エコー検査をしたりして、細菌性心内膜炎の可能性も考えます。FIPやエールリヒアでみられる脈絡膜網膜炎によっても発熱しますので、眼検査も必要な場合があります。血液検査や尿検査で感染を示唆する所見があればいいのですが、院内検査でわからなかったら、検査機関で詳細な血液学的検査をしてもらうといいと思います。

発熱との因果関係で結び付けにくいのが、多発性関節炎です。全身性免疫介在性疾患の唯一の症状が多発性関節炎であることがありますので、疑いがあれば、関節液を採取して細菌培養などを行ってみましょう。

 治療

最終的に判断がつかない場合が、不明熱の「不明」たる所以なので、試験的な治療を開始するしかありません。抗菌薬や抗真菌薬の投与と、免疫抑制量のステロイド投与が選択されます。

注意しなければならないのは、ステロイド投与による有害反応が起こることで、検出されていない感染に罹っていた場合、治療によって病原体が全身に広がって、最悪のケースでは死亡することもあります。ステロイドの試験的治療を開始するときは、入院管理を行いながらの治療が賢明だと思います。症状が悪化したら、すぐにステロイドの投与を中止します。

幸い、原因が免疫介在性の疾患などステロイドに反応性の疾患であったなら、治療開始24~48時間以内に症状は消失します。

ステロイドに対しても反応がないなら、非ステロイド系抗炎症薬などの解熱剤を処方して、1~2週間以内に、再検査を行ってみます。但し、発熱は生体の防御反応の一つですから、むやみに体温を下げるのは有害なこともありますので、解熱剤の使用には注意が必要です。消化管潰瘍などの出血性の副作用も忘れずに。

他では、抗菌薬を組み合わせて1週間程度、様子をみる、ということでしょうか。アンピシリンとエンロフロキサシンという感じです。それでも、効果がなくて原因のわからないのが不明熱なんで、あまり期待はできませんが・・・


再発性感染

液性免疫不全は、多くは上部、下部呼吸器系の再発性感染や、皮膚炎、腸炎を引き起こします。遺伝的に免疫グロブリンA(IgA)が欠損しているビーグルがいて、原因不明の大発作を起こしたり、免疫介在性疾患に罹患し易い傾向があります。細胞性免疫不全の発生は少ないのですが、これも遺伝的なものと考えられて、ワイマラナーの下垂体性矮小症やブルテリアの致死性肢端皮膚炎などが、T細胞異常に起因して起こるようです。

食細胞系の免疫異常は、末梢血液中の食細胞数の減少に起因するものや、食細胞の異常機能によるものがあります。好中球が形態的に異常を来たしている場合があります。細胞膜上の接着蛋白が欠損すると、臍静脈炎、歯肉炎、リンパ節炎、膿皮症、呼吸器感染、子宮蓄膿症、劇症敗血症などの再発性感染が認められます。

複数の免疫系が侵されると、重度の発育不全を呈して、早期に死亡します。IL-2レセプターをコードする遺伝子の変異で起こるようですが、IgGとIgA濃度が低下して、フィトヘマグルチニン刺激に対するリンパ球の幼若化反応が著しく低下します。

診断
感染性病原体の種類と感染様式は、免疫系の欠損状態で左右されます。液性免疫欠損では、化膿性細菌の感染を引き起こします。T細胞の機能異常は、ウイルス、真菌、原虫の感染を招いて、全身に進行します。食細胞系の異常は、化膿性細菌や腸内細菌による皮膚、呼吸器、髄膜や全身の感染を引き起こします。感染の具合を調べることで、どのような検査を行うのか、をある程度判断できると思います。

治療
再発性感染を呈する犬や猫に対する治療法は、感染病原体を同定して感受性試験を行った上で、適切な抗菌薬を使用することが大切です。病原体を同定できなくても細菌感染の症状を呈しているなら、白血球細胞内で高い濃度に達する殺菌性抗菌薬を用いるといいと思います。サルファ合剤やエンロフロキサシンなど、です。

免疫不全が疑われる症例では、ワクチン接種にも気をつけないといけません。重度の免疫不全があると、生ワクチンによる病気を引き起こす可能性がありますので、使用は避けましょう。治療には、免疫賦活剤が有効なことがあります。